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ロズタリア大陸2作目『その18』

『初めてのともだち!?』

代理統治とはいえ、ちゃっかり王国の支配者に治まっているクラヴィスは、恐らく二千前の聖魔戦争の再現が狙いだとアーシュが仮説を論じる。
過去、ローザに尋ねたようにシャールヴィは胡座をかいた楽な姿勢のまま人間の欲深さを指摘する。
「なぁ……簒奪して得た権力を維持する為に邪神復活!とやらを企んでいる可能性はないのか?」
アーシュが怪訝そうに、クラヴィスが執拗にコンシュテール公国を狙い続けている理由を自身の仮説を交えて、羊皮紙に勢力図を描きながら話す。
「クラヴィスの奴、どういう訳か?
コンシュテール公国で産出される鉄鋼石、つまり武器調達を目論んで、ちょくちょく手下の野郎達を送りこんできてんだよ……」
単に自分が簒奪した権力維持だけが目的ならば【賛同者(貴族や商人など有力者)】を抱き込むだけで事足りる。
「まだ仮説の段階だが、仮に……
仮にだぞ??
大陸統一の野望かなにかの達成が最終目標だとしたら、冥府に封印してる神に相当な生け贄が必要になってくる。
それはつまり、各都市にまんべんなく戦争!という形で喧嘩売りまくって大量の人間の血を流す!という、かなり強引なやり方になる」
折角、苦労して得られた富裕層達の支援を失う危険性のほうが高い!
難しそうに近衛の一人が一人ごちる。
「もし、そうなるとローズテリア王国はうちだけでなく学術、医療、芸術、商業都市……全方向から一斉砲火!反撃されて壊滅しますね」
「な?あり得ないだろ??」
アーシュが膝に腕をおき、答える。
「でもよぉ~……、もしもだぞ?
大陸の統治が目的じゃなく、なんか聖戦時の末裔達に個人的な恨みを抱いてて、身の破滅や嫌がらせ!が目的なら、あたしはな~んか妙に納得すんだよね……」
別の近衛が真剣な様子で真意を尋ねる。
「と、仰いますと??」
「レイフの奴の結婚式やら夏の合宿など頻繁にエレナを誘拐しようとしてる件といい、大勢の王国民が見守っている中、自分が持っていた聖剣とやらの鞘を引き抜いて真の勇者の末裔だと示して国王こそがニセモノ!だと貶めて辱しめた後、首を自らの手で斬り飛ばしてやがるんだろ……?」
二千年前の聖戦の復讐が目的ならば、医療都市の大公家及び当主本人の名誉すら間違いなく貶めてくるに間違いない!
「そもそも神器【女神の鏡|《ガレス・スフィーゲル 》】紛失や破損してました!!なんて事態が明るみになったら、奴の場合、適当な台詞抜かしつつ、確実に当主としての管理責任を問うてくる!と思わないか??」
合点した近衛がポン!と軽く手を打つ。
「なるほど!!」
そこをシャールヴィが浮かんだ疑問を投げかける。
「もし末裔の名誉などを傷つけるのが目的だった場合、どうして奴は俺を執拗に貶めてこないんだ??」
呆れがちにアーシュは元々、クラヴィスと争う意思をシャールヴィ自身が見せなかった過去を指摘する。
「お前さん、もしかしなくても世間でどぉ~噂されてたのか知らないな??
親父は酒、息子は賭場と女に溺れたロクデナシ!!ってのが、もっぱら王国や大陸内での評判だったんだぞ??」
自分から地位や身分、信用など落としていった。だからクラヴィスはわざわざそれ以上、仕掛けてこなかった。諭されて理解した。
「なるほど……そりゃ道理だな。
しかも商業都市での俺の数々の所業から、ついたあだ名が【死神殿下】だ」
重要なのは過去を踏まえた上で懲りて改善した現状を行動で『証明』していけばいい。
「ま、そんな訳だから、あたしは別にお前さんが賢者と縁切って今後はうちらに合流、助太刀してくれる!ってんなら【歓迎】するよ?」
よろしくな!
アーシュが屈託ない笑顔で、シャールヴィに対して気軽に手を差し出してくる。
対してシャールヴィはどこかぎこちなさげに、でもなんだかようやく自分の本当の居場所的な場所や師事してくれる人物と巡りあえた縁に対して、微笑み浮かべて強く握手に応じたのだった。
「こちらこそよろしく頼む!
俺のことは借金王やら好きに呼んでくれ」
「あたしはアイリッシュ=クルーガー。
アーシュでいいよ、よろしくな!
シャル!!」
どうやら本当に敵意がない。純粋にお人好しで疑うことを知らず、言われるがまま賢者の言う通り行動し続けていた?
そんなシャールヴィの反応を居合わせた近衛達は、どこか微笑ましく見守ったのだった。



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