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交通事故は突然に


2023年8月7日
私「M」は、交通事故に遭いました。

原付で国道の第1車線(一番左)を走行中
原付の存在に気づかないままトレーラーが車線変更で進入。
トレーラーとガードレールに挟まれる形で被災しました。

右のバックミラーに一瞬トレーラーの左前方が見え
「待って!原付(私)いる!!!!」

ガシャン

その途端、私の体は投げ出されて、くるっと視点が周り歩道に仰向けに倒れ込みました。
ふと見上げると、歩道に身を擦り付けながら原付と
後ろに積んでいた荷物ボックスが方々へ吹き飛んで行きました。
歩行者もいた。

シューンという音がして、その足元にトレーラーが停まりました。
歩道に投げ出されたおかげで、後続に轢かれなかった。
あぁ、意識はある、生きてるわ、あぁ。
ぐっと上半身を起こし自分の状況を見ると…

肉が砕け散った両足と、右足のへし折れた骨からドプドプッと流れ出る骨髄。
あ、あれだソーセージのパリパリっぷりの演出にポキッって折るじゃないですか。まさにあれ。
足首や足の甲の骨格が見えて、私の骨って結構黄色いんだなぁ…

と同時に脱力し倒れ込んで、私は「認識」してしまった

あ、あしが…あしがああああああああああああああああああああ!

全身をつんざく激痛の中、アドレナリン全開のためか眼の前が極彩色にバチバチバチと色が点滅し、呼吸が浅く早くヒューヒューとなる。
冷や汗が溢れ、拳を握りしめ。
右足の親指の先に、折れた骨の断面がザラザラと当たる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!
しかしその中でも

叫んではダメだ体力が摩耗する
動いてはダメだ足は皮一枚だ動けば千切れる
呼吸を整えろ暴れればさらに痛いだけだ
ともう一人の「ワタシ」が「私」に言い聞かせていた

トレーラーの運転手が降りて来て
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるかテメェ!!!!!」
通報の声がする。救急車が手配されたようだ。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

偶然とは怖いもの。
私がはねられたのは、春日井市の梅ケ坪交差点。
春日井市消防本部の斜向かい、目と鼻の先だったのです。
通報が終わったら、本署から車のドアをバタンバタン、と閉め出動のサイレン→救急車出動→緊急走行サイレン→事故現場到着、が全部聞こえていました。
サイレンが聞こえた途端、国道19号線という大動脈から車のエンジン音が消えました。
消防署がすぐそこだ、という安心もあったから「ワタシ」は冷静を装えたのかも知れない。

救急救命隊員の質問に応えることはできた。
名前、緊急連絡先、保険証などのありか、血液型、お薬手帳、既往歴…
スマホは原付に取り付けていたのですぐに見つけてもらえて家族へ連絡が行った。
画面ロック解除は自分でやった。上半身は何とも無かったから。
仕事中の父につながった。

怪我の状態は一目でアカンとは自分でも自覚できてたので、救急車に積まれるまではあっという間だった。
ストレッチャーに載せる時、弾けて原型がない足を上げる時は鉄板をジャリッって差し込むんですヨ。
「ピザか!!!!」
弾け飛んでも繋がってはいるので神経を激痛が逆流してくる。
ストレッチャーがキュッと押される振動だけでも、右足が痛む。
歯を食いしばり、荒れる呼吸を、意識して深呼吸で抑える。
「いいよ、深呼吸してね!」
隊員さんが慌ただしく電話したり通信したり。
他にも何か処置をしてくれたかも知れない。
でもこの辺は何を「されていたか」は覚えていない。
なんたって意識の下地が激痛なので、記憶できるまでに至らなかったのだろう。目に直接高輝度ライトを点滅させられているような、そんな感覚。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

数分もなく、救急車は出発。
梅ケ坪からなら市民病院まで一直線。
ただ、救急車の振動がものすごく痛い。重力加速度に負ける。
揺れるたびうめき声をあげる私を気遣って、低速走行になってくれた。

救急車から降ろされる時も、激痛に泣き叫んだ。
結構ガクガク揺れるんですよね。
どこをどう移動させられたかも覚えてない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

ただ、ここまで来たなら助かった。
この激痛からも解放されるかも。
うぅ、オペが始まれば、なんとかなる…なる…
たくさんの機械が並んでいる場所に置かれた。


置かれた。

本当に置かれた。

マジで置かれた。

時は新型コロナが5類に認定されてすぐ。
緊急とは言えPCR検査も必須だった。
手術室も造るのは時間がかかるのも理解していた。

でもホントに置かれた。
足は組織保全のため止血されず、痛み止めなどの投薬もなく
ただそこに。

痛いよぉ…痛いよぉ…痛いよぉ…痛いよぉ…痛いよぉ…
看護師もたまに見に来るくらい。
心電図と血圧計がピコンピコン音がする。
「手術室はまだ?」という会話は聞こえた。

親の到着や手術室の進捗を聞きながらひたすら痛みに耐える。
女は痛みに強いとか言うけど、痛いもんは痛いんじゃ!!
せめて失神できれば良かったのに。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

医療ドラマって、患者が運び込まれてちょっとしたら無影灯バーン、術式を開始します、とかなるじゃん。
脚色があるのが当然だけど、一人の患者につきっきりでオペまで終わらせるってやっぱフィクションですよね。

他の救急搬送患者さんの会話も聞こえる。
みじろきしなければ痛みが増えることはない。
呼吸に集中し、心電図の音に耳を傾け自分の足を、自分で忘れるよう仕向けた。
考えるのを辞める、というのは逃避行動としては有用であったようだ。

どれだけ経ったろう。
「手術室行きますよ、親御さん呼びますか?」
モウロクして生返事の私のもとに母が入ってくる。
この人、スプラッタが平気な人。
ベッキリ行ってる私の足を見たがったのだ。
右足から何かがふわりと剥がされた。多分吸血のためにガーゼかなにかが被せられていたのだろう。
「あらまぁ、やっちゃったね…」
あっけらかんと感想をいう。
それで良かった。
下手に崩れ落ちでもしたら私の精神が保たなかった。

「服を切ります」
手術室に入るには服を着たままではいかない。
ギラリと大きいラシャバサミが、ジョキジョキとズボンを切っていく。
痛い。
「上着も切りますね」
え、あ、ちょっと待ってくれ!!!!!
私は赤黒のライダージャケットを着ていた。
豊山町の2りんかんで一目惚れして買った、格好いいジャケット。
原付の分際で、とは思われるだろうが原付は脆い。
簡単にコケて怪我をする。体剥き出しだから弱い。
それを知ってたので、シールド系は買い揃えようと思っていた。
当時勤めていた会社で原付通勤をしている人が過去の事故で腕を相当擦りむいたからジャケットは着たほうがイイよ!と後押ししてもらったのもあり購入したもの。
買って、3週間も経ってないものを…
私は涙ぐみながら「切って下さい…少しの間だったけどありがとう…」
結構硬い繊維なのにサクサク切れるハサミスゲー。
そしてTシャツは瀬戸市の陶神オリバーのデビュー時に買ったインフェルナイトのシャツ!!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアおお慈悲をオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
ジャキー

やっと手術室に向かって搬送されることになった。
市民病院の手術室は3階。
エレベーターという揺れの悪魔が私を襲った。
ベッドの搬送も結構力技でガツンゴツン振動するから、やっと忘れてた激痛と再会することになる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
足元から頭へ廊下の電灯が流れていく。
ここになってやっと、命が助かるのだと、涙が伝った

手術室前の家族控室の所で、母が私の眉間に指を押し当てながら
「行って来い」
その途端、ブワワワワっと涙が溢れ
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
やっと手術室に向かう道すがら…

遂に意識が混濁して、私は気を失った。

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