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よく物を失くす女性の依頼だった。 「いつ何を失くしたのかを確認するために、あたしを監視して欲しいのです」 まあ、失くしたものを探すのは探偵の仕事だけど、これから失くすかもしれないものについてはちょっと……。 「でも、できるだけあたしが気にならないような形でやって欲しいから、やはり尾行もできる探偵さんが適任かと」 私は断ろうと思ったが、他に仕事も無かったのでとりあえず引き受けることにした。 次の日の早朝、私は依頼主の女性の部屋を訪ねた。 女性はこれから外出するとい
祖母は朝や夕方の決まった時間、祭壇の前にひざまづき、静かにお祈りをしていた。 祭壇の中央には小さな何かの像が置かれていて、その右側に花を差した花瓶が、左側には古くて分厚い本が置かれていた。 幼い頃の私は、なぜか、祭壇に置かれたその古い本に興味があって、初めてその本を開いたとき、文字がびっしり書かれていることに圧倒されて、思わず閉じてしまったことを今でも覚えている 「そこに書いてあるのは、ただの物語なのよ」 祖母は幼い私の肩に、優しく手を置きながらそう言った。 「ものが