「国が補助金出すから働かなくていいよ。言われたようにすればいいよ」
ある日、森の中で木を切っていると名前しか知らない遠い国から役人たちが背広を来て僕らにいった。物腰はやわらかい。
背広には共通のバッチがついている。どことなく兵隊みたいだ。
「わたしはしがない木こりに過ぎないのでお役にたてません」そう断った。
「まあまあ、ちょっとだけ話し聞いてくれないかな?」
☆☆☆
彼らは続けた。
「皆さんは焦って金属スピーカーたくさん買って借金、雪だるま
さらに仕事を失った人、多数
一から立て直すのたいへんでしょう?」
まあ、事実なので僕はうなづいた。
「だったらこうすればいいんです」
「壊れかけのものは、みんな壊してしまえばいい
この程度の毒でやられる商売のひとなんて廃業させてしまえばいい」
僕はびっくりして聞いた。
「じゃあ、どうするんですか?」
「しみったれた商売なんて全部倒産させて、たためばいいんです。
古い伝統や文化にしがみついてどうするんですか。
破壊して作り直しちゃえばいいんです。人間は頭いいから、計画的に配置すればいい。反対する人はクビですよクビ。食事に困らなきゃ、へんぴなところに引っ越してもらっても問題ないでしょう?」
☆☆☆
「そして補助金ですよ。補助金。国が全国民に配って、廃業した人にも配って、働かなくてもよい楽園を作ればいいんです。
国はどっからお金が来るかって?それは、ナイショですけれども2つだけおしえちゃいましょう。
1.まずはお札を刷ります。いくらでも印刷できます。
2.次に、一旦休んで頂いた皆さんに国がやってもらいたい仕事をお願いします。自分で探すよりらくでしょう?お金をかせがなくても、国は食事や家を無料でお渡しします。
素晴らしい楽園じゃないですか?」
☆☆☆
僕は、聞いた。
「木こりを続けることはできますか?この仕事が好きなんです」
「うーん。このシステムでは基本、自分で考えなくていいんです。仕事は国が渡します。あなたが木こりになるかどうか・・・」
「ああ、そうなんですね」
興味を失った顔を見て役人さんは慌てて続けた。
「あ、でも今より確実に楽になりますよ。何もしなくてもいいんだもの。
補助金と現物支給まっていればいいんだもの。
手のマメもなおって、スベスベ!柔らかい手になります。
何事も計画どおりになります。設計は専門の人がします。
貧富の差も、王様も臣民も、中央も地方もなくなるんです。楽園でしょう?」
「毒で村が中途半端に壊れたから迷うんです。
全部破壊してしまえばスッキリでしょう?毒を怖がっている人をもっと怖がらせて、商売を全部やめさせて出歩くのも禁止すれば解決。
村の完全破壊の完成です!そこに補助金。新しい村の誕生!」
僕は、自分の仕事や生き方を自由に選べないのはどうかと思った。
それに、がんばっても頑張らなくても一緒だったら、充実感なんて無いような気がした。
☆☆☆
僕は彼らに言った。
「僕は、木に斧が入って木の命が手に振動で伝わるのが好きなんです。
木の鼓動を感じて、手をマメだらけにするのが好きなんです。
仲間たちと自分たちで考えて村を作っていくのが好きなんです。
子どもたちが、なりたいものを選べる自由が好きなんです。」
「そうですか。あなたとは意見が合わないみたいですね。
自分から苦労したい人なんてめずらしいですね」というと、
役人たちは別の村人を説得しようと歩いていった。
☆☆☆
僕は、何事も無かったように木を切り始めた。
顔を上げると離れたところで村長も木を切っていた。
僕よりも小さい斧だけど、頑張っている。
「悪いですね。手伝わせてしまって」
「いやいいんだよ。自分で焦ってこしらえた借金だもの」
「今さっき・・・」
僕はさっき会った隣国の役人の話をしようと思ったけどやめた。
「村長さんを僕はみなおしましたよ」
僕は、そのかわりに声をかけた。
村長は両手で手を振っていた。
その笑顔を、僕は頼もしいと思った。
☆☆☆
僕は、汗を拭きながら空を見上げた。
新しく作る村の図書館の姿を晴れた青空に描いていた。
光が本にうまく落ちるように窓の位置を考えたりした。
村長が切ってくれる木はいまひとつだけど、
一番目立つところに飾ろうと思った。うれしかったからだ。
イメージさえできれば、実現できる。
この充実感は、誰かにもらうもんじゃないだろうな、と思った。
計画して計画通りできるモノなんてないだろう、と思った。
変化する自然を事前に察知して全部計画するなんて能力は人間には無い。
未来は、自分たちで臨機応変に作るものだ。
努力した成果を自分たちで享受するのが一番いいと思った。
☆☆☆
「木こりさんどうぞ」村のおばさんたちが果物を持ってきてくれた。
僕は、一休みすることにした。
甘い果物を頬張りながら思った。農家の職人さんが、土地の匂いや味まで知っていて、地面や日当たりのことを知り尽くしているから立派な果物になるんだ。遠い中央の計画なんかじゃない。
地面に根をはっている人々が村を作っているんだ、と思った。
「村人はみんな、同じことを言うだろうな」と思った。
僕は、今までの村が好きだ。
昔から続くものがみんな好きだ。
じいちゃんのもっと前から自然の中で続いてきたもの。
お店も温泉も食べ物屋さんもなにもかも。
それを壊すなんて悲しい。そう思った。
僕は立ち上がって、斧を手にした。
ずっしりした重みが手に加わった。
斧が応えたような気がした。
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