デジタルとアナログのボーダーレス:クリエイティブリーダーシップ特論 第6回
このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第6回(2021/05/17)
講師:堺大輔さん
堺さんはチームラボの設立者であり、現在はチームラボの代表取締役をされています。
今回の講演ではチームラボの活動のご紹介を通して、チームとしてどのように創造性を発揮しているかお話頂きました。
クリエイティブを合理的に
クリエイティビティを引き出すオフィスをご紹介頂きました。できる限りアイデアを産み出しやすくするために、自分たちで設計を行ったという様々な仕掛けがありました。
机ひとつとっても、起伏のあるクッションが天板になっているデスクや触り心地のいい砂が埋め込まれているデスクなど様々なバリエーションがありました。
なかでも良いなと思ったのが、メモデスク。天板が紙になっており、アイデアのそのまま机に書き込めます。チームラボではみんなで書き合うことが難しいホワイトボードを排して、デスク上というオープンな空間でアイデアを共有しているとのことです。
また、フロアには仕切りがなく、他のプロジェクトを進行しているメンバーの顔も見渡せます。声をかけやすいオープンでボーダーレスな環境になっています。
このように様々な仕掛けがありますが、どれも考え抜かれた設計となっています。
合理的にクリエイティビティを引き出すということを堺さんが仰っていたのが印象的でした。
チームラボの実践
チームラボはデジタルアートの印象が強いですが、実はデジタルソリューションの提供も行っているそうです。実際、メンバーの大半はエンジニアで、デザイナーやカタリストがその他2割くらいを占めているとのこと。アーティスト集団というイメージを勝手に抱いていたのですが、実際はチームで大規模なプロジェクトを行うことに全力を注ぐ職人気質な人たちが集まっているといいます。
デジタルアートの領域について、クリエイションは積み重ねであると仰っていたのが印象的でした。
チームラボのアート作品は常にアップデートしていく大規模なソフトウェア開発であり、今まで積み上げてきたナレッジをいかに次に繋げるかに注力しているとのことです。
デジタルソリューションの領域については、なによりもユーザビリティを追究しているとのことです。
チームラボにおける品質とはユーザーの体験や使いやすさであり、それがチームの共通認識になっているといいます。それは必ずしも数値化・言語化して検証できるものではなく、チームのなかで「腹落ち」するものだといいます。
プロジェクトの進め方としては、常に早い段階でプロトタイピングを行うとのことです。事前調査に重点を置くのではなく、とにかく作って試し、方向性が定まったら一気に作り上げる。そしてリリースしてからも常に改善を重ねてアップデートしていくのがチームラボのスタイルだといいます。
プロジェクトにおいては何よりも実現性を重視しているとのことで、構造を深く知っているエンジニアがプロジェクトをリードする風土が、組織の強みになっているのだと感じました。
【所感】デジタル/アナログ
チームラボはインタラクションのデザインや、ヴァージョンのアップデートによる品質改善など「デジタル」なテクノロジーの強みを活かして作品やソリューションを提供しています。その一方で、フィジカルな体験や自然の美しさの魅力を引き出し、様々な境界(ボーダー)を曖昧にする「アナログ」な価値を提示しています。
このスタンスが興味深く、改めてデジタル/アナログについて考えを巡らせました。
デジタル庁の新設が目指され、デジタル改革やデジタルトランスフォーメーションが叫ばれる昨今。当然アナログ庁なんてものはなく、アナログ改革やアナログトランスフォーメーションなどというものは主張されません。デジタルって一体何でしょうか。
デジタルとアナログは当然概念としては対称的ですが、デジタル的なもの(として理解されるもの)とアナログ的なもの(として理解されるもの)は必ずしも対極に位置しているわけではなく、実際は両者のグラデーションの中にあるように感じます。
たとえば、デジタルの時計はアナログの時計と異なり、0と1の間には連続性がなく瞬間的に切り替わると理解されますが、実際は我々が認識できないだけで、0の光が消えて1の光が点灯するまでの間には途中の状態、つまり連続性があります。ですが、それは意味のない中間であって、そうしたものを切り落とすことによってデジタルな理解が成り立っているといえます。
混沌とした世界を等量的なデータに分割することで、それを通信・蓄積することが可能になり、そのことがもたらした恩恵については今更語る必要もありません。しかし、デジタルなデータとは本来情報が持つ意味の重みを振り落としてしまっているので、それだけでは何も表しません。「意味」はあくまで我々のアナログな理解に寄っていると言えるのではないでしょうか。
近年、膨大だが文脈と切り離された薄いデータよりも、意味の重みを持つ厚いデータに注目が集まっており、人文知に裏付けされた解釈や意味付け(センスメイキング)の重要性が説かれています。
また、人類が有する類推的な能力、アナロジー思考に着目する潮流もあります。
デジタル化が推進される一方で、アナログな思考に光が当てられるという一見すると対照的な流れのなかで、チームラボの取り組みは、その二つの潮流の境界さえ実践的に融解させていく新しさと可能性を持っているのではないかと感じました。
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