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おすすめ書店ランキング2022

 その街にいい感じの本屋があるというのは、かなり重要だ。変な田舎には変な本屋しかない。
 いい感じの本屋がある街は、文化的に優れている。いい感じに本がディスプレイされている空間を歩くと、なんとなく頭が良くなってくる。たぶんみんなこうしてパワーを集めている。だから頭が良いんだろう。そういうパワーによって、市民のレベルは底上げされる。俺の頭が悪くなったのは、田舎の変な本屋を歩いていて、良い感じのパワーがゲットできないから。
 いい感じの本屋で、本を開いてパラパラ捲る。頭の良い人たちはみんなこのように本をパラパラ捲っている。この動作に、秘密がある。どのようにパラパラ捲るか。俺はとりあえず頭の良さそうな人がやっている動作をトレースして、再現しようとする。
あるいは、書いてある文字を視界に映すことも重要だ。情報を目で取り込むことで、視覚的にパワーが手に入る。頭の良い人たちはみんなこうやって文字を目に映している。彼らが色々なことを知っているのは、こうやって文字を目に映しているからだ。「あ」という文字が目に入る。次に「堕」という文字が映る。なるほど。皆がこのようなことを繰り返している。
 気に入った見た目の本があれば購入する。いい感じの見た目の本を部屋に飾ることで、部屋にそういうパワーが蓄積し、頭が良くなってくるからだ。最近の頭が良さそうな本は表紙もオシャレだ。俺はなるべく表紙がオシャレで、置くことで頭が良くなりそうな本を選ぶ。3600円。良い買い物だ。
俺はこうやって頭が良い人がやっていることをひとつひとつ真似している。彼らがやっていることを真似すれば、俺だって頭が良い人になれるに決まっている。
 例えば、ビジネスマンっぽい自意識の時がある。俺はビジネス本を手に取り、ペラペラと捲り、その風圧を浴びる。すると、俺はビジネスパワーを手に入れる。またある時、俺は英語が出来る人間になりたいと思っている。そういう時はTOEICの対策本を手に取り、多くの人と同じように、勉強机に向かって、本とコーヒーを置き、ノートに可愛らしいうさぎの絵を描く。こうした「動作」の積み重ねが天に通じ、俺は英語が喋れるようになる。ある時、俺は文化的な気分になろうと思う。出来るだけ文化的っぽい本を手に取り、パラパラ捲る。ある時、俺は科学っぽい気分だ。利己的な遺伝子?なんだか凄そうだ。(みんな凄いって言ってる)俺は凄そうなパワーを秘めたその本をパラパラ捲り、風圧を浴び、動作を真似することで自分の精神を科学的な感じに改造する。すると俺は科学マスターだ。
 俺はそのようにして学生時代を過ごした。おかげで今はあらゆることに口出しできるようになった。俺は頭が良い。俺はマニ車のように本を捲り、読経のように英語の本の文字を読み上げる。これはaですね。これはgですね。これはvですね。だから、俺に蓄積されたパワーは凄いと思う。
 就職活動でも読書が趣味だと言った。面接官は質問した。
「今まで読んで、一番心に残った本はなんですか」
 俺は意味がわからなかった。心に残った本???
「うーん、そうですね。オレンジの表紙で、けっこうオシャレだったと思います。パラパラ捲ったときの質感が良い感じの本で、文字も細くて綺麗で、視覚に入れるといい感じになります。匂いも悪くなかったですね。本を読んでいるという気分になるし、古本のような臭さは無かったです」
 面接官は俺を不合格にした。人生で最大の謎だ。
 俺は今、地元の変な田舎にいる。昼間に出歩き、いい感じの都会にいた時のように、近くの書店に行く。変な複合施設の中の、変な書店。頭が良くなりそうな本は少ない。売れ筋?というやつだろう。そういうものだけ置いてある。いい感じの照明も、店のインテリアも、レイアウトとか並べ方も、全てが安っぽい。俺は、このような空間を歩くことでパワーが無くなっていくことに気がついた。じわじわと、都会の書店を歩くことで蓄積した「頭が良いパワー」を失っていく。俺は頭が悪い。
 こうして、俺は頭が悪い田舎の無職ということになった。今は子供部屋のベッドの上で珍棒を撫でる日々だ。俺はポルノを見るようになった。ポルノを見て、珍棒を撫でる。多くの人はポルノを見て珍棒を撫でるらしい。だからそれを真似してみた。するとなぜかわからないが、一粒の涙がこぼれ落ちた。

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