2015年12月19日のスピーチ

こんにちは。
僕は岡山県の中学校で社会科の教員をしている鬼頭暁史といいます。僕が知る限りこういう場で、大学の学者の先生以外の、小中高校のいわゆる「学校の先生」がスピーチをすることはほとんどありません。学校の中ですら、政治的な意見を言う先生は少ないのではないでしょうか。

壁となっているのは「政治的中立」という言葉です。「政治的中立に反して偏っている」「偏向している」といった批判を恐れて、多くの先生たちや公務員、報道人が「とにかく政治には触れない」と萎縮してしまっています。

もちろん、特定の政党や候補者を支持する“政治教育”は禁止されています。ただ、自分の意見を持たず「政治に触れない」のは「中立」ではなく、時の政権のすることを無批判に代弁することであり、それこそ「政治的中立」に反する不誠実な態度です。政府の政策を批判すること、民主主義を学ぶこと、「憲法を守れ」と言うことは「政治的中立」に全く矛盾しません。

 なにより僕たち公務員は、政府ではなく、「全体の奉仕者」として、憲法を尊重し擁護する義務があり、そのことを固く誓っています。その憲法が軽視され、民主主義や立憲主義が危機に瀕している今こそ、声を上げなければいけないのです。だから、僕はここに立っています。


 来年の夏に選挙権が18歳以上へ引き下げられることによって、学校で注目されているのが「主権者教育」です。主権者をどう育てていくのか、様々な議論や不安の声が聞かれます。僕には「主権者」と聞いて、思い浮かぶ人がいます。それはSEALDs KANSAIの大澤茉実さんです。9月19日の明け方、あの安保法制が“成立”した時に、僕も国会前にいました。そこで大澤さんのスピーチを聞きました。

大澤さんは小さな喫茶店を開く夢を語っていて、「私は政治家になんかなりたくない。でも国会で寝ている議員よりも、ずっと真剣に政治のことを考えている自信があります。それは、叶えたい夢と、生きていきたい未来があるからです」とまっすぐな目で訴えていました。

涙が出ました。自分の大切な夢を守るために政治を真剣に考え、自分の言葉で語り、自分の意志で行動する。これが「主権者」だと思います。もちろん大澤さんだけじゃなく、T-nsのみんなや、ここにいるみなさんがこの国の「主権者」なんです。

政府に認めてもらうまでもなく、学生たちは自由に政治的活動を始めていて、こんなふうに集会やデモを企画運営して、政党の党首まで呼んでしまっています。きっと政府にとっては「想定外」のことなんだと思います。

「主権者教育」において、僕は「先生」ではありません。今声を上げて行動している学生のみなさん、あなたたちが僕の「先生」です。「主権者って何か」を教えてくれて、本当にありがとうございます。


最後に、今僕にも夢があります。僕たち教員も、学生も、保護者も、地域の人も、みんなが政治について自由に発言し議論できる、人から教わるのではなく民主主義を自ら体験して学べる、「民主主義ってなんだ?」に「これだ!」と応えられる、学校をそんな場所にしたい。民主主義の中で成長していく、そんな新しい民主主義を学校から始めたいんです。

2015年12月19日、僕はその夢のためにも、教員として、一人の人間として、憲法の理念や民主主義を無視して“成立”した安保法制に反対します。

これからも一緒にずっと学んでいきましょう。ありがとうございました。

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