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子どもの小説

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「子ども」が主人公だったり、印象的だったりする話。
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#戦争

【短編】 戦争と幼馴染と終わらない旅

 ペーターには住む家がありません。  戦争で村がすべて焼かれてしまったからです。  お父さんとお母さん、そして妹のビアンカも炎に焼かれて死にました。  ペーターは、大きな空き樽の中でいつものように昼寝をしていたから助かったのです。  妹のビアンカも一緒に樽へ入ろうとしたのですが、何となく鬱陶しくて妹を追い出してしまったことを、ペーターはひどく後悔しました。 「ようペーター、お前も生きていたか」  涙をぬぐいながら振り向くと、幼馴染のオスカーと、クリスティーナが立っています。

【短編】 ベイビーボム世代

 かつて、赤ちゃんが爆弾として戦争に利用された時代があった。  それはベイビーボムと呼ばれ、爆撃機から投下されると爆発するのだが、不思議と赤ちゃんが死ぬことはない。  地上に残った赤ちゃんは後で回収されるが、戦火で死んだりして、いつも半分ほどの赤ちゃんは返ってこなかったという。 「この世界大戦において、赤ん坊は最重要の戦力であり、その数によつて戦争の趨勢が決まるです」  当時、街頭演説をした政治家の言葉だ。 「赤ん坊は爆発しても死にませぬ。しかも、我が子が爆弾になつて、国家の

【短編】 君が死んだら、世界を殺して僕も死ぬから

 ある夏休み、僕は怪物と出会った。 「はあーん、ブふふーん!」  二億年の眠りから目覚めた怪物のミーちゃんは、肺に溜まったカビを吐き出しながら、死ぬほどまぶしい青空や、水平線を白く支配する入道雲を5万カラットの瞳でキラキラと眺めていた。 「ねえミーちゃん、今から海へ行こうぜ!」 「いいよ、ケンちゃん!」  海水浴場へ着くなり、僕はTシャツを脱ぎ捨て海へ飛び込んだ。しかしミーちゃんは、水際でポツンと海を眺めるばかり。 「こわくない、こわくない」  ミーちゃんは心を決めてプルル

【短編】 いつか王子様が

 私はむかし、子どもでした。  体が小さくて、いつも大人を見上げていましたし、よく転んで怪我をしたり、泣いたりしました。  王子様と出会ったのは、小学校の鉄棒を、なんとなく飛び越えようと思ったら鉄棒に太ももを激しくぶつけて、地面でのたうち回っているときでした。 「鉄棒は、手でつかんで体を回したりするものなのに、君はなぜ飛び越えようとしたんだい?」  王子様は、無邪気にそう質問しました。 「今は太ももが痛くて死にそうなので、質問は後にして下さい」  私は、そう答えるだけで精一杯

【短編】 宇宙探偵

「ねえ、なんかここお酒臭いんだけど」  仕事の都合で女の子を預かることになったのだが、彼女はいろいろと文句が多い。 「それにさ、服とか食器とか本とかが絶望的に散らかっているんだけど、泥棒でも入ったの?」  この宇宙船は、いつも俺一人だからとくに気にしていなかった……。 「まずは掃除をして、人間が住めるようにしましょ」  彼女の口ぶりはまるで母親みたいで参ったが、二人で三時間かけて掃除をしたら、船内が見違えるように綺麗になった。  さらに彼女は、花を活けた花瓶を置いたり、ぬいぐ