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【2軍実録】詐欺師、気をつけよう。

「2軍」とは、わたしたちイケてない家族の代名詞のようなもの。
これはどーしようもない我々家族ののらりくらりした実話です。

もう5、6年は前の話だ。
ウソウソ、10年くらい前だったかも。
独居老人宅に電話をかけ、息子などになりすまして金を振り込ませる詐欺は、かつて「オレオレ詐欺」と呼ばれていた。
今では「振り込め詐欺」と呼ぶみたい。

個人的には「オレオレ詐欺」のネーミングのほうが好きだ。


今回のケースは、あえて「オレオレ詐欺」のケースと呼びたい。



オレオレ詐欺で騙された人の話をニュースなどで聞くと、「どーしてそうなるかなぁ」なんて呆れたりしたものだ。
実際に自分でその立場にならなきゃその心理って理解しがたいものよ。

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だが、その機会が私にもやってきた。


実家の備え付けの電話が鳴った。


夏休みに実家に帰省していた私は、受話器を取る。

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「オレだけど」


電話の向こうで若い男の声がそう言った。


お盆も近い夏の日のことだった。


私は、この時期に電話をかけてくる人物に心当たりがあった。
もうじき帰省してくる弟に違いない。

「あ、ダイちゃん、今福岡から? 元気? 」

すると相手が言った。

「ん。ちょっと風邪気味。喉が痛くて声が変でごめん。あの、オレのケータイ調子悪くて、今、仕事用の電話からかけてる。しばらくこの番号使うことになるから」

今から思えば典型的なオレオレ詐欺のセリフの出だしそのものである。


だが、私は弟と話してると思い込んで、これっぽっちも疑ってなかった。


「あー、風邪か。たしかに声が変だよ、ダイちゃん。学校の先生って喋るのが商売だから、大変だね。わかった。新しいケータイ番号、登録しとくわー」


おわかりいただけるだろうか。
この時点で、私は相手(詐欺師)に弟の情報をかなり与えていた。

・弟の呼び名:ダイちゃん
・弟の住所:福岡
・弟の仕事:学校の先生


バレバレである。


弟になりすました詐欺男に、お調子者の私は、これでもかと、弟の本物のインフォーメーションをご提供差し上げていたのだ。

ダイちゃん(ホントは詐欺師よ)は続けた。

「それでさ、実は、ちょっと話があって…」


だが、私は男の言葉をさえぎった。

眼の前の父がもの言いたげだ。

「あ、ちょっとまって! お父さんに代わるね」

相手に有無をも言わさず、私は受話器をすぐに父に手渡した。

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父が嬉しそうに話しかける。

「ダイスケ、どうしてる。ユミさんも元気にしとるか? うん、うん…。そうか。リョウやマコトたちは、学校でがんばっとるんか? うん、ああ、そうかそうか」

つまり父はこの会話によって、さらに詐欺師に

・ダイちゃんの本名がダイスケであること
・ダイスケの妻がユミさんで、2人の息子リョウとマコトが学校に通ってい
 るらしい

との情報を上乗せした。

あほである。

と、言いたいところだが、それを誘導したのは私だった! 
弟と喋ってる風の私から受話器を手渡されたら、父もつられるだろう。

あほは私だ。てへ。(このことはあとで気づいた)

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さて、聞きたいことだけ聞いて満足した父は、相手の男(詐欺師ね)にご丁寧にも「お大事にー」といいながら電話を切った。

そういえば、電話の声は「実は話が…」なんて言ってたのを思い出した。
でもまぁ「用があったら、またかけてくるっしょ!」と思って放っておいた。


やがて、別室にいた母が部屋にやってきた。彼女は息子から電話があったことを知ると、自分も電話で話したい、と言い出した。


「もうじきお盆休みでこっちに戻ってくるはずなのに、風邪引いてるんでしょ? 心配よぉ」


そう言って、さっさと彼の新しいナンバーに電話したのだ。


「あ、ダイちゃん? お姉ちゃんから聞いたけど、風邪引いてるんでしょ? ちゃんとお薬飲んだの?」 

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「お医者さんに行く時間がないなら、せめて薬を飲んでちょうだいよ」

かなりおせっかいめに電話で話す母。

一体、詐欺師はどんな気分で彼女の話を聴いていたのか。
詐欺しようとした相手の人々から、追加で話しかけられた上に、電話を切ったあとも、なおかけ直されいろいろ言われるわけだ。


母はべらべらと一方的に言いたいことだけ言うと、満足して電話を切った。


あとで彼女に聞いたら、相手の男も

「うん、わかった」

とか返事していたらしい。


「やっぱ、声が変だったわ。風邪ひどいのかなぁ」
母がそう言うと、
「うん。確かに声の感じが違っていたな」
と父も言う。
私も確かに違和感は感じていた…。

ま、当たり前なんだが。別人だし。


そして、その時になって私はようやく事態のおかしさに気がついた。


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「あれ? もしかして、これオレオレ詐欺の人が電話してくる手口に似てない?

そういえば、相手は自分から名乗らなかったし、ケータイ番号が変わったのも怪しい。

母は、
「でも、私が『ダイちゃん?』って聞いた時、『うん、ダイスケ』って言ってたよ」
と言ったが、その前に父が「ダイスケ」って呼んで名前バレしてるから、相手は知ってて当然だ。

いやいや、名前どころじゃない。
住んでる地域も、家族の名前も、職業も全部知られたー!

それもこれも、みんな私が最初に気づかずにべらべら喋っちゃったのが始まりなのだ。


やっべー。やってもた!


さすがに私は自分のやったことの愚かさに気づく。ひー。

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しかも、揃いも揃って家族3人が、弟と名乗る男の声が「おかしい」のに気づいていながら、詐欺師を怪しまなかったのもすごい。

慌てて、弟のお嫁さんのユミちゃんに電話する。


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すると案の定、ユミちゃんいわく、ダイちゃんの電話番号は変わっていないし、風邪も引いてないとのこと。


ユミちゃんから話を聞いた弟本人も電話してきた。

「オレ、風邪引いてないし。それに、ケータイ番号も変えてないよ。学校がケータイくれるわけないじゃん。それ詐欺だよ

やはりー。
やっぱそうですよねぇー。
そうでしょうとも!

詐欺確定。


じゃあ、われわれはどうしたらいいんだ?

父が言った。

「用事があればまた電話してくるやろう。1億円送ってーとか。あはは」

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そうか。放っておけばいいのだ。
こちらはもう相手が詐欺だってことわかってるんだから引っ掛かりはしない。今のところ被害も受けてないし。


そしたら、母親がこんなことを言い出した。


「あたし、ちょっと詐欺師に電話してみるわ。かぜ薬ちゃんと飲んだのかどうかも気になるし」


いや、風邪引いてるというのは声をごまかすためのウソでしょうが。
あんた詐欺師の健康を心配してるのか。

しかし、ノリノリの母は、早速ケータイに登録されたばかりの詐欺師の電話に自らかけてみたんである。

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「あ。ダイちゃん?」

詐欺師が電話に出た模様。
だって、息子のフリしてるんだから、将来の金づるからの電話に出ないわけにもいかない。

「その後、調子はどう? お薬飲んだの? 喉はまだ痛い? ちょっと心配だわー」

母は、言いたいことだけをがんがん喋った。

やがて電話を切ると、

「かぜ薬は飲んだって言ってたよ!」

と嬉しそうだった。

そこ、ですか・・・。


だが、うちの母はなぜか詐欺師に電話するのが楽しくてたまらないらしい。詐欺師に翌日また電話をかけた。

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「その後、どお? ああ、よくなってきたのね。よかった。でも、声はやっぱり変ね。うん、うん。ああ、そう。そういえば、あんたお姉ちゃんに相談事があるって言いかけていたんじゃなかったっけ? 何を相談したかったの? 何か困ったことでも?」

母は、畳み掛けるようにして、詐欺師の「相談事」について、根掘り葉掘り聞き出そうとしていた。

最後に電話を切った母は、

相談の件は、またあっちからかけ直すって言ってたわ

と言った。


実は、その後、母は何度も彼に電話をかけたらしい。

「だって、あとで連絡するって言ったのに、電話してこないから・・・」


でも、もう男から電話がかかってくることはなかった。
はっきり言って、詐欺師がうちに電話をかけてきたのは最初の一回こっきりである。あとの3、4回は全部母からのコールだったのだ。


そして、後日母がまた彼に電話すると、その電話番号はもうつながらなかったらしい。


あの詐欺師、うちらを避けやがったな。


我々2軍一家は、なんだかんだするうちに詐欺師に詐欺をあきらめさせることに成功していたようだった。


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この件からわかったことがひとつある。


あの男、シャイに違いない。


詐欺師、気をつけろよ。


(おわり)