Mくん。 1

Mくんと言うとSMのMなのかと思われるが彼のイニシャルである。

彼からのメールを読んだのは当日朝であった。大量のメールの中から目に付いたものを拾い上げる。写真付きのメール。平日はあまり出かけることがない私でも色々とストレスが溜まっている事もあり何も迷うことなく即オーケーの返事、即日会うことも珍しい。

約2週間ぶり、4人目の若茎との約束だ。背すじや下腹部がざわつき「そうそうこういう感じ」と心が踊る。

家族にはよく名前を出す「友人K」と飲みに行くと伝えた。何せ若い男と隠れて会うのだ、予め裏工作が必要である。

絶対に口を割らない信頼の置ける友人Kにはツイッターで若茎漁りをしていることを伝えてあるので万が一を考慮し口裏合わせのラインを送った。

「実は今日また約束したの。お願いね〜」

「え〜!また?お盛んね。くれぐれもバレないように気をつけるのよ。長く付き合える人見つけたら早いところツイッターもやめちゃいなさい!」

こんな説教じみたラインを送ってくる彼女は何と私よりも15も下。しっかりものでとても頭がキレる、年下なのに頼れる姉御肌だ。

彼女の言う通りかもしれない・・・。長く付き合える若茎を見つければそれでいいのかもしれない。ツイッターを長く続けられない事も解っている。しかし、メールは毎日止めど無くやってくる。やってくるものが多ければ多いほど選択肢も増える。「あの若茎もいい」「この若茎は美味しそう」などと私ってば何と欲張りなのだろうと思うほどだ。


デートの時はいつもよりお化粧やらアクセサリー、下着や着るものには気を使う。

「今日は普通の居酒屋さんかしら」「お好み焼き、串焼きだったら匂いが付きそうね」などと長い時間悩んだ挙句、結局は普通の装いに。

普通が一番である。何せツイッターで「ハーゲンダッツのスプーンで乳首を転がしてる」などと訳のわからない事を呟く私である、今更キラキラに気取ったところで仕方がない。


「オーママ?帰りは何時になる?お土産あると嬉しいな〜気をつけてね。」

「ハイハイ。できるだけ遅くならないように帰るわよ〜パパ既読にならないの!よろしく伝えて〜」

こんなやり取りを娘として家を出た。待ち合わせは赤羽19時半。なんと約束した彼は私の最寄りからわずか2駅先の場所に住んでいるらしい。「お互い無理の無い距離」ということで赤羽になった。

まだ小雨が降る中、普段なら濡れて嫌だ何だと偏屈になる私でもこの時ばかりは駅までの道のりが軽やかであった。

「ん〜やっぱり緊張するけど小娘じゃあるまいし相手は年下なんだから私がリードしなきゃ!」「やるぞ」と意気込む。


時間帯もあってか相変わらず赤羽は人通りが多い。ライン交換を済ませておいた私達はリアルタイムにお互いの場所を確認する。こういう場面に出くわすと時代は便利になったものだと変に感心させられる。しかし昔から変わらない事は会う寸前の緊張感やドキドキだ。「あの素敵な人かしら?え?このブサイクな人かしら?」と探している時の緊張感はとても好きである。

そんな感じで一瞬のうちあれこれ頭の中を駆け巡っていると前から若い男がノソノソと近づいて来た。

「あ!あの・・・アケミさんですか?」

「はい!え? あ〜Mくん?え〜よくわかったね〜」

「はい!だってツイッターに服装載せてたじゃないですか〜上に着てるけど下がそれっぽい柄だな〜って(笑)」

彼が八重歯を出して笑う。初対面なのにこの気楽さや軽さはなんだろうと思ったほど自然と彼の笑顔が私の中に入ってくる。

即日即会いなので何の取り決めもしていない私達。

「とりあえず何食べよ〜か。何が好き〜?」

「俺ビールが飲めれば何でもいいです!普通の居酒屋とか?」

何でもいいが一番困るのよと思いながら私達は並んで繁華街へと歩き出した。

へ〜意外と背が小さくて小柄なんだな〜とも思いながら。



続く。








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