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その他の不思議な小説

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分類できなかった話。
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2017年11月の記事一覧

【短編】 境界の言葉

 雲と空、つないだ手と手、さよならとこんにちは――そんな、何かと何かの境界からこぼれ落ちた言葉をいくつも拾いあつめて、僕は博物館をつくった。 「このお店は……」と、三十代ぐらいの上品な女性が、展示物を見渡しながら僕に尋ねる。「いったい何のお店なんですか?」  博物館は静かな住宅地の中にあるので、よく画廊か何かと間違える客がいるのだ。  僕は笑顔で答える。 「申し訳ありません。ここは博物館なんです」 「博物館? じゃあこれは何ですか?」 「それは、おととしの秋にみつけた《ドン

【短編】 できるだけ素っ気なく、でも優しさを忘れずに

 寒かった。  男はピストルを動物に向けながら、私の質問に答えた。 「つまりやつらが、無抵抗だからさ」  男は動物を撃った。 「生きたければ、抵抗するしかない」 「では、抵抗する手段がない場合は?」 「知らんよ」  私は自分のピストルを取り出した。 「俺を撃つ気か?」 「ええ」 「撃てよ」  私は男を撃った。 「意外と痛みはないぜ、でも……」  私は動物園を出ると路面電車に飛び乗った。 「次の駅は、論理の痛み、論理の痛みと、言葉と詩と恋……」  向かいの席に腰かけているミニ

【短編】 塔

 この街には巨大な塔が立っている。直径が一キロメートル、高さが十キロメートルもあるため近づくと壁にしか見えない。そして普通の塔と違って真っすぐに立っているわけではなく、地面に向かって弓なりにカーブしているため、遠くから眺めると今にも倒れそうに見える。ちょうど糸を垂らした釣り竿のように見えることから『巨人の釣り竿』と呼ばれることもあるが、もともとは空に向かって真っすぐに伸びていたものであり、それが数千年ほど前から傾きはじめて現在の状態に至ったのだという。専門家が構造を調べた結果

【短編】 遺品

 それは30センチメートル四方の平べったい木箱だった。昆虫の標本箱みたいにガラス張りになっており、祖父によると、その箱の中にはきわめて小さな体をした人間が沢山棲んでいるのだという。だから毎日水や食べ物を与えたり、日光に当ててやらなければならないのだと。 「この箱の中では、1ミリが1キロメートルの長さになる。だからね、この箱は九州がすっぽり入るぐらいの大きさがあるんだよ」  しかし箱の中はカビのようなものが所々に生えているだけで、だた眺めていても面白いものではなかったのを覚