なまえをなくしたおとこのこ 12 酒井 章文 2014年12月22日 15:33 なまえをなくしたおとこのこ なまえをなくしたことに気がついた男の子は、 もう水なんてあげる必要はないと、じょうろを放り投げました。 まず、男の子は女の子にたずねてみました。ぼくの名前はなんだったかな? ええっと、そういえば、ちっとも思い出せないわ。 どうしたのかしら、と女の子は言いました。 ウォーリーでいいんじゃない? この際。女の子は言いました。 なんて役に立たない女だ、と思った男の子は、 町中に貼り紙をすることにしました。すると、 くらがりの中から、じっと見つめる目があるのです。男の子は怖くなりました。 死に神のような目だ。男の子は走って逃げました。 けれども、その目は少年を追ってくるのです。 たすけてー、と声をあげたのですが、あたりには人っ子ひとりいません。 追いつかれてしまった男の子は、目のいる世界にのみ込まれてしまいました。 時がたち、みんな男の子のことなど忘れてしまいました。 この世界では、名前をもっていないものは忘れられてしまうのです。 残るものなど、何ひとつないのです。 これでこのお話はおしまいです。 このお話も、あなたも、きっと忘れられてしまうでしょう。 12 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? 記事をサポート