Heaven
休日の昼下がりにベランダの手すりにもたれかかって、塀の上で丸くなっている猫を眺めているときのことだった。もったりとした風が漂ってくる感触がして左手を向くと、そこには神様がいた。
どうしてそれが一目で神様だとわかったのか、ぼくにもうまく説明できない。説明はできないけれど、すぐにわかったのだ。ぼくは特に驚いたりもせずに、ただそこに神様がいることを受け容れた。突然のことだったから、多少は心拍数が上がっていたかもしれない。
あの、神様ですよね? ぼくはおずおずと訊ねた。
うむ。いかにも。神様は訥々と仰った。
あ、はい。なんていうか、とても神様っぽかったので……あれ? これは神様だな、とすぐにぴんと来ました。あははは。
はにかみながらぼくはそう言った。でも、神様はそれについては何も仰らなかった。
神様はぼくと言葉を交わそうとはせず、かといって立ち去る素振りも見せず、ただそこに留まっているのだった。ぼくはこの場の雰囲気がいくぶん神妙さを増しているのに気がついた。正直、落ち着かない気分がした。ぼくはぽつりと訊ねた。
あの……神様はこんなところで何をなさっているのですか?
探しておる。神様は素っ気なくお答えになった。威厳のこもった声だった。
なにをですか?
解決の糸口を、だ。
はあ……解決ですか……? いったい、どのような問題があるのでしょう?
うむ。神様は少しだけ大儀そうに仰せられた。最近、天国では住人の中に無気力で気鬱なものが増えている。それについて考えておる。
そうなのですか。でも、おかしな話ですね。だって、天国ですよね? 天国にいるのに、どうしてふさぎ込むようなことがあるのですか?
きみからすればそう思うかもしれん。神様は続けた。だが、天国だって万能ではない。考えてもみたまえ。きみだって天国にいるようなものではないか。食べるものにも困らず、暑さや寒さを心配する必要もなく、外敵に脅えることもない。別の境遇にいる人間からすれば、きみは天国にいるように見えることだろう。だが、きみだって十全に満足しているわけではあるまい。そういうものだよ。
そう宣うと、神様は気鬱そうに遠くを見つめた。眼下では猫が目を細めてあくびをしていた。ぼくもつられて大きなあくびをした。地上にはあたたかな日射しが降り注いでいた。
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