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小学校に通い始めた頃、私は帰り道で狸に話し掛けられた記憶があります。 「おい子ども、わたしのランタンを知らないか?」 「ランタンてなに?」 「ほらその、火を灯して夜の闇を照らすものだ」 「しらない」 「はあそうか、でもランタンがないと大変困るのだ」 狸と出会った場所は、都会の住宅地でした。 「今夜、妹の結婚式があるのだが、私はランタンの明かりで妹を綺麗に照らしたいのだ」 「じゃあ、昼間にやれば?」 子どもの頃の私は、案外冷静に狸と会話をしていたように思います。 「狐の嫁
「おい、君は探偵ごっこでもしているつもりか?」 ずっと後を付けてくる子どもの腕を掴んで、私はそう問いただした。 「あたしは、自分の父さんを探してるだけよ!」 そう言うと子どもは、ポケットから一枚の写真を出して私に見せた。 「ほらこの写真の人、あんたにそっくりでしょ?」 確かに、顔や背格好は似ていたが、写真の中の人物は自分の知らないコートを着ていた。 念のために母親の名前を確認したが、まったく身に覚えがなかった。 「悪いけど、この人は私じゃないし、私は君の父さんじゃない
「無料で、あなたの悪夢を食べます」と書かれた、変なチラシだ。 「わたしの飼っている獏という生き物は、悪夢を食べないと生きていけません。でも、わたしや家族の悪夢は全部食べてしまったので、もう獏の食べるものがありません」 何かの冗談か、新手の悪徳商法だろうと思って、そのチラシはすぐに捨ててしまった。 しかし数日後、私は、ある女の子が、獏と思われる生き物に頭から食べられている夢を見て真夜中に目が覚めた。 とりあえず水が飲みたくなってキッチンの照明を付けると、食卓の上に、数日前