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【不妊治療】第2章【手探りの治療3】夢は見ない・前編

夢は見ない 前編


平成7年3月15日

今日は、主人の再検査の日だ・・・。落ちつかない。おかげで、やたら早起きしてしまった。
私自身、今 基礎体温が、かなり希望のもてる高温期にある。前々回の通院日『今まさしく排卵寸前』と言われ、夫婦生活をしておくようにと指示されて・・・その日から11日が過ぎようとしている。

基礎体温表から見る分には、今までにないぐらい『イイ感じ!』で、内心かなり期待している。

でも、今日の主人の再検査で、思わしくない数値が出たら、期待もなくなってしまう。
昨晩も落ちつかないのか、夜中に何度も目が覚める。
「ちゃんと眠らなければ、基礎体温もきちんと計れない」と思いながらも、眠れず、夜中にもかかわらず、体温を計り、まだ『高温期』にある事を確認してみたりしてしまう。無駄な事と知りつつ。

もし・・・もしも、今 私のお腹の中に小さな命が出来始めているなら、どうか、無事に育って欲しい。私、頑張るから・・・。
その命は、とても望まれて出来た命なのだから・・・。子供が生まれたら、いろんなことが変わる。嬉しいことの方が多いだろうけど、思い通りにならない事も多々あるだろう。それでもやっぱり、今は子供が欲しい

どうか、今日の主人の検査結果で、期待の持てる数値が出ます様に・・・改善されていますように。

彼も何だか落ちつかないのか、寝苦しそうだ。
もし、今私のお腹の中に赤ちゃんがいなくても・・・せめて主人の検査結果が良ければいいのだ。せめて少しでも回復の兆しが見えれば・・・これ以上、私達2人に『絶望』を与えないで欲しい


病院から帰って来た。


ふりだし」だ。

今の気持ちをなんと言い表せる事が出来るだろう。
主人の再検査の結果、主人の「精子減少症」に、改善はなかった。初回の検査結果と何ら変わらず、この3ヶ月間の投薬と注射による治療の効果は全くなかったのだ。

私は、MA医師に尋ねた。「普通は3ヶ月の治療で何らかの効果が出るものなのでしょうか?」と。MA医師は「効果が出ない事もあるが、出る人の方が多い」とおっしゃった。

精子が作り始められてから放出されるまで普通3ヶ月ぐらいかかるから、多少遅れて効果が出る人もいるらしい。

そういう事もふまえて、結局今までと同じ薬と、注射による治療をまた3ヶ月繰り返す事となった。
MA医師の話では、3ヶ月の治療を1サイクルとし、そのサイクルを2回、つまり半年間同じ治療を続け、効果を見る。それでも改善が認められなければ、次のステップへと移り、それを2サイクル(半年間)行う事になるそうだ。
そう、このままいけば、1年間も『薬』を飲み続け、2週間に1度『注射』をしてもらう為に通院しつづけるのだ。

次の検査は6月の末頃。

私のお腹の中の≪かもしれない期待≫はこの時点で無駄なものに変わった。
もうじき生理になるだろう。

そして生理が来たらまた5日後に、排卵誘発剤のお薬を飲み、次の排卵を待つ事になる。

もう、これ以上≪つらい事実≫を知りたくない。受け入れたくない

確かに、不妊と戦っているご夫婦は、他にもたくさんいる。今日も、病院の泌尿器科の前には何組もの夫婦が診察を待っていた。
きっと同じ悩みを抱えている。

私達の戦いはまだ始まったばかりかもしれない。1年?3年?5年?・・・いえ、10年戦う覚悟がなければ、レースに参加してはいけないのかもしれない。
始まったばかりのレースに『絶望』と言う言葉は≪先輩レーサー≫達から見れば『まだまだよ!これからよ!』と、思われるだろう・・・そんな言葉は、おこがましいぞと。

『精子減少症』がそう簡単に良くなる訳が無い事は、なんとなく頭の中では理解していたはずなのだ。
しかし、いざ『やはり、ダメです。』と突き付けられて、笑っていられるほど、私達はまだ人間が出来ていないのだろう。

子供は欲しい・・・でも、こんな”ひ弱”な私達に神様は授けては下さらないのかもしれないね。弱気にばかりなっていく。

何の苦労もなく子供に恵まれたご夫婦に聞いてみたい。
『いったいどんな強い人間になれば、神様は子供を授けてくれるのですか?』

今夜も何度も目が覚めるだろう。何度も、何度も。
私達に、朝はこないかもしれない。


平成7年3月17日

今朝の基礎体温はまだ高い。
・・・検査結果を知ってからも、やはりまだ期待してしまう。

奇跡が起きるかもしれない』と。


期待を持ちすぎてはいけない・・・けど。
絶対ガッカリするのは分かっているんだから・・・けど。
今は、ただ祈るだけ。


次回・・・第2章 手探りの治療<3>
夢は見ない・後編
・・をお届けします。

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