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コロナ禍のベルギーサッカーの記録

先日のCL決勝を持って、20-21シーズンのヨーロッパサッカーは終了しました。コロナ禍で行われたシーズンは、今までのサッカークラブ運営とは全く異なっており、運営・財務面で大きな影響を及ぼしました。個人的には通常よりも長く感じたシーズンとなりましたが、それは通常とは違った負荷がかかったからかもしれません。

1つの区切りとして、自分主観でベルギーリーグを中心に、2020年3月から始まったコロナへの対応記録を時系列で残しておこうと思います。

2020年3月:ロックダウン突入、19-20シーズン中断

▶3月に入りイタリアで感染爆発、フランスでロックダウン
▶3月15日のベルギーリーグ最終戦の延期が決定
▶翌週にベルギー政府からロックダウン発表
▶強制的に在宅勤務、全てのフットボールの活動が停止に

2020年2月の時点ではこのような状況になるとは、全く予想もしていませんでした。この時期、政府発表を注視しながら、クラブとしての行動方針を時間単位で考えて即行動に移すという事を繰り返しました。

2020年4月:トレーニング・業務停止

▶STVVは3月末にチームの一時的な解散を決定し、選手の一時帰国を許可
▶4月5日にベルギー政府はロックダウンの延長を発表
▶7月末までのスポーツイベント開催の禁止発表
▶4月15日のリーグ総会が延期となる
▶リーグ再開可否の決定延期
▶選手給与のカット実施

この時期、状況が二転三転するような状況だったと記憶しています。クラブ内にも不安が広がり、クラブとしての方針の発表と周知を迅速に行う事を徹底していました。また、スポーツ活動の再開となる中、稼働がない選手たちの給与カットに踏み切るクラブが大多数でした。

また、6月末の決算に向けた着地予想をいくつかのパターンで作成し、それを基に来期予算策定も行っていました。着地予想を見積もる際には、冷や汗が出たのを覚えています。

2020年5月:19-20シーズン終了

▶5月初週にベルギー政府は段階的なロックダウンの緩和を発表
▶それを受け、STVVは週2日のオフィス勤務を再開
▶5月15日にリーグ総会が開かれ、正式に19/20のリーグ中止が決定
▶29節までのリーグ戦順位で確定
▶最下位ワースランド・ベフェレンの降格が決定 → 同クラブはBASへ提訴
▶カップ戦決勝/2部昇格プレーオフ決勝の実施を決定(8月1日)
▶来期は一部プレーオフのレギュレーションを変更するが、同じチーム数にて8月初週から20/21のリーグ戦を行う事を決定
▶21/22以降は19/20までのリーグレギュレーションに戻ることを決定
▶ベルギーサッカー協会もアマチュアリーグの全中止を決定

4月で全く決まらなかった事柄が5月の半ばになってやっと動き出しました。最終的にベルギーリーグは中止となり、不本意ながらシーズンが終了。リーグから来シーズンのレギュレーションが発表されるも、政府からはスポーツイベントの有観客での実施が禁止のままであったため、以前不透明な状況が続きます。

2020年6月:新シーズンフォーマット決定

▶6月初週にベルギー政府は更なるロックダウンの緩和を発表
▶集団(20人)でのトレーニング再開を許可
▶観客動員を制限した試合興行を許可(8月末期限)
▶STVVは6月8日より集団トレーニングを再開し、社員はオフィス勤務を完全再開

トレーニングが再開したことで、少しづつ平時の様子が戻ってきました。社員もオフィス勤務を再開し、来期の準備(シーズンシート販売業務、スポンサー営業等)に本腰を入れられるようになります。

中止になった欧州リーグ一覧

最終的に19-20シーズンの欧州では下図のような結果になりました。

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(参照:https://clubaffairs745145921.files.wordpress.com/2020/07/030720_risk-assessment_covid-19_summary-for-some_final-1.pdf)

男子リーグは再開して何とか終わらせたリーグが多数派だったのに対し、女子リーグは中止となったリーグが多数派でした。これは、放映権料の問題でリーグが契約不履行を避けるために何とかリーグ戦を終わらせる必要があったためです。放映権料の影響と価値がより強い男子リーグに比べ、女子リーグは商業的プレッシャーが低いことがこの決定の裏にはありました。

コロナの財務への影響

2020年7月時点で下記の様にコロナが与える財務的影響が見積もられていました。ECA(European Club Association)のレポートでは、計測10リーグにおいて、19-20シーズンで15億€(≒1,950億円 130円/€、以下同)、20-21シーズンで21億€(≒2,730億円)の収益減少があると試算しました。この数値は選手移籍金収益を除いた額です。

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(参照:https://www.ecaeurope.com/media/4771/eca_covid-19-financial-impact-on-european-clubs.pdf)

ベルギーリーグにおいては、19-20シーズンの収益減少は9,590万€(≒125億円)と試算されました。

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(参照:https://www2.deloitte.com/be/en/pages/technology-media-and-telecommunications/articles/deloitte-pro-league-2020.html)

コロナ禍での各クラブの取組例

欧州クラブはそれぞれコロナ禍で行える活動を模索して実施してきました。こちらについては別途noteをまとめていましたのでそちらを参照してみてください。

2020年7月:2週間前にチーム数・スケジュール変更

▶リーグプロトコルに基づきトレーニングを通常通りに再開可能になる
▶ワースランド・ベフェレンのBASへの訴えは勝訴
▶7月23日にベルギー政府の安全保障委員会が開かれる
 ・400人までの観客動員を許可
 ・シント=トロイデン市との協議の結果STVVは8月の無観客試合を決定
 ・マスクの着用義務化
▶7月27日アントワープ地域の感染者数が増加
▶7月31日プロリーグ総会が開催
 ・最終的にワースランドベフェレン、OHルーバン、ベールスホットを加えた18チームで20/21シーズンの1部リーグ戦を実施することを決定
 ・レギュラーシーズン(34試合)後、Play-off1(1位~4位)、Play-off2(5位~8位)を開催
 ・18位が自動降格し、17位が2部の2位と昇降格プレーオフを開催
 ・リーグ戦開催は予定通り8月8日から
 ・翌21/22シーズンで3チームを1部から降格させ、2部から1チーム昇格
 ・22/23シーズンより19/20シーズンまでのチーム数(16チーム)、リーグ方式に戻る

ベルギーリーグは開幕2週間前にチーム数が16から18に急遽変更になり、スケジュールが作り直されるというドタバタが発生し、対応に追われました。リーグフォーマットも変更され、コロナ禍における特殊なシーズンを送ることになります。最終的に8月は無観客で行うことが決定し、準備していたことが全てできなくなってしまい、コロナの影響を改めて痛感しました。

2020年8月:20-21シーズン開始、無観客

▶8月8日にリーグ開幕
▶無観客での実施

色々あったものの、何とかリーグ戦は開幕。無観客で始まったリーグ戦は通常の試合とは全く違った雰囲気の中で行われることとなり、新鮮な体験ではありました。

2020年9月:有観客試合再開

▶有観客試合での試合実施
▶観客数は各スタンド400名以下、アウェイ禁止(合計1200名以下)

9月に入り、人数制限の下で有観客試合が実現。観客がいるスタジアムが返ってきたという喜びを感じた期間でした。

2020年10月:再び無観客

▶9節1試合がコロナによる延期
▶10節3試合がコロナによる延期
▶リーグが10節からの無観客試合を決定

10月に入る頃には再びコロナの感染状況が悪化。コロナ感染者が選手に発生するクラブも多発し、再度無観客試合に戻ってしまいました。

2020年11月:試合延期多数

▶11月より再びロックダウン
▶完全リモート勤務
▶無観客試合継続
▶11節1試合がコロナによる延期
▶12節1試合がコロナによる延期

政府から再度ロックダウンが発表となり、業務もまた完全リモートへ戻ってしまいました。無観客での試合は試合準備の業務とコストは相対的に減るものの、平時の業務リズムとは異なり調子が狂う感覚でした。

2020年12月:イギリス変異株、海外渡航規制強化

▶ロックダウンの延長が決定
▶無観客試合継続
▶16節1試合がコロナによる延期
▶17節2試合がコロナによる延期
▶イギリスで変異種が出たことで渡航制限が強化される

12月にはイギリスで変異株が発見されるなど、コロナの状況がより悪化しました。そのため、ウィンターブレーク中の選手・スタッフの海外渡航が制限され、通常であればオフ期間に帰国する外国人選手・スタッフもベルギーにとどまらざる負えない状況となってしまいました。

2021年1月・2月:リーグ再開、無観客継続

▶1月9日ウィンターブレーク終了・リーグ再開
▶ロックダウン継続
▶無観客試合継続中
▶26節1試合がコロナによる延期
▶28節1試合がコロナによる延期

リーグ後半戦が始まると、この状況にも慣れてしまった感覚になります。無観客や試合の延期にも普通に対応できるようになり、この状況が通常となりつつあったと思います。

移籍市場への影響

(参照 FIFAレポート:https://img.fifa.com/image/upload/ijiz9rtpkfnbhxwbqr70.pdf)

移籍市場としては2020年は例年より低調に推移しました。移籍数は2019年より減少しましたが、2018年よりも多くなりました。

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一方で、移籍金の総額は2020年は56億$(≒6,160億円 110円/$、以下同)となり、2019年より17.2億€(≒1,892億円)減少となりました。移籍市場は2017年時点の水準以下に戻ってしまったことになります。

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2020年の欧州主要リーグの夏の移籍期間は変則的となり、平時あれば6月~8月に空いている移籍期間は10月頭まで延長されました。そのため、下記の図のように平時とは違い8月・9月・10月での移籍数が多くなりました。19-20シーズンも終了したのが7月だったリーグが大半で、競技が続いている以上移籍を実施することが難しかったのが原因と考えられます。

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フリートランスファーが移籍市場の大半を占める状況は変わらない中、2020年はローン移籍とローンバックの移籍が多くなり、完全移籍が減る結果となりました。これは、コロナ下で状況が読めない中、選手保有権を持っているローン移籍は移籍元クラブとしてもコントロールしやすいことと、今売っても十分な移籍金が得られないことがあげられます。一方で、移籍先クラブもローンで移籍金を節約し、給与条件も移籍元クラブと調整可能なローン移籍はチーム強化費が減少するコロナ下では有効であり、利害が一致した結果と考えられます。

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2021年3月:BeNeリーグ騒動

▶31節2試合がコロナによる延期
▶プロリーグよりBeNeリーグ構想への調査を開始することで一致とリリース
▶クラブ・ブルージュはIPOの材料として上記を利用したかったが失敗

プロリーグがBeNeリーグに関するリリースを突如発表し、世界で驚きの声が上がりました。日本でも話題になりましたが、実際には「単なる調査」を行うことで合意しただけであり、ベルギー・オランダともに本計画における具体的なものは何一つ動いていませんでした。この動きを主導したクラブブルージュは3月末にベルギー株式市場へのIPOを控えており、その材料として上記を利用しようと画策したようですが、最終的にこのIPO自体が新規株式の受け入れ公募数の目標に達せず、見送りとなりました。

2021年4月:早いオフ、ESL騒動

▶プレーオフへの進出を逃したクラブは通常よりも1か月以上早くシーズンが終了
▶ESL騒動が持ち上がり、すぐに鎮静化

ESL騒動はあちこちで議論されていることなので、ここでは割愛しますが、今まで通じて見てきたコロナによる厳しいクラブ経営状況がこの動きを後押ししたことは確かです。
ベルギーリーグは4月の半ばにはリーグ順位が確定し、プレーオフへ進出できなかったチームは短い20-21シーズンを終えることになりました。こんなに早くシーズンが終わるのは初めてで、一気に気が抜けてしまったのを覚えています。

2021年5月:20-21シーズン終了

▶ベルギーリーグPO1、PO2は全て無観客で実施
▶EL・CLは有観客で実施
▶全ての欧州リーグがリーグ戦終了
▶1つのビッグクラブが連覇をしていたリーグの覇権が塗り替わる

ベルギーリーグは最後まで無観客で試合が実施されました。EL・CLは有観客で実施され、ようやくスタジアムに人が戻ってこれる実感が湧いてきています。
一方で、欧州主要リーグで印象的だったのは、今までリーグの覇権を独占していたクラブが優勝を逃したことです(スペインはアトレティコ、イタリアはインテル、フランスはリール、スコットランドはレンジャーズ)。これは偶然ではなく、コロナによる混乱がリーグに競争を再度もたらしたのだと思っており、ある側面からみればコロナのプラス面だったとも言えるのではないでしょうか。

最後に

最終的にベルギーリーグは13試合がコロナによる延期再試合となる中、無事に20-21シーズンを終えることができたことを嬉しく思います。毎週のようにPCRテストを行い、医療関係者には本当にお世話になりました。そして、このイレギュラーな状況下で試合興行をやり切ったスタッフの尽力にも感謝します。

いつもはあっという間に終わってしまう感覚に襲われる1年ですが、今シーズンは不思議と長く感じたシーズンでした。新しく対処しなければならない事象が多く、それが新鮮な感覚を与えてくれたことが要因かもしれません。

サッカーに限らず、スポーツ興行にとって厳しいシーズンとなりましたが、この危機下で無事にシーズンを終えることができたという経験が、後に成長として返ってくることを願っています。

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