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子どもの小説

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「子ども」が主人公だったり、印象的だったりする話。
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2022年9月の記事一覧

【短編】 不思議なアリスの国

 少女に名前を聞くと、アリスだと答えた。  不思議の国のアリスのような白いエプロンをしているので、かなり怪しい。 「わたしはただのアリスです。そんなタイトルの物語なんて読んだことがありません」  グリム童話などは? 「グリム知りませんが、グリルチキンなら昨日食べましたけれど」  警察を馬鹿にするような態度や、〈物語〉という単語をあえて使ったりすることから察するに、少女はたぶんファンタジー主義者だ。    署に戻ると、私は先ほど逮捕した少女を、怖い顔をした尋問官に引き渡した。

【短編】 リコーダー革命

 女子のリコーダーをこっそり舐めることが、男子の間で流行っていた。 「だって、好きな女子が咥えたところを舐めるんだぜ。何だかドキドキするだろ」  じゃあ好きじゃない女子のリコーダーには、ドキドキしないのか。 「まあ、女子のリコーダーってだけで、何だかモヤモヤするけど」  ドキドキとかモヤモヤとか、僕にはよく分からない。 「そっか。俺たちまだ小学生だし、この気持ちが何なのか、俺にもよく分からないよ」  学校の帰り道に、親友のトモハルとそんな話をしながら、僕は、彼が少し遠くへ行っ

【短編】 ベイビーボム世代

 かつて、赤ちゃんが爆弾として戦争に利用された時代があった。  それはベイビーボムと呼ばれ、爆撃機から投下されると爆発するのだが、不思議と赤ちゃんが死ぬことはない。  地上に残った赤ちゃんは後で回収されるが、戦火で死んだりして、いつも半分ほどの赤ちゃんは返ってこなかったという。 「この世界大戦において、赤ん坊は最重要の戦力であり、その数によつて戦争の趨勢が決まるです」  当時、街頭演説をした政治家の言葉だ。 「赤ん坊は爆発しても死にませぬ。しかも、我が子が爆弾になつて、国家の