感じる観ずる:クリエイティブリーダーシップ特論 第7回 高濱正伸さん
このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第7回(2021/05/24)
講師:高濱正伸さん
今回は「心」をテーマに、人生を幸せにするための心の在り方についてご講演頂きました。仕事選びから夫婦仲、さらには戦争まで話が膨らむ熱いお話を伺いました。
自分の心に忠実に
人間の脳の働きを、感情を司る心の部分と、情報処理をする理性の部分に大別したうえで、自分の心に忠実になることの大切さを高濱さんは説きます。
高濱さんが取り組んでいるはなまる学習会の活動も、20代に自分の心に向き合ったところから産まれたものだと言います。高濱さんは様々な文化や学問、人などに触れ、とにかく自分の好きなことに没頭することを通して、「子どもといる時が一番幸せ」ということを確信したそうです。
年収や地位など、他者の評価を軸に据えるのではなく、自分の心がいかに震えるかという尺度で物事を捉えることが、みずみずしい生活を描くための第一歩だといいます。
アイデアは問題意識の裏返し
「好き」という心の動きを選択の第一歩として、そこからさらに進むためには課題を発見して、その解決に向けてとことんやりきることが重要だと高濱さんは仰います。
算数の問題を解くにせよ起業するにせよ、見えない本質を掴む力=「見える力」と最後までやり切る力=「詰める力」が必要だといいます。
特に本質を掴む力は、まだ誰も見出していない課題を抽出する力ともいえ、そこから産まれる具体的な問題意識がアイデアに繋がるのだといいます。
自由研究
夫婦の仲をよりよく取り持つにはどうすればいいかというお話をもとに、他者をよく知るための「自由研究」についてお話頂きました。
夫婦や恋人と喧嘩したとき相手が何に怒っているのか、あるいは相手を喜ばせようとするときに何をすればいいのか、ということについて、当然ながら一様な答えはないと高濱さんは仰います。多様な人々の、一様でない心の動きを知るには「研究」が必要だといいます。「研究」という言葉が指すように、経験則で安易に理解するのではなく、心の機微を深掘りして知ろうとする態度が重要なのだと理解しました。
身近な人に留まらず、自社へのクレーマーにまで興味関心を持ちその行動原理を探ったという高濱さん。自分の心だけでなく、他者の心にも真摯に向き合っているのだと感じました。
真剣さや真摯さというのは言葉にするとやや浅薄に聞こえてしまいますが、それは何より実践のうちに現れるもので、高濱さんの語り口の端々から感じ取ることができました。
【考察】感じる/観ずる
高濱さんのお話を伺って、「感じる」というのはぼんやりと何かを受容するようなものではなく、現実の手触りを確かめる実践的な態度なのだと思いました。そうした意味で、「感じる」という心の働きは、物事をただしく眺めようとするような「観ずる」行為だと言い換えてもいいかもしれません。
小林秀雄が仏教の空観(空を観ずること)について説いた文章のうちの一節を引用します。
因果律は真理であろう、併し真如ではない、truthであろうが、realityではない。大切な事は、真理に頼って現実を限定することではない、在るがままの現実体験の純化である。見るところを、考える事によって抽象化するのではない、見る事が考える事と同じになるまで、視力を純化するのが問題なのである。(引用:『人生について』 小林秀雄 中央公論新社)
ともすればtruthの消息ばかり追いがちな今日において、realityとは何か、それを観ずることとはどういう事なのかを改めて問うことが、自分の人生を見つめることとダイレクトに繋がるだろうと感じました。
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