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こんな世界じゃシコシコできません。

Q:すみません、ルート631に至るには黄金の鍵を見つけねばなりません。黄金の鍵がどこにあるか知っていますか?それは物理的な鍵ではなく形而上の鍵であるそうです。

A:大変やね。お薬出しておきますね。

 とてもイライラする。彼は医者ではなく、大学で変な薬を有料で処方する学生だ。彼のような人間に聞いた俺が馬鹿だった。

 さて、俺よりも遥かに頭が良く、人脈があり、人々から好かれる人たちが何やら世界の中心で中心っぽいことをしているようだ。彼らは大抵企業に所属し、運転席ミーティングルームで世界を動かしている。彼らは頭が良く、何でも売上に変えることができる。企業に所属することは最強の信用の保証であり、しょうもない個人にも最先端で面白いことへの道を開く可能性がある。

 俺は世界の周縁のキモい場所で変なことをして、変な文章を書き、本当に小さな人生を終えるだろう。ある者は言う。本当の「最先端」は周縁で生まれると。それは一理ある。しかし、世界の周縁で変なことをして、変な文章を書いているだけの一介のオタクは、特に凄いということもなく、誰からも信用されることなく、非正規雇用の人生を歩むしかないのが現状だ。

 変な、身の丈に合っていない気持ちの悪い一家言を持った大学院生が、変な、身の丈に合っていない気持ちの悪い一家言を持ったフリーターになる。企業に所属した偉そうな一家言のおじさんのほうがまだマシだ。

 彼は学生時代に誰とも付き合えなかったので婚活を始める。年収は低く、身長も170cmに届いていない。学歴は院卒だが、それは就職を先延ばしにするための進学なので特に意味がない。でも彼は人を容姿で判断しており、それを責めることはできない。

 それも全て自業自得だ。彼はTinderで全ての女性を"NOPE!"し、OfferBOXで全てのオファーをスルーしてきた。この女達は、この企業達は、彼にふさわしくない。この男は変なのにも関わらずプライドが高かった。就職エージェントを利用しては、彼らのやり方に呆れ、フェードアウトする。学部も大学院も変なことをやっており、企業は彼を評価しない。なぜなら変なことをやっても金にならないからだ。(金になる変なこともある。自分の会社を変な会社だと宣伝する企業は大抵こちら側を想定している)

 "なるほど、貴方のやっていることはとても面白いですね。ところで厳正なる審査の結果、貴方の採用は見送らせていただきます"

 そんな祈りが俺を強くする。そう信じていた。

 本当のことを話そう。
 Tinderで全ての女性をNOPE!するのは、誰かにNOPE!されるのが怖いから。  OfferBoxで全ての企業をスルーするのは、企業に落とされるのが怖いから。

 8月。世界は暗く、どんより湿っている。日の光は彼が起きる1時間前に沈み始めていた。

 彼は変な顔をしながらツイートをしたり、絵の女性が性行為を行っているポルノを保存したりしている。ピクシブのブックマークは80000を超えた。スマホはツイッターのリスト「エチエチ1」「エチエチ2」「エチエチ3」から保存したポルノで溢れ、人にカメラロールを見せられない。グーグルカレンダーにはポルノを保存する予定が刻まれている。そうしないと保存するべきポルノが消えてしまうから。ポルノの貯蔵は十分か?

 シロコ、樋口円香、ペコリーヌ。俺はお前たちがフェラチオしてたりSEXしているところしか見たことがない。俺よりも次元が低いくせに、お前たちはなぜSEXができる?憎い憎い憎い。

 三次元のポルノを見る。やはり彼女達もSEXが出来ていた。俺はポルノを見て涙を流す。下半身の比喩的な意味ではなく、本当に目から涙を流し、虚ろにポルノを保存する。ポチポチポチポチポチポチ。

 苦しい。

 "光に満ちた画像"でググる。出てくるのは変な画像だけ。

 そんな彼にも一つだけ、たった一つだけの救いがある。それこそが、「ルート631」へ至るということだ。

 読者の皆さんなら知っているだろうが、新規読者の方に向けて改めてルート631について解説しようと思う。

光の国のロードサイド

 世界は恐ろしく、闇に満ち溢れている。しかし、一筋の光明が見えてきた。我々はルート631を目指して歩くことが出来る。ルート631とは、太古の昔に失われた黄泉の国への道であり、光の国ホーリーライト・グラウンドへと続く精神的国道ハイウェイだ。

 例えば、沖縄にはニライカナイという信仰がある。これは空中を飛び交うルート631の残滓を捉えた琉球人が伝えたのだろう。

 ルート631は粒子となって空中を飛び交っている。そして今もあなたの体を通り抜けている。この量子的な国道を顕在化させるには、瞑想を通して「鍵」を得る必要がある。

 「鍵」を得るとルート631が顕現する。しかし、それは危険な道のりだ。

 より安全にルート631に行くには鍵を取得した状態で新宿バスタから量子シャトルバスに乗らなければならない。シャトルバスは乗客ごと光に包まれ、光の世界へと出発する。ルート631はコンクリートで舗装されているが、ところどころに屍が生えている。シャトルバスの運転手はこれを避けながら運転しなければならない。屍に車体が掴まれると、光の国ではなく、闇の国へと飛ばされてしまう。

 自家用車でルート631を進むという手もある。スリリングだが、楽しい。光の国道沿いはきらびやかなロードサイドだが、そこに労働はない。なぜなら全ての店舗サービスが精霊の導きによって運用されているからだ。ロードサイドにはいくつものチェーン店が軒を連ねている。マクドナルド、吉野家、くら寿司、CoCo壱番屋。TUTAYAもあるし、ブックオフもある。国道のゆらぎ状態が安定していれば、稀にイオンモール ホーリーライト・グラウンド店を見かけることさえある。

 ラ・ムー ホーリーライト・グラウンド店に行けば、パクパクたこ焼きが光り輝いている。ここは、そういう場所なのだ。

 さて、長い長いルート631を何百キロも走ると、世界は光に包まれ、光の国へたどり着くことができる。光の国にはルート631と同じく労働がない。

 世界は明るい。まばゆい光に満ちている。あまりにも、あまりにも、世界は、明るい。俺はその光に照らされ、世界が明るいことに驚愕し、恐れ慄き、驚嘆する。なぜなら、俺は世界が明るいとは思っておらず、世界は暗いと信じていたからだ。しかし、今、俺の目の前にある世界は驚くほど明るく、眩しかった。


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