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泡沫のユークロニア 感想

久々に乙女ゲームをフルコンプしたので、感想を。
ネタバレなしで言いますと、必要なシステム面は揃ってますし、シナリオもよく、とても楽しめたゲームでしたので、公式サイト見て「ちょっと気になるかも」と思った方はぜひ、買っていただきたいです。
目次以下はネタバレありの感想です。
私が攻略した順にキャラを並べたのですが、依のルートを楽しむなら、私はこの順がいいと思います(断言)
推しは、中の人の関係で依。
依の話だけなんだか重いです、悪しからず。
主人公のことを雛菊と称して書いていますので、ご注意ください。


淡雪

主従関係かつ教育係という萌えの権化な設定に、声低めの壮馬さんボイスで、第一印象から最高だった淡雪。依ルートの解放条件だったこともあり、迷わず最初は淡雪ルートを選びました。
結果、このルートのおかげで全員攻略しよう!と思えました。
物語の中でほかのキャラクターの魅力も伝わったというのもありますが、個人的にはラストがとてもよかったのが1番の理由です。
主従関係といえば、やっぱり気になるのは、どう身分の差を乗り越えてラストにいくか、です。
お互いだけがいればいいよの駆け落ちエンドか、あるいは、何かあって身分差がなくなるエンドあたりかなと勝手に予想し、途中で淡雪がかつて大樹公の近侍だったことが明かされたあたりで、これは身分差がなくなるエンドだ!と勝手に思っていました。
が、結果は身分差アリのまま、隠れて恋人であり続けるエンド。
ついでに身分制度は大樹公がなくしてくれたとか、淡雪だけが貴族扱いになった、なーんてご都合主義展開一切ナシの、地に足のついたシナリオが個人的に非常に好感度が高くて、全ルート攻略を決めました(内容が合わなかった乙女ゲームは中の人が相当好きなキャラしかやらないことがままあります)
今後の話につながっていきそうな、各キャラの「アレ?」みたいなところがたくさん散りばめられていて、最初に選べるルートに相応しい作りをしていたのもとてもよかったかなと。
萌え……!は、もう山程ありましたが、スチルも込みで根付のシーンがすごく好きです。

秀逸でした。
依ルートは、正解と不正解をごちゃごちゃに紛れさせることで、プレイヤーをミスリードしていく物語です。
しかもそれが、依ルートだけでなく、前提の淡雪ルートも含めて行われているから質が悪い(褒めてます)
淡雪ルートで雨月をそそのかしていたのは依だと明かされることで、当然、その流れを知っている読者は、凍玻璃で起きる連続殺人の犯人は依だと予想します。
さらに石蕗が依によって捕まることで、ますますプレイヤーから依に対する不信感は増していきます。
根付をもらった瞬間にキスをして大切にした淡雪と、刺繍入りのハンカチをもらっても嬉しくなさそうだった依の対比もありますし、独白でも、依は石蕗や雛菊にイライラしているばかりで、雛菊への甘い感情を見せることはありません。
まるで依の気持ちが揺れたかに見える指切りのシーンの後でさえ、
「暇つぶしには丁度いい」
「せめて楽しませてもらわなくちゃね」
と言っています。
そして極めつけが、彼の重ねた嘘。
婚約の理由にした、いかにも兄を気遣ったかのような石蕗の婚約話や、悲惨な過去のエピソードが全て嘘であることが明かされます。
大体の乙女ゲームでは、ほかのルートでは悪役や悪人でも、自ルートでは真実が明かされる、みたいな流れが多い気がするのですが、依は自ルートの振る舞いこそ、最も悪辣です。
そうやって全力で、騙そうとしてくるのです。
まるで依が、雛菊を好きではないかのように。
その最高峰が、バッドへ至る台詞(のひとつ)です。
「わたしのことも、好きじゃないんですか?」「キミ、それもわかってなかったの?」
依が言っている「それ」は「依が心の底から雛菊のことを好きだということ」なので、ここは単純に「もちろん、キミが好きだよ」の意味です。
でも、雛菊にも読者にも、
「本当にキミのことが好きなわけじゃないってことさえも、わかってなかったの?」
にしか聞こえない。
この執念のシナリオ運びが素晴らしい。
そしてこうやって、作り上げられた疑念の全てが、ベストエンドの牢獄のシーンに帰結するのが、本当に美しいです。
依は、自分は間違ってたんだと泣いて改心はしません。
ただ彼の、雛菊へ示してきた好意に、嘘はひとつもなかったことが語られるだけ。
でも、このシーンに私は号泣しました。
依の言葉のひとつひとつから、雛菊への気持ちが感じられて。
何より、
「それが好きってことだよ。……たぶんね」
という、初めてふたりがキスをしたときと同じ台詞でこのシーンが締められるのが素晴らしすぎて。
これからも、お互いにときどきイライラしながら(そして依は淡雪にいちゃいちゃを見せつけながら)幸せに暮らしてほしいなと、純粋に思えるカップルです。

あと、すっかり騙されていた方は、ベストエンドを読んでからもう一度読み直すことをオススメしたいです。
最初に逃げ道を用意してくれたのは、淡雪と石蕗への嫌がらせに巻き込んでしまうことへの贖罪が恐らく含まれていますし、指切りシーンで語られる言葉も本心だなと、ちゃんとわかる芝居を江口さんがされています(ここのことは、画廊のコメントで明かされます笑)
石蕗が雛菊を助けたときのイライラも、
「せっかく意地悪してるのに、何も気にしてなさそうな石蕗にイライラ」
ではなく、純粋に
「雛菊が石蕗と楽しそうにしてるからイライラ」
で、
「……もちろん、ボクにも自覚はある」
という言葉が依の本音へのヒントになっていたことなんかも1周目は見落としがちな気がします……。

低音の岡本信彦ボイスが何よりも好きって、私、言いましたよね(言ってません)
抜群にかっこいい、強い、優しい、そして花街の男ということでちょっと悪い雰囲気もある。もちろんこの悪い、は依と違って雰囲気の問題だけ。
この人は好きになる要素しかなくてズルい、と思っていたのですが、そこにさらに病気で……なんていう要素まで盛ってくるとは思いませんでした。
この作品の中で1番恋愛色が強いのは実は依ルートだと思うのですが(依ルートは、起きていることが最初から依が犯人だとわかり切っていて、そのあたりに全く重きが置かれていないので)その次は帷ルートかなと個人的には思います。
愛が重すぎる淡雪や、拗れに拗れている依と違って、手を伸ばしてはいけないんだと自分たちを律するふたりが、とても切ないながらも、まっすぐに恋をしている王道シナリオ。
かなりストレートで、ここまで見てきた中にあった意外性はそこまでありません。病気もちゃんとよくなりそうな雰囲気がありますし、なんというか、帷は1番危うそうに見えて、1番、安心安全な男って感じです。
個人的に萌えたのは、雛菊が芸妓の格好をしているシーンです……!
背徳感とドキドキ感の伝わるスチルが最高でした。

露草

ほかルートであまりにも正体がバレバレな露草。
柊様が大変にかわいかったのと、個人的に豊永さんがかなり好きな声優さんなこともあり、3人が仲よく過ごしているルートの序盤が大変に尊くて、何度か本気で天を仰ぎました。柊様と仲よくできるFD待っています。
帷と依が出会いから恋に落ちるまでを描いているのに対し、淡雪と露草はそもそも、ほかキャラのルートでも一途に雛菊に恋をしていましたし、露草は本来の身分なら全く身分差は気にしなくてOKなのもわかっていたので、恋愛はそこそこに、凍玻璃の真相に近づいていくところにパワーを割いていたシナリオだったかなと思います。
ただ、そんな中でもなぜ露草が雛菊のことを好きになったのかというところは、かなり丁寧に描かれていました。どのシナリオも丁寧に心の機微を描いてくれるところが、この作品のいいところだなと改めて思います。
1番萌えたのは、露草ルートだけが唯一、キスが雛菊ちゃんからっていうところでしょうか。
大事にしすぎのきらいがあるのは帷と露草だとは思うのですが、それに雛菊ちゃんが耐えられなくなっちゃった系というのは大変によかったです。ちなみにこの2人が、攻略キャラ内の常識人キャラなのがとても面白い……笑

矢代

これは全体を通してのことになってしまいますが、この作品、共通ルートから細かく分岐が入って、実質的に個別ルートが始まりますし、個別ルートの展開も全員違ってクオリティも高く、満足度が本当に高いなと、矢代ルートをやりながら改めて思っていました。
露草ルートで色々と凍玻璃の真相も明かされてしまった気がしていて、矢代ってメインヒーローのはずだけど、どういう展開にするんだろう?と思っていました。
まさか矢代だけ露草と同じ感じに進むんじゃ……とか勝手に心配もしていましたが、全くそんなことはなく。
みんなが仲間になってくる熱い展開でありながら、これまでほとんど語られていなかった銀湾の人々のことも丁寧に説明しての展開が素晴らしかったです。
恋愛面も、どんどん雛菊のこと、自分のことに気がついて、矢代が感情的な行動をできるようになっていくところがよいです……ベストエンドの最後のイラストも、矢代だけサイズが大きなものが採用されていたり、こういう特別扱いも最後に攻略できるメインキャラという意味では堪りません。
実は作品中、千晃くんだけが乙女ゲームでは初めましてだったのですが(アニメで演技を聞いたり、イベントで見たことはあるので、もちろん知ってはいました!)柔らかくてすっと耳に入ってくる優しい低音ボイスなので、きっといい感じなんだろうなと思っていましたが、予想通り。
千晃くんのボイスで「姫様」って呼ばれるのは、なんというか大変にドキドキします……!

まとめ

少し真相エンド……別名鳴神エンド(勝手にこう呼んでます笑)の話と総括など。真相エンドは個人的に「祭」感があったなと思います。
長さはキャラの個別エンドほどないですが、設定を余すことなく明かしてくれて、凍玻璃という様々な矛盾を孕んだ街がこれから進むべき道を示してくれているエンドになっていて、大変、よかったです。
1つぐらい「銀湾に攻略対象キャラと降りるエンド」があるのかなと思っていたのですが(そして矢代エンドはそうだと思っていた……連れ帰る的な)終わってみると逆になくて良かったなと思っています。
単に銀湾があまり幸せな地ではなさそう、というのもあるのですが笑
それ以上に、雛菊ちゃんの「生き方」が貴族として責任を持って領地の運営をしたい、というもので、その生き方を攻略キャラ全員が肯定してくれているというのがとても良かったなと思うからです。一緒に、どこか遠くへ逃げよう、と言い出した人は1人もいなかった……現実をみんなが直視していく物語になっていて、とても良かったです。そういう意味でもとても素敵な作品でした。
ファンディスク出してください……!
幸せになっていちゃいちゃするみんなを見たいです!

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