すばらしきおかしな世界 6 酒井 章文 2015年4月6日 18:45 すばらしきおかしな世界[前篇] 見わたすかぎりまっ白な雪の野原の上に、雪だるまのスノーウィーは立っていました。 / スノーウィーはまっ白い景色をじっと眺めていました。 そこへ霜柱をこりこりとかじりながら、ツララのツンドランがやってきました。 / 「なにをしているんだい? スノーウィー」とツンドランはたずねました。 / 「やあ、ツンドラン。 ぼくはこの白い景色の向こうにはなにがあるんだろう、と思っていたんだよ」 / スノーウィーは言いました。 ツンドランは口をつんととがらせて言いました。 / 「またそんなことを言ってんのかい? スノーウィー。 なにもありやしないさ。どこまで行ってもまっ白いのさ」 / スノーウィーは納得できない顔をしました。 スノーウィーはそういうところはとてもガンコなのです。 / 「そうかなぁ? ぼくにはきっとまだ見たことのない景色があるように思えるんだよ」 / スノーウィーは言いました。 / 「ひょっとして、ひょんなことを考えてるんじゃあるまいね?」 / ツンドランはあやしんだようにそう聞きました。 「うん。ぼくはあの雪の向こうまで行ってみようと思うんだ」 / スノーウィーは言いました。 / 「よせよぅ。どうせなにも変わらないさ。 そんなことするよりも、ここでおいらと霜柱でもかじりながら かまくらの中でごろごろしていようさ」 / ツンドランはいっしょうけんめいスノーウィーを止めました。 「いや、ぼくはゆくよ。 まだ見たことのないものが、見られるかもしれないもの」 / そう言って、スノーウィーは白い山々の向こうへと行くことにしました。 「やれやれ、仕方ないなぁ。気をつけて行ってくるさ。 あぶないことをしちゃダメさ。それにしんどくなったら帰ってくるさ」 / ツンドランはそう言って見送りました。 / 「ありがとう。行ってくるよ」 / そう言って、スノーウィーは旅立ちました。 真っ白い道をスノーウィーはトコトコと歩き続けました。 / けれど、たくさんたくさん歩いても、景色は真っ白いままです。 / 途中、吹雪いてきたときには、ちょっとだけ「帰ろうかな」とも思いました。 / けれども、スノーウィーは歩き続けました。 一歩一歩歩き続けていると、気がついたときには地面が緑色の草でおおわれていることに スノーウィーは気がつきました。 / 「おやおや。いったいこれはなんだろう? ふかふかしていてちくちくするよ。 それに冷たくもない。なんだかふしぎな感じ」 / スノーウィーは生まれてはじめての感覚に、くすぐったい気持ちになりました。 スノーウィーが草の上をごろごろとしていると、向こうの方から誰かがやってきます。 / 「おや? なにかがやってくる。だれだろう?」 「やあ、こんなところでなにをしているのね?」 / たずねたのは草だるまのグラシーです。 / 「うん。この緑のが気持ちいいからごろごろしていたんだよ」 / スノーウィーは答えました。 「キミはだれだい?」 / スノーウィーはたずねました。 / 「草だるまのグラシーなのね。キミは?」 / 「ボクは雪だるまのスノーウィー。ずっと向こうから歩いてきたんだ」 / 「ふへえ、遠いところからきたのね。すごいや」 / グラシーは感心しました。 二人は草の上でたくさんお話をしました。 / スノーウィーにとってはグラシーのお話が、グラシーにとってはスノーウィーのお話がとてもおもしろかったのです。 / 二人はとても仲良くなりました。 「きみと出会えてうれしかったよ、グラシー。ぼくらはとても仲良しになれたね」 / スノーウィーは言いました。 / 「うん。そうなのね。とても楽しいものね。ずっとここにいるといいのね。それで毎日草の上をごろごろするのね」 / グラシーは言いました。 / 「うん。でもぼくはこの緑色の向こうに行かなくちゃ。そこになにがあるのかを見てみたいんだ」 / スノーウィーは言いました。 「どうもありがとう。またね」 / スノーウィーはそう言って、緑色の風景をあとにしました。 / 「気をつけるのね。それでまたいつでも帰ってくるのね」 / グラシーはずっと手をふり続けていました。 スノーウィーはどこまでも続いているような、ちくちくする緑のじゅうたんの上を てくてくと歩きました。 / 「やっぱりぼくの知らない世界や、出会ったことのない人がいたんだ。きっとこの先にも、もっともっとそういうことが待っているにちがいないぞ」 / スノーウィーはわくわくした気持ちで歩き続けました。 歩き続けるにつれて、今度は地面が茶色く変わっていきました。 / 「なんだかぺたぺたとするなぁ。これまたおもしろいぞ」 / スノーウィーは足を踏みならして土の上を歩きました。 するとどこからともなく、のっしのっしという足音が聞こえてきます。 / 「いったいこの音はなんだろう?」 / スノーウィーは耳をすましてみました。 / 足音はだんだんと大きくなっていきます。 / 目をこらすと向こうの方から何者かがやってきます。 「おやおや、なにやら白い色したのがいるのう。お前さんは何者なの?」 / 「ぼくは雪だるまのスノーウィーだよ。ずうっと向こうの雪野原から緑色の草原を抜けて ここまでやってきたんだ。きみはだれだい?」 / 「おいらは土だるまのアーシー。きみはずいぶんと白いのぉ」 それから二人は土の上をころころ転がったり、土を丸めたりしながら遊びました。 / たくさんお話もしました。 「いやあ、楽しいのぉ。お前さん、ずっとここにいて、おいらと遊んでいようよぉ」 / アーシーはスノーウィーにそう提案しました。 / 「うん。ぼくもとっても楽しいよ。ずっとここで遊んでいたいと思うよ。 でもね、ぼくはまだ見たことのないものをもっと見たいんだ。だからもう行かなくちゃ」 「そうか。ざんねんだのぉ。でもまたきっと戻ってくるんだよう。 おいらのことを忘れたりしちゃイヤだよう」 / アーシーは少しさびしそうに言いました。 / 「忘れたりしないよ。またきっと戻ってくるよ」 / そう言ってスノーウィーはいとまを告げました。 6 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? 記事をサポート