景表法のスキマ
テレビ、新聞、ネット、道すがらに立つ看板…ありとあらゆるところに、掲載れているのが「広告」。目をつぶっていない限りは、日常生活の中で広告を見ない日はないと思います。
そんな広告に関して、今週、動画共有アプリ「TikTok」の運営会社の日本法人が「ステルスマーケティング(以下「ステマ」)」を行っていたと、日本経済新聞の他、各社で報道していました。
下の図のように、SNSで多数のフォロワーを抱える、いわゆる「インフルエンサー」に報酬を払って、指定した動画を一般の投稿のように紹介させていたとのことです(2019年7月~21年12月末まで実施)。
ステマは一般的に「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」を意味しています。目にした時には、それが宣伝・広告であるとわからないものであるため、個人的には少し気味の悪い宣伝行為だと感じます。
ところで、バレれば消費者の信頼を損なうステマ行為ですが、法令などで規制はされていないのでしょうか。今回、宣伝や広告の表示に関する規制を定める「景品表示法」をもとにステマ行為について考えていきたいと思います。
なお、本稿の内容は筆者個人の見解であり、法令等の正確な解釈については、ご自身で弁護士等の専門家に確認すべきことを予めご了承願います。
景品表示法の概要
消費者であれば、誰でもより良い商品やサービスを購入したいと考えます。しかし、チラシやパンフレット、店舗にあるPOPなどの商品に関する表示物に書いてある内容は実は見せかけで、実際の商品はチラシなどに書かれているほど良いものではない場合、消費者は、正しい選択ができなくなり、粗悪な商品やサービスを掴まされるおそれがあります。
また、例えばあるスーパーで、「5,000円以上購入で高額な景品プレゼント!」といった企画を行うと、本当は買い物する必要はないのに景品欲しさに買い物をしてしまうなど、消費者が正しい判断や選択ができなくなるおそれがあります。
上記のような不当な表示行為や景品の提供を防止し、消費者の利益を保護するための法律として「景品表示法」が定められています。
なお、景品表示法は「不当表示規制」と「景品類規制」の2つに大別できますが、今回は「不当表示規制」のみを取り上げたいと思います。
規制の対象となる表示
景品表示法の規制対象となる「表示」は、①顧客を誘引するための手段として、②自己の供給する、③商品・役務(サービス)の取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、内閣総理大臣が定めるもの(=「定義告示」)と定義されています(景品表示法第2条第4項)。
定義告示の内容は下の引用のとおりとなりますが、かなり広い範囲の表示が列挙されています。商品やサービスに関する表示をしていれば、ほぼ景品表示法上の「表示」に該当するとも考えられ、今回のTikTokの動画も、TikTokのサービス紹介であった場合は「表示」に当たると考えられます。
不当表示の類型
景品表示法では、不当表示の類型として以下の3つを定めています。
(1)優良誤認表示
①実際の商品またはサービスの内容よりも著しく優良であると誤認され
る表示
例:「カシミヤ100%」との記載があるが、実際はカシミヤ80%であ
る場合
②協業事業者の商品またはサービスの内容よりも著しく優良であると誤
認される表示
例:「他社の2倍量」との記載があるが、実際は他社のものと同容量
の場合
(2)有利誤認表示
①実際の商品またはサービスの取引条件よりも著しく有利であると誤認
される表示
例:「会員限定2割引」との記載があるが、実際は誰でも2割引を受け
られる場合
②協業事業者の商品またはサービスの取引条件よりも著しく有利である
と誤認される表示
例:「他店より3,000円安い」と書かれているが、実際は他店と同価
格である場合
(3)指定告示
優良誤認表示・有利誤認表示の他、内閣総理大臣が指定する表示
例:無果汁の清涼飲料水等についての表示など
ステマと景品表示法の関係
景品表示法の概要で述べたとおり、広告などの表示が「著しく優良」または「著しく有利」であれば、景品表示法違反となり、同法を所管する消費者庁から措置命令や課徴金納付命令などの行政処分が下されることになります。今回のTikTokの動画について、動画の内容を確認したわけではありませんが、消費者庁が(今のところは)措置命令などを出していないところを見ると、優良誤認表示や有利誤認表示には該当しないものであったのだろうと推測します。
では、「ステマ」という宣伝行為そのものについては、景品表示法に抵触しないのでしょうか。結論を言うと、景品表示法では、「ステマ行為」自体は直接禁止してはいないと考えられます。ステマ行為は、消費者からすると宣伝なのかわからないものであり、好ましい行為ではないと思います。一方で、景品表示法は優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示にかかる表示のみを規制しており、「ステマ」にかかる広告が不当表示に当たらない場合は、景品表示法違反の問題が生じないのが現状となっています。
いわば、「ステマ」は景品表示法のスキマをくぐった表示行為と言えると考えます。
まとめ
「ステマ」自体は昔から存在しており、古くて新しい問題であると感じます。ステマ行為に対する景品表示法上の考えは上記のとおりですが、民間レベルではステマ行為の規制や消費者庁への意見書の提出がなされてはいるところです。
同様に古くて新しい問題であるアフィリエイト広告については、消費者庁が昨年から検討会を開催し、先日には報告書(案)を公表したところです。ステマについても今後、何らかの議論がされることもあり得るため、動向を注視していきたいと思います。
参考文献
『エッセンス景品表示法』古川 昌平著(商事法務、2018年)
『景品表示法 第6版』西川 康一編著(商事法務、2021年)
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