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【不妊治療】第4章【顕微授精に至るまで<1>】新しい夜・・【前編】

新しい夜・・・【前編】

平成8年9月28日

別のゴールを選んでから、9ヶ月たった

別のゴールを選んでいながらも、主人の方では≪治療≫を続けてきた

主人は≪スプレキュア≫の治療をしながら、相変わらず、3ヶ月に1度の検査をして。
・・・先日はスプレキュアに変えてからの3回目の検査だった。

そして、結果も相変わらずで、ついに、泌尿器科のMA医師は『顕微授精をする他ないです』と結論を出された。

『紹介状を書きますから、Mクリニックへ行って、顕微授精を受けて下さい。婦人科のS医師にも相談して、紹介状を書いてもらって下さい。』と、不妊治療専門のクリニックを紹介された。


さあ、どうする・・??

また『迷い始めている』・・・このまま2人だけで生きていくか、大金を払って『一か八か危ない橋』を渡るか?!
双方の両親も反対している・・『そこまでしなくても』と。

迷う。この9ヶ月間、別に何も考え無かったわけじゃない。
相変わらず、他人の『社交辞令』に悩まされ、傷ついてきた事は、少なからずあった。
・・・やはり『子供がいれば・・・』そう思う事も何度かあった。

迷う要因は他にもある。≪仕事≫だ。
色々な仕事を抱え、期待もされている。10月からの新体制でも、私の仕事は動かされる事もなく、今のまま続けられるし・・・仕事が好きだ、面白いし、やりがいもある。

でも、今までだって、治療を行うたびに通院などで、仕事をお休みしなければならなかったし、顕微授精の治療を始めれば、今まで以上に休まなければならなくなる。会社にも、得意先にも迷惑をかける

でも、会社にとって、私の変わりはいるかもしれないが、主人と私の子供を産めるのは私しかいないのだ。


平成8年10月23日

久しぶりに、T病院の婦人科へ行く。・・・・と言うのも≪決めた≫からだ!!『顕微授精をしよう!!』と決めたからだ。

長い間迷ってきたけれど、今日S医師に紹介状を書いてもらう為、病院を訪れた。ようやく決心がついたのだ。

与えられたチャンスを、やはり全て活かしてみようと思う。

通いなれたT病院から別のMクリニックへ行く事になる。
どんな所だろう??S医師にいただいた、Mクリニックの事がかかれた紙には『体外受精専門クリニック』とあった。正直言って、この文字を見て、少し足がすくんだ。
でも、このMクリニックに、全てを賭けてみる事にする。

やってみるしかない。よくよく考えて決めたのだから、なんとかなるよ。


平成8年11月6日

私たちは、最後の砦となった≪顕微授精≫の扉を開ける事にした。

Mクリニック・・・待合室で診察の順番を待っている。
待合室は、主に女性が中心で、その横に少し小さい男性用の待合室がある。

待合室の壁のボードには、赤ちゃんの写真と共にここで不妊治療を受け成功した人達からのお礼の手紙がたくさん貼られている。
いつか私もこんな手紙が書けたらいいなぁと思った。
待合室には、たくさんの女性患者で、椅子が埋まっている。
こんなにたくさんの女性が何らかの婦人病や、不妊に苦しんでいる。

昨晩、主人と話をした。
『最後の手段に踏み切る事について』・・・本当にこれで良いのかと。
今までの生活や仕事、今の気持ち、迷い、恐さも含めて・・・。
主人が私の『負担の半分』を背負ってくれると、信じている。

そして、1つだけ決め事をした。
・・・顕微授精は『2度までしかしない!』と。それ以上は、諦めよう。
そうしないと、何処までも際限なく続けてしまう

・・・自分達のゴールは、初めから決めておこう

与えられたチャンスを最大限、つかんでみよう。
与えられた試練に最大限、耐えてみよう。
いつか、この待合室に幸せな写真とお礼の手紙が貼ってもらえるように・・・頑張ってみよう。

ようやく診察が終わった。とても患者さんが多かったので、待ち時間もその分ながかった。しかも、今日は問診だけかと思ったら、内診もあった。
MクリニックのM院長は(T病院のS医師とMA医師の紹介状のおかげで)ほとんど説明無しに理解して頂けた。
M院長は思っていたよりはるかに若く、びっくりした。

M院長の話を聞いて勇気が出てきた
主人の『300万。20%』と言う精子の状態でも十分に体外受精による妊娠が可能であると、断言して下さった。

しかも、このMクリニックで体外受精をした半分以上の患者さんが無事に妊娠出産しているという。成功率50%。かなり高い。

色々な本では、成功率は30~40%だと書かれているものがたいはんで、自然妊娠の確立と同じだったから、≪半分以上≫と聞いて『私達にも子供ができるのだ!』と思えた。
しかも、M院長は『いつ頃欲しいか希望はあるの?』とまるで、≪プレゼント≫でもくれるかの様にきいて下さった。
そんなふうに希望したりできるなんて思ってもいなかったので、驚いた。『欲しいと思う頃にチャレンジできるんだ?!』そんな選択まで許されるんだ・・・嬉しかった

しかし「一般の体外受精では、10回に1回成功するかしないかの≪精子レベル≫なのでいきなり≪顕微授精≫でいきます。」との事。

やはり、100万くらいの出費を覚悟しておかなければ・・・。
でもいい・・こんなに勇気が出たんだから。

このクリニックを、M院長を信じよう。昨夜、主人と話をして決めた。
2年・・・まる2年、迷った。何度も何度も行ったり来たりしながら、決めたんだから。最後の手段が成功します様に・・・神様が本当にいるのなら・・・もう、これ以上私たちに試練を与えないで欲しい。


平成8年11月12日

昨夜、主人と少し言い争いになってしまった。近頃良く眠れない・・・少しの期待と不安。ずっとつきまとっている。怖いと思う気持ちがやはり振り払えない。

そんな気持ちが少しでも楽になればと思って、主人に同意を求めただけだったのに・・・。『頑張ろうね』って言って欲しかっただけなのに。

あんまり元気のない返事ではぐらかされた。そして、言い争い・・・
彼にやる気が無い訳じゃないと分かっている。彼は彼で、不安を抱えているのだろう。でも、リスクは私の方が大きいのだから、少し勇気づけて欲しかったのに。
半分この≪怖さ≫を持って欲しかった・・・それだけなのに。
彼は、今だに乗り越えていないのだろうか?!

私は、成功する事だけを考えて、それだけを祈りたい。
絶対に、子供ができるのだと。


次回・・・第4章 顕微授精に至るまで<1>
新しい夜・・・【後編】
をお届けします。


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