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ロズタリア大陸、外伝『工芸都市』

コンシュテール公国、魔道都市『協定本部』

書籍や書きかけの羊皮紙やらが、机の上にうず高く積み上げられている。
椅子に深く腰かけて、灰青色の髪をだらしなく肩に結い止めただけの二十代前半を思わせる女性が商業都市駐在中の魔道師から送られてきた定例報告の羊皮紙を真剣な様子で、読み耽っていた。
「厄介だな……」
一人ごちりながら、隣の机で事務仕事中の金髪青年に羊皮紙を掲げ見せながら話しかける。
「おい、フィン!こいつ、どう思う?」
既に報告内容そのものは目を通してあったのだろう。
補佐官として同行してきた魔道師の彼は、作業の手を止めて、彼女のところへと歩き寄ってくる。
「魔獣復活ですよね、間違いなく……」
苦虫を噛み潰したように苦渋の様子を浮かべる。
「どうしますか……議長?
僕らがお世話になってるここ、コンシュテール公国も他人事じゃないですよ……」
「あぁ、レイフの野郎……精霊とか経験はあっても魔獣や破壊神の備えなんて全然してねぇぞ!!」
先代当主から預かった遺言すら紐解いてすらいない。下唇を噛み、女性が体たらくぶりを懸念する。
「いま、狙われたら……ぜってぇ、うちらだけじゃ防ぎきれねぇ!!」
「レイフさんや近衛隊長に聖戦復活の予兆が見られる、魔獣に対する備えは一応、提言してみますけどねぇ~……」
現場の近衛兵士だけでも小鬼や狼程度ならば、白銀の剣に女神言語ガレス・スフレクト 」を刻むことで殲滅は可能だと訴えて、製造や保管はしておくこと。
実行するか?は当主である彼自身の決断となる。民を護る手段となることを説明すれば、備えてくれるのでは??
そう訴えるフィンの推測を大公の親友でもある彼女が口調や態度を真似しながら退ける。
「えぇ~?いまこの時期に軍事増強??
しかも鉄より折れやすい白銀?
ごめん、それなら装飾品はダメなの??」
美術品として輸出、販売の路線ならば他国からいらん勘繰りをされずに済む。
「あぁ……確かにレイフさんなら、そんな反応なさりそうですね」
苦笑まじりに上司の考えに同意する。
そして、フィンは頬を人差し指で軽くかき、どう対策すべきか?思案する。
「ですが、今回の件……真実と前提として考えた場合、無策は都市の!
そして住民の皆さんの壊滅を意味します。
どうにかしてレイフさん、そして政務長官など重鎮の皆さん達の理解と同意を得なければなりません……」
そこに突如、十二~四歳ぐらいの少女が出現して話に加わってきた。
「既に大地の長から話は聞いている。
首謀者は大陸中央の王国統治者にまんま治まっている、とのことだ」
当主として少なからず因縁があるのでは??
黒髪の少女が提言する。
「クラヴィスの野郎なぁ~……」
それでも当主は前向きにならない。議長である彼女がそう懸念する。
「あいつの事だから、すぐに反転攻勢に出るだろうけど王国に出撃→留守中、エレナの誘拐または都市壊滅ってのがオチだな」
出兵中に魔獣達が都市部に出現!壊滅する未来を予測する。
「ふむ。では、わらわはエレナの側で守護を務めようぞ」
女性は思いたったが即、行動あるのみ!!
ガタっと勢い良く椅子から立ち上がり、書物や羊皮紙、空になったビンが転がり落ちる部屋の中をズンズン歩き始める。
「なんとしてもあのアホ、説き伏せねぇとならねぇ!いくぞ、フィン!!」
黒髪の少女も後に続く。
「おう!」
補佐官である、彼はどう説明して理解得るか?考えてから……予約とりつけて話をしようと考えていた。
「えっ?今から直談判ですか!?
ちょ、ちょっと待ってください、議長~!」
置いていかれかねない!!慌ててフィンが後を追っていく。


勇者ウィルヘルムの親友だったホルステッドの末裔

「構わないよ」
どう現実と魔術的な意味での軍備増強を賛同得られるか?考えあぐねていた3人は、やけにあっさりと同意してみせた工芸都市を統べる若き青年大公の返答に、唖然とする。
「へっ?」
茶色い髪を一房だけ肩まで伸ばした、若い乙女が見たら思わず、うっとり見惚れてため息をもらすほど顔立ちが整った美形青年は、執務室で三人の話を一通り聞いて即答してみせたのだった。

すんなり承諾する若き大公の態度を拍子した様子で議長は唖然とする。
「な、なんで?
こういっちゃ、なんだが……レイフ、お前が一番、この手の話、抵抗すると思ってたんだけど??」
すんなり同意した理由を眉間に深く皺を寄せて、自分でもよく分からない『違和感』や『危機感』を抱いているのを明かす。
「なんでだろうね?
僕自身、よく分からない。
ちょうどいいや、アーシュ。
実はここ数日、変な夢を立て続けに視てるんだよね。どういうコトなのか?
ちょっと教えてくれる??」
「レイフ様、そうだったんですか?」
大公の護衛として執務室室の傍で立って警備する赤い髪をした体格のよい青年が『知らなかった……』そう言わんばかりの意外な表情をする。
「あぁ……シュテール山が噴火する光景だったり、住民が逃げ戸惑う夢がしばらく前から時々、視るようになったんだ」
とはいえ、夢だけでなく現実でも鍛冶職人や鉱山が好きで継承権を放棄した長男などから寄せられている異変や報告があがっていることも理由だと告げる。
「リック兄や山の麓で作業してる鍛冶職人や猟師達から山の様子がおかしい!って陳情されてきてるんだよね」
そう言って、若き青年大公であるレイドルフは後ろの壁にかけられている数本の紐のうち、一つを引っ張り音声筒である蓋を開けて緊急会議を開く旨を政務長官に伝える。
「ジェームス、悪いけど政務長官達全員、ここにくるよう伝えてくれる?」
初老の男性がすぐに快諾する。
「かしこまりました」
大公が聞かれたくない人払いを護衛に命じる。
「ランス、そういうことだから悪いけど長官が入室次第、一旦入口を守ってくれる?」
そうして、アーシュ達、魔道師や公国を守護する精霊ディア達に少し離れた場所に置いてある数人掛けのソファをすすめる。
「立ち話もなんだから、お互い座ってゆっくり話そうか?」

まもなくして小柄な老人や眼鏡をかけた気難しいそうな男性など数人がドアをノックして続々と入室してきた。
「失礼致しますぞ」
続けて執事のジェームスが人数分のグラスを持ち、冷たい飲み物を注いでいく。
氷の術は魔道師であるアーシュやフィンが駐在してくれた恩恵の一つだった。
感慨深そうに大公であるレイフがアイスティーを飲みながら、向かいに座っている三人に話す。
「思えば、この氷だって君達が協定を持ちかけてくれたおかげだ。
夏の暑い日にこうして室内が冷気の魔術で快適な温度に保たれ、喉を潤すことが出来る」
そうして真剣な眼差しでアーシュやフィン、公国の守護精霊を見つめてキッパリと断言してみせた。
「最早、コンシュテール公国にとって魔術は欠かすことの出来ない生活の一部となっている!
その影響?または別の原因でなにかバランスとかが崩れて現実に大きな災いをもたらす!と君達は僕に言いにきたんだろう?」
現実的な対策は何か?
政務長官達とローズテリア王国内での簒奪劇、商業都市の異変など、コンシュテール公国内で同様の被害や、想定しうる被害状況、対策など具体的な内容をじっくりと話し合い始めたのだった。

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