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平行世界へ その4

部屋の異様さから比べれば、綾ちゃんとの遊びは普通だったと思う。
当時の小学生にしては落ち着いていた方かもしれない。
何せ花札とかトランプとか。
友達を連れてくるようになったから、と親戚の人が人生ゲームを譲ってくれたそうで、途中から人生ゲームにも夢中になった。

偶には一緒に宿題をした。
何せしっかりした先生だったので、毎日のルーティンワークはこなさないと遊びに没頭できないからだ。

ある時、綾ちゃんがトイレで座を外した時にお婆ちゃんから
「綾ちゃんは学校ではどう?」
と尋ねられたことがある。

どう?
と言われましても…

学校での様子を訊かれてるのかな?

質問の意図が読めないまま、
「普通です」
と答えてしまった。
いやそれ以外には思いつかなかった。
小学生の時分に他人を評価して誰かに報告することなんて、それまでなかった。

足が速いとか、勉強ができるとか、そのくらいの認識は他人に対して持ったことがある。
こういう人をカッコいいとか綺麗とか言うんだろうか?という目線で同級生を見た記憶がなかった。
わたしにとって、憧れとか素敵だとか美しいとかいう感情を抱かせてくれるのは、いつも年上の人だった。
それもおじさんやおじいさん、お姉さんやおばあさんだったのだ。
そういう騒動に巻き込まれそうになった時は、そっと集団から離れていたし。

だから綾ちゃんも普通だ。
多少足が速かろうがわたしと同じくらいの女児であり、スタイルも頭の出来も同じくらいだった。
唯一素敵だなぁ、真似できないという点で言えば、髪の毛が日本人形みたいな黒くて長くてしょっちゅう櫛で梳いているところだった。
おばあちゃんにそんなこと言っても、学校の報告にはならない。

仕方ないので、
「綾ちゃんといると学校が楽しいです」
と付け加えた。
これは本当のことだ。

おばあちゃんはもっと綾ちゃんを褒める言葉や具体的に頑張っているところを知りたかったのかもしれないが、そこまで言ったら綾ちゃんが帰ってきた。

そして、まだ綾ちゃんが足音だけの存在でいた間におばあちゃんはボソッと
「家がこんなだからねぇ…仲間外れにされてるんじゃないかって心配でね。」
と言った。

こんな?
よく分からなかったので、
「わたしが好きで一緒にいるから元気ですよ。」
と答えておいた。

そして、近づいてきた綾ちゃんに、
「今おばあちゃんに、綾ちゃんと仲良くしてるか話してたんだよ。」
と言った。
余計な誤解を避けるため、わたしは内緒話はしないようにしてたからだ。
綾ちゃんは
「もう、おばあちゃん、心配しなくていいよ〜。ほら二人で遊ぶから向こうへ行って!」
とおばあちゃんの存在を無碍にした。

わたしはおばあちゃんという存在が身近ではなかったので、孫はおばあちゃんにこういう態度で接してもいいのかぁと納得したような、もっと大事にしたらいいのにと残念な気持ちになるとかした。

母の信教が父に隠れるように行われていたので、なんとなく宗教的なことはあまりおおっぴらにはできないものなのかなぁ、とは思った。

一方大晦日に除夜の鐘を鳴らしたり、お正月にどこかに参拝したり、お盆には仏事があったりするのは経験上知っていたので、どうやっておおっぴらにはできないものと区別するのかは掴めなかった。

綾ちゃんはそれほど裕福にお金を遣う子どもではなかったからわたしもお付き合いできたのだが、路面電車で2停留所くらいの距離の所である寺社のお祭りには詳しかった。
そして、お祭りの時は特別にお小遣いが貰えると言って、なかなか思いきりのよいお金の遣い方をした。
わたしだけなら絶対にやらないガムの型抜きとか、クジとかに果敢にトライしていた。

お祭りは数日あるのだが、毎日のように出かけるので、我が家の母から注意を受けた。
そう、わたしもちょっと辟易とした。
何せ見るだけの祭りなど、子どもには拷問である。
それに、祭りがそんなに続くとは知らないから、計画的なお金の遣い方などできていなかった。

しかし、いつもは倹約家と言っていいくらいの綾ちゃんは毎日祭りに行こうと誘ってきて、そこそこお金を遣っていた。
さすがにつきあいきれなくなり、
「今日はもうお小遣いがないから、行けない。」
と断った。
綾ちゃんは
「今日が最終日なのに、お金は貸してあげるから行こうよ。」
と言った。
魅力的なお誘いだけど、昨晩母からきつく叱られていたのでさすがに断るしかなかった。
残念だったけど。


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