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プリウス・カエサル

「さあ進もう😭神々の示現と卑劣な政敵が呼んでいる方へ❗賽は投げられた❗❗🤩🤩🤩」
カエサルが賽を投げると、ポチャンと音を立て、川の中に落ちた。
 ルビコン川北岸にはトヨタ プリウスに乗った兵、総勢六千。ユリウス・カエサルはこの日、彼らを率いてローマ本土へ上陸することを決意したのだった。

 ガリア制定を成し遂げたカエサルは、依然としてローマで多大な人気を誇っていた。彼に反感を持っていた政務官ポンペイウスと元老院は結託。ローマにカエサルを召喚した。応じればこれまで特権的に免れていた罪を追求され刑罰に処されることになる。死罪に問われずとも、築き上げた権力は失墜するだろう。それを免れる方法はひとつだけ。だが、軍を率いて上陸すれば後はない。血にまみれた内戦の火蓋が切って落とされる。

「我は元老院の豚どもの悪臭からローマを開放する❗😍😍😍そして哀れなポンペイウスの肉片、我がプリウスによって轢き潰してしまおうではないか❗✊🚗」
 
 プリウスはトヨタ自動車によって1997年から発売されているハイブリッド自動車である。その燃費性能とエコ意識の高まりによって、今でも根強い人気を誇っている。一方、その静音性から接近に気付きにくく、プリウスに乗った老人が暴走して起こした自動車事故が多発したことから「プリウス・ミサイル」として恐れられているのも事実だ。

 プリウスの兵器としての特性に目を付け、軍事転用に成功したのが、我らが将軍ガイウス・ユリウス・カエサルである。ガリア制定に成功したのも、ひとえにプリウス戦車を用いた戦術あってのことだ。

 シュイーン、シュイーン、シュイーン。
 エンジンがかかり、プリウス軍団が続々とルビコン川を超えていく。行軍を続けていると、敵の陣が見える丘までたどり着いた。かつての盟友、そして今では我らの敵、ポンペイウスである。

「大丈夫だぎゃあ。アレクサンドリャーも落とした最強の軍隊だぎゃあ」
 トヨタの技師は自信を持っていた。ある日、トヨタの代理店にカエサルが訪れ、六千台のプリウスを注文した時、日本人はざわめいた。
「カエサルさん、流石にうちとしてはどうかと思いますよ」
 窓辺の応接用の丸テーブルに陣取ったカエサル氏は、紙コップでコーヒーを飲みながら、熱弁する。
「しかし、貴方がたの戦車は非常に性能が高い❗ゲルマン人どもを下すためにも、我が軍には絶対にプリウスが必要なのだ😭😭😭💥」

 確かに、トヨタ車がその性能から多くの戦場で利用されているのは暗黙の了解と言ったところで、日本人達は見て見ぬふりをしていた。しかし、公然と、今まさに戦争を起こそうとしている将軍に輸出するのはどう考えてもよろしくないことだった。
「将軍、ミサイルの輸出は武器貿易条約ATTで規制されているのですよ。もちろん戦車もです。プリウスはミサイルであり戦車だ。これは言い逃れできません」
 しかし、トヨタ自動車本社にこれが伝わると、彼らはこれを宣伝の機会になると考えた。ローマに六千台を売ることで得られる恩恵はあまりにも大きい。そしてゲルマン人が征服されれば、ライバル企業フォルクスワーゲンの売り上げも大きく落ち込むだろう。

 そして、プリウス六千台と、トヨタの技師がこの地に派遣された。笹山明宏36才。技士としては中堅だが、その熱意は誰にも負けない、熱い男だ。
「将軍、ポンペェーウスなんて、我が軍のプリウスの前にゃあ、轢き逃げで決まりだぎゃあ!?」
「その通りだ🤩🤩🤩絶対倒せる😆😆😆😂」
 しかし、この時、彼らは知る由も無かった。ポンペイウスの軍には、赤いワーゲンのSUVを駆る伝説の傭兵、「ソレントの猟犬」が参加していることを。
 トヨタ自動車、フォルクスワーゲン。二大企業の思惑はローマ帝国の影響範囲内でのシェア争い。
 このローマの地で、企業代理戦争の火蓋が切って落とされた。

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