アベノマスクが届いた

その日、ぼくたちは遠足で自民党本部に遊びに来ていた。自民党本部1Fには、おみやげコーナーがあり、岸田総理の顔出しパネルなどが置いてあった。みんなが岸田総理から顔を出して写真を撮っていた。ぼくはそこで晋羅万象マスクを買った。晋羅万象マスクはぼくの学校で流行っていた。晋羅万象マスクは、自民党が運営する食玩会社、自民党カンパニーが売っている食玩のひとつだ。

2枚のガーゼを重ねて作られたマスク。このマスクは袋から開けた瞬間から、残酷な選択を迫られる。ガーゼとガーゼの間に政治家のキャラクターカードが封入されているのだ。君はガーゼを破り、カードを手に入れるか?マスクとして使い続け、カードを諦めるか?

僕たちは遠慮なくビリビリに破いた。どよめきが起きた。山ちゃんがSSR「聖帝竜アベノミクス」を引いたのだ。他のやつも、「太郎の率いるチンズリ騎士団」などを引き当てている。

一方で、ぼくのカードは、蓮舫、蓮舫、タツヤ、蓮舫、タツヤ、タツヤ、タツヤ。

ぼくは悲しくなって、泣いちゃいそうになってしまった。

そこに、一人の男がやってきた。
「やあやあ、良い子のみんな、私の会社を楽しんでくれているかね?これから工場見学だ。アベノマスクが作られる様子をご覧にいれよう」

自民党カンパニーCEO 晋さんだ…!

ぼくたちはたっぷりと、マスクが作られる様子を見学した。マスク工場では小人たちが踊りながら、マスクをちくちくと裁縫していて、愉快な光景だった。けれどもぼくは、ちっとも楽しくなかった。
「どうかしたかね?」
と晋さんが心配そうな顔でぼくを見る。
ぼくは正直に言った。
「晋羅万象マスクの中身が、蓮舫とタツヤしかなかったんだ」
晋さんは一瞬、憤怒の顔になり、その後、ぼくに優しく言った。
「それはいけない。まさか、あろうことか、自民党本部1F おみやげコーナーにそのようなカードが紛れ込んでいたとは。担当者はすぐに処分しよう。分かってる。それじゃあ気が収まらないね。3日ほど待っててくれ。いいかね?」
ぼくはこくりと頷く。

小人たちの歌が聞こえる。モリモリ、カケカケ、みんな友達。モリモリ、カケカケ、みんなで歌おう。

それから3日経った。その日、ポストには山程のアベノマスクが届いていた。何ごとかと思い、袋を開けると、晋羅万象マスクが200枚も入っていた!

ぼくは晋羅万象マスクをびりびりと開けた。すると、その、200枚すべてが「聖帝竜アベノミクス」だった!

日本よ、日本人よ、世界の真ん中で咲き誇れ。

ぼくは飛び上がって喜んだ。晋さん、ありがとう。日本、ありがとう。日本の夏、セミの声、今静かにして、陽の下に宿れるなり。わが心、その宿れるなりと同じき安き心にある。

ぼくは一通り喜んでから、共産党本部1F おみやげコーナーで買った柿ピーをつまんだ。普通に美味しかった。

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