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岐阜県限界集落㊙裏話

 さて、先日のニュースを見て、気になってここにアクセスしている人も多いだろう。先週岐阜県で何が起こったのか、不思議に思っているはずだ。だからできるだけ正直に、俺たちがやってしまったこと、昨日までに起こったことを書く。

 事の発端は、ちょうど一週間前。

 俺の人生はチンカスだ。25歳になっても岐阜県を、この村を出られないでいた。東濃の山間。長野との県境に位置するここの村は、はっきり言って限界集落だ。人口減少がヤバく、潰れかけている。東濃に村はないとされているが、そんなの大嘘だ。だが、この村の存在は田舎すぎて認知されていない。国土交通省も把握してない。こんな場所で働くなんて馬鹿げてる。だから俺は隣町のパン工場に就職した。

 俺は村長の長男なので移動できるのは隣町までという取り決めがある。だから必然的にこの歳まで彼女なんて出来なかった。田舎に女はいない。

 驚くべきことにインターネットはある。だからTinderをやって都会の女達をnope!することで気を紛らわせていた。nice!を押しても都会の女とマッチすることはない。なぜなら俺が岐阜県民だからだ。

 あの日の工場の帰りも、バスの車内でそんな遊びをしていた。今日は神殿に行かなければならない。バスの数は12時間に一本なので、必然的に神殿に泊まることになる。自動車はない。教習所が遠く、縛りのある俺には免許が取れないからだ。ハイパーループで神殿に行きパワーの修行をする。それが代々続く村長の息子の務めだ。

 神殿に着くと、俺は鍛錬場に入った。身を清め、座禅を組む。するとパワーが漲ってくる。

「破!」

 俺は叫ぶ。しかし何も起きない。神官は俺には才能がないと言っていた。俺はやはり駄目なのだろうか。

 その日の鍛錬を終え休憩していると、パチパチと何かが燃える音がした。キャンプファイヤーでもやっているのか?と思って神殿の広場に向かう。そこではみんながデカすぎるヒトガタを燃やしていた。ちょうどその場に10人くらい人が集まっている。それは田舎では驚くべきことだった。

 近所のおばちゃんに声をかける。おばちゃんはこのご時世に珍しくタバコ屋をやっている。田舎にコンビニはないし、娯楽もない。だからタバコが売れるのだ。

「おばちゃん、あれ何燃しとんの」

「ありゃウィッカーマンじゃ。昨日な、巫女が予言したんじゃ。来月、厄災が起こる。だから燃やしたんじゃ」

 ウィッカーマンは始めて見る。厄災に対し、人を燃やし贄とすることで神に助けを乞うこの村の風習だ。

「え、じゃああの中で燃えてるのって」

「村長じゃ」

 おばちゃんは言う。

 ウィッカーマンに入るのは誇るべきことだ。村長は村を守るため、犠牲になったのだ。お前は村長の息子なのだから、その習わしの重要性はわかっているはずだ。

 俺はウィッカーマンの中を覗く。確かに黒焦げになっているが、間違いなく父の体型だ。俺は呆然とする。

 その日はたまたまその場にいた農協のおじさんに家に送ってもらった。家に帰ると、母と妹が青い顔をして出迎えてくれた。

「母ちゃん、父ちゃんが」

 俺はウィッカーマンのことを伝えようとするが、上手く言葉がでない。母さんはコクンとうなずく。

「お父さんは村人に燃やされちゃった」

「厄災を止めるためには仕方なかったのよ。父さんは立派に務めを果たしたわ」

 母さんは大人の意見を言う。こういうとき、自分まで子供みたいに振舞ってはいけないと。母さんはそういう人だ。それでも俺は母さんに泣きじゃくってほしかった。

「収入が無くなるわね」

 それは俺の家族が直面した最大の問題だ。ウィッカーマンは奉仕だから家族に補償はない。村長の家とはいえ、こんなド田舎。蓄えもない。俺が働くパン工場は手取りにして13万円。これが非正規雇用の闇だ。

「お母さん、儀式しかないんじゃない」

 妹が提案する。

 母さんは、

「そうね。私もそれを考えていたところ。そうと決まれば親戚中に電話よ」

 母さんの号令で僕たちはそれから三日間、関係各所に電話をしまくった。東京に行った親戚、儀式の代行業者、牛人ハンター。儀式に必要なありとあらゆる人に電話をする。


 そして儀式当日......

 村外れの広場にはプレハブの祭祀場が出来上がっていた。工事現場にあるような鉄骨でストーンヘンジが組みたてられて、それは壮観だった。儀式代行の業者さんが組み上げてくれたのだ。同心円状のヘンジの中央には血の祭壇が聳え立っている。

 それから人。こんなに多くの人は始めてみるってくらいいる。これはみんな俺の親戚らしい。

「皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 母さんがマイクで会場に呼びかける。

「それではこれより儀式を始めます」

 みんなのどよどよ、とした声が収まる。

 これから始まるのだ。血の女神を召喚するための儀式が。

「それでは、第一の儀を始めます。皆様、前へ」

 それぞれの家の家長が集まり、皆でぐるりと祭壇を囲む。皆が座っている御座は業者が組み立てており、地上から10m以上も高い。その腕にはカテーテルがついており、血が抜き取られている。

「ああ、我が最愛のお方。我ら七人の贈り物を召されますよう」

「血の渇きよ......血の渇きよ......血の渇きよ......」

 カテーテルを通った血は、祭壇にポタポタと降り注ぐ。

「黒き翼、紅き眼、白き肌......」

「運命の調和よ......麗しき血の乙女よ......」


 儀式は第二段階へ。農協から取り寄せた大量の牛の精液スペルマが女神の像にかけられていく。

「穢され、輝く血の乙女よ......牛の子を孕みし者よ......」
 俺たちは乱交した。家族とか、親戚とかは関係ない。老若男女見境なく、目が合った人、隣にいた人のヴァギナに(もしくはそれが男同士だった場合、アナルに)ペニスを挿入し、ヘコヘコと腰を打ち付ける。

 祭祀場は嬌声に溢れている。
 妹はおじさんに犯されている。
 俺はおばさんに犯されている。
 これはそういう儀式だ。
 血の交わりを。そして、交信を強める。
「血の種よ!血の種よ!血の種よ!」
 俺たちは叫ぶ。セックスをしながら詠唱する。

 そして、儀式は最終段階へ。

「我はお前の子らを殺す!その身を暗き淵に投げ悔やむが良い!」

 鎖に繋がれて連れられて来たのは牛人うしびとだ。はるか昔、牛の神と交わった者の末裔。そして地下世界に追いやられ、生涯を人に蔑まれる奴隷。俺は牛人を始めて見た。

 中津川の地下に広がる東濃大空洞には大勢の牛人が隠れ住むという。岐阜にはほとんど仕事がないから、牛人狩りは岐阜県の若者に人気の職業だ。地下世界を冒険し、土着の牛人を捕まえ、売り飛ばす。岐阜県の収入の20%は奴隷貿易によって賄われていると言っても良い。岐阜県では牛人をたくさん狩れる若者は女の子にモテるから、俺も一時は牛人狩りになろうと思った。それが出来ないのは俺が掟で縛られているからだ。

 祭壇に並べられた牛人は無惨にも大鉈で首を切り落とされていく。一頭、また一頭と。ギュイーっと最期の声が響く。ただの牛でさえ屠殺のやり方が残酷だと言われる世の中だ。でもここは田舎なので、誰もそんなの気にしない。俺は牛人の断末魔を聞いて、都会の女の子の言うことも一理あるなと思った。流石の卑しい牛人だとしても、憐れに感じたからだ。

「血種の女神よ。我を呪うがいい!その身その魂、我によって征服されたり!」

 母さんは叫ぶ。これで儀式は終了だ。最後の血が垂れ終わった時、血の女神は復活する。


 そして。


 血の爆発が起きた。


 これが事の顛末だ。この世界は血の領域に侵食され、血の世界に作り変えられた。儀式に参加していた人はひとり残らず、血に飲まれて死んだ。母さんも妹も。親戚も。俺だけが、生き残った。俺だけが、罰を受けた。

 俺たちは運命を作り変えようとした。そしてそれはすべて逆の結果を呼びこんだ。巫女が見た厄災とは、俺たちが降臨させた血の女神のことだったのだ。

 血の女神は今でも世界に君臨している。これを読んだ人は、人生に困っても、安易に儀式などに頼ろうとしないことだ。血の女神が倒され、世界がなんとかなるその時まで、君たちには生き残っていてほしいから。


 

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