Mくん。 3

会計を済ませレシートを見ると彼の飲んだビールの量、中ジョッキ8杯。

「結構飲んだよね〜こんなに飲んで大丈夫なの?」

「いつもそれくらい飲みますよ〜ご馳走様でした!」

と彼はアッケラカンとしている。ホルモン鍋の他に揚げ物やら刺身など5、6品のツマミを注文し「残したら勿体無い」と全て平らげてくれたのだ。その上ビール8杯とはこの小柄な身体の何処にそれだけ入るスペースがあるのかと驚かされたほど。


そんなビール8杯のおかげもあってか彼が子供の様に振る舞い陽気に見える。酔うと陽気になる人は好きである。お酒を飲み始めた若者に有りがちだが、これが泣き上戸や突然怒り出す人だったら次は無いであろう。

さすがに25歳ともなれば飲み慣れてるよね?と私は安心していた。


「あ!アケミさん時間大丈夫ですか?」

「家族にはライン入れておくから大丈夫だよ〜」

只今の時間22時前。終電は0時8分。私達は1時間半ほど駅前のカラオケ屋でカラオケを楽しみその後解散しようという事になった。


カラオケ屋の受付の店員が言う。

「3杯以上飲まれるようでしたら飲み放題の方がお得です。」

そうなの?じゃあそれで・・・。


カラオケの部屋へ入ると彼は信じられない事を口にした。

「あ。俺、全然歌ダメなんでアケミさん歌ってくださいね!」

「え〜冗談でしょ?(笑)音楽家なのに全く歌えないの?」

「うん全くダメ〜(笑)作るのと歌うのは別です」と得意の八重歯。

私はあと何度この無邪気な笑顔に騙されるのだろう。「カラオケに行きますか」と自分から言って置きながら自分は全く歌わず聴く側に廻るとは何事であろうか。こ奴、オーディンション会場の偉そうな審査員にでもなるつもりか。あ〜いいわよ。そっちがその気なら私もオーディンションを受けるアイドル志望の小娘を演じてやろうじゃないか!と謎の闘志を燃やす。


幸いにも歌う事が大好きな私はビールを飲む彼を横目にキャンディーズや堀江淳やら昭和歌謡を熱唱していた。それでも若者にも伝わる様できるだけ有名な曲をチョイスしたつもりだ。

「若いからこういう歌知らないでしょ〜?」

「昭和の歌結構知ってますよ!」

私が歌を入れる度に「それ知ってる〜!」と言って真剣に聴いてくれる。「アケミさん上手〜」と言われればお世辞だろうと嬉しく楽しい気持ちになれるものだ。


しかし歌う事がどんなに好きで楽かろうが私は実年齢65歳。さすがに一人で1時間も歌っていると老体には厳しいものがある。と同時に段々と口数が少なくなっている彼はこの1時間のうちにビールを4杯も飲み、どうやら追い打ちをかけられたらしい。非常に眠そうだ。

「あと30分くらいあるから少し寝たら?」

この時点ではやましい気持ちなど微塵も無く、まるで母の様な(いや、祖母かもしれないが)親切心でアドバイスをしていた。

「うん〜」と彼は横になる。

部屋のイスがコの字になっており「何もそんなに離れなくてもいいんじゃない?」というほど私達の座る距離が空いていた。部屋は薄暗くBGMだけが小さな音で流れ、遠くからは若者達の楽しそうにはしゃぐ声。この空気感と私達の距離感が相まってか年甲斐も無く淋しさを感じてしまう。


プルルルルル・・・ プルルルルル・・・

部屋のインターホンが鳴り響く。どうやら私も少し寝てしまったらしい。

「お時間10分前です。御延長はどうされますか?」

「はい。出ますよ〜」ガチャ。

「ほら起きなさい。10分前だって」と起きるよう彼の身体を揺するが「うん〜」とだけ返事をし全く起きる気配が無い。まさか潰れてるのかしらと少し焦る気持ち。5分ほどすると・・・

彼は何かあったのかという勢いで起き上がり「ちょっと気持ち悪いからトイレ・・・」とフラフラと部屋を出て行った。それは吐きに行くことだとすぐ理解できたので少し飲ませ過ぎたかな、過信せず止めるべきだったかと反省の気持ちが込み上げてくる。

彼は部屋に戻ってくると「気持ち悪い・・・」と言い残しバタンとまた横になった。

最悪終電が無くなったらタクシーに乗せて帰せばいいよね?辛そうだからもう少し寝かせてあげよう。と私は延長する事を独断で決めインターホンの受話器を取った。

「やっぱり1時間延長できるかしら。あとお水を2杯ください」

「これから御延長ですとフリータイムになってしまいますが」

フリータイムって何時までよ〜あ〜はいはい、もう面倒臭いから何でもいいわよ。


家族が心配するといけないのでラインを打とうとするがどんな理由を伝えるべきか頭が回らない。暫く考えた末、友人Kと飲んでいる事になっている私は

「Kが心臓発作起こして突然苦しみだしたの。救急車呼んで病院まで付き添ってるから先に寝てて。チェーンは開けて置いてね」と打っていた。

罪悪感を感じ既読が付くところや返信など見たくも無いとスマホをバッグにしまう。


「水飲みなさい〜楽になるなるよ〜?」

彼に声を掛けるが潰れて反応が全く無い。私はそんな彼をじっと眺めていた。じっと眺めていると「手に届く所に若茎が」と良からぬ考えが頭をよぎり段々と私の目が冴えてくる。


側へ寄り彼のお尻を少し撫でてみる。


逞しいお尻・・・。しかし全く起きる気配が無い・・・。


報告と称し酔った姿を写真に撮りツイッターに投稿することにも抜かりが無い私。心なしか身体も火照ってくる。


【悪戯してしまいたい・・・あ〜この場で思いっきり悪戯してしまいたい・・・】


気がつくと私は彼の股間部に手を当てていた。まるで痴漢を楽しむように。



続く。



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