ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第7章1話
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第7章 招いたモノたち
1話
嵐のような一週間が、やっと終わった。
今日は土曜日。待ちに待った週末。学校もお休みだし、自由の身だ(宿題はあるけどね)。
朝ごはんをゆっくり食べて、テレビも見て、ようやく自分の部屋に戻ってきたところ。
ミャオンもごはんを食べ終わったところで、満足そうにベッドの上で毛繕いをしてる。
のどかないつもの週末だ。
はぁ……それにしても、今週は疲れたなぁ〜。本当に色々あった。
まず一番の大事件が、ミャオンの脱走!
無事に戻ってきてくれたからいいけど、あとでママに叱られて散々だった。
おかげでカギ締めをしっかりするようになったけど。二度とあんな思いはしたくないな。
でも、あの日から何かが変わった気がする。
外に出ると、なんでか『マンマル』とか『チョビ』とかって呼ばれてる大きな猫に威嚇されるようになっちゃったし。
それから……美少女(なのに男口調)の三ヶ田さんには初対面で怒鳴られちゃうし。
芽雨さんには三ヶ田さんがカノジョじゃないかって勘違いされてしまうし(誤解は解けたみたいだけど)。
でも、よかったなって思えることもあったよ。
宮尾っていう、やたら猫に好かれる男の子と知り合いになれたから!
友達になれたらうれしいな。
あっ、それと『不可思議なんちゃら』ってお店で買ったおやつ『十人十色』をミャオンがめちゃくちゃ気に入ってくれたことも、うれしかったな(1枚百円もするのがつらいけど)。
んー……それくらいか。
で、残った問題といえば。
宮尾くんと連絡が取れるようにしたいってことと、三ヶ田さんにミャオンをうちで飼うのを許してもらうってこと。
――簡単そうだけど、実はどちらも難しそうだ。
なにしろ二人には出会ったばかりで、どこに住んでいるのかとか、そういうことが全然わからないから。
うちの小学校の子じゃないみたいだし、外へ出て探すしかない。
「みゃお」
「ん?」
毛繕いが終わったのか、ミャオンがぼくの足にスリスリしにきていた。
撫でてもいないのに、もうゴロゴロ喉を鳴らしてる。
ふふっ、可愛いな。
よく見ると、足下にネズミのおもちゃが転がってる。
さてはミャオンが持ち出してきたな? 『遊んで欲しい』の合図だ。
ぼくはネズミのおもちゃを拾い上げる。
するとミャオンはうれしそうに金色の瞳をキラキラ輝かせて、ぼくの前でおすわりした。
ぼくたちのこの様子を見るたび、ママは「ミャオンったら、まるで犬みたいね」って笑うんだ。
ぼくはネズミのおもちゃをぽんと投げる。
するとミャオンはすぐさまそれを拾いにいって、ちょいちょい猫パンチしたかと思うと、それをくわえてまたぼくのほうへ戻ってくる。
これを何度も何度も繰り返す。ミャオンが飽きるまで。
でも、今日はそんな余裕はないんだよね。
「ごめんね、ミャオン。今はあんまり遊べないんだ」
数回だけ遊んであげて、ぼくは立ち上がった。
ミャオンはネズミのおもちゃを足下に置いて、ぼくを見上げている。
「あのね、宮尾くんと三ヶ田さんを探しに行かないといけないんだ。用が済んだらすぐに帰ってくるから。そしたらまた遊んであげるね」
何しろ今日は土曜日。
宮尾くんも三ヶ田さんも、きっとお休みのはず。
会える可能性が高いと思うんだ。
ぼくは急いで身支度を整えると、まだネズミのおもちゃで遊んで欲しそうなミャオンの頭をよしよしと撫でて。「いい子でお留守番してるんだよ」って念を押して、家を出た。
宮尾くんと三ヶ田さんを探しながら、街を歩く。 最初に目指すのは、今日もやっぱり『不可思議なんちゃら』だ。
けれど、結局、あの二人とは会えないまま、お店に到着。
……そんなに簡単に見つかるとは思ってなかったから、いいんだけどね。
今日も引き戸のところに『商い中』の看板がかかってた。これ「あきないちゅう」って読むんだよね。3年の時に習ってたんだけど、ど忘れしちゃってた。
つまり、今日もお店はやってるってこと。
ぼくはそっと引き戸を開ける。
「こんにちは……」
挨拶しながら店の中を覗き込むと、いつも店長さんが座っている場所に、別の人がいた。
ひょろっと背が高くて、メガネをかけたおじいさん。
「いらっしゃいませ」
にっこりとぼくに優しく微笑みかけてくれる。
「は……はじめまして」
「はい、はじめまして。君だね、最近、うちに来てくれるようになった男の子っていうのは」
「は……はい。大林陽太、です」
「噂は聞いているよ。いつもご贔屓にありがとう」
「い、いいえ、そんな!」
店長さんとはまるで違って、とっても話しやすい雰囲気の人だなぁ。
心なしか、店のあちこちで過ごしている猫たちの緊張感も、いつもとはちょっと違う感じがする。みんなくつろいでいるっていうか……のびのびしているっていうか。気のせいかな?
「私は店長が留守にしているときに、よく『店番』をするんだよ」
「へぇ〜、そうなんですか」
店長さんがお留守ってこともあるんだ。
……なんだか店長さんはいつもそこにどっかり座っているようなイメージがあったから、ちょっと意外だ。
「さて、今日のご用件は?」
「あ、ええと……『十人十色』を3枚ください」
「おお、ありがとう。気に入ってくれたのかな」
「はい! うちのミャオンの大好物になりました」
店番さんは嬉しそうに目を細めて(その表情はどことなく店長さんに似てる)。
「それはよかった。あれは我ながら自信作でね」
商品ケースからクッキーを取り出して、丁寧に紙袋に包んでくれた。
「猫好きにこそ買ってもらいたい商品なんだよ。逆に言えば、猫嫌いにはおすすめできないんだけれどね」
「……え、どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。猫好きにとっては、ご馳走になる。猫嫌いにとっては……その逆」
「???」
ご馳走の逆ってなんだろう……。
っていうか。
ぼくは頭に浮かんだ疑問を投げかけてみた。
「あの……もしかして、このクッキーを作っているのは……」
店番さんは静かに頷いた。
「私だよ。この『不可思議本舗』の商品は全て私の手作りでね」
「!!!!」
ふかしぎほんぽ! それがこの店の名前なんだね!
やっと謎が解けてうれしい!
というか……この店の商品って、店番さんが全部作ってるんだ。それにもびっくり!
確かに他のペットショップとか、スーパーには置いていない商品ばかりなのも納得だ。
「でも、最近はヒット商品が少なくてね。いいアイデアがないか考えているんだ。はい……どうぞ」
ぼくは三百円とポイントカードを差し出す。
すると、店番さんはカードに2コ、肉球型のハンコを押してくれた。
「あれ? ハンコは買い物一回につき1つじゃ……」
「今日は『だぶるぽいんとでー』なんだ。2のつく日だからね。ニャの日ってことで」
「!!!」
そういうサービスもあるんだ!?
「ちなみに、3のつく日は『とりぷるぽいんとでー』だよ」
「ミャの日だから?」
「そうそう」
店番さんは楽しげに笑う。
「だけど、店長はたまに日にちを忘れることがあるから、気が付いたら指摘してやってくれ」
「は、はい……」
あの店長さんに指摘……ぼくにできるかなぁ。まだちょっと怖いって思っちゃうんだよね。最初のインパクトが強いせいかな。
「さて、これで5ぽいんと貯まったね。早速くじを引いていくかい?」
「はい!」
店番さんはカウンターの下から六角柱型の木箱を取り出した。
見れば見るほど、神社によくあるおみくじの箱にそっくりだ。……っていうか、側面『おみくじ』って書いてあるよ!
「さあ、どうぞ。よく振ってね」
「はい……」
ぼくは促されるまま、箱を手に取る。
ずっしり重い。それに意外に古いみたい。
ぼくは何とか持ち上げて、じゃかじゃか振る。よ〜く振って……一気に逆さに!
飛び出てきた木の棒には『二十六番』って書いてあった。
店番さんはその番号を確認すると、「二十六番か。この番号の商品は……今ならこれだね」って言って、カウンターの下からガラスのビンを取り出した。中にはぎっしり紫色のグミが詰まってる。グレープ味かな?
「『カミカミ』っていうおやつだ。2粒で1組。念の為いっておくけど、猫用だからね。与えるときには2つまとめてあげるといい」
「は、はい。わかりました」
2つまとめてあげるんだね。覚えておかなきゃ。
「それと、もう一つ。この『カミカミ』は猫にあげても、すぐに君の目の前で食べることはしないと思う」
「え?」
どういうこと?
「けれど、食べないからといって捨てたり、片付ける必要はないよ。猫が食べたい時に食べるから、与えたら、あとはほうっておけばいい」
「……はぁ……」
そういうお菓子ってあるものなの? なんだか変なの……。
ぼくのこころを読まれちゃったのか、店番さんは付け加えた。
「猫は気まぐれだからね」
メガネがきらっと光った気がする。……気のせいかな。
店番さんはニコニコしながら、『カミカミ』っていうグミを小さなチャック付きのポリ袋に入れてくれた。
「わかりました……」
本当はよくわかってないんだけど、そういうこともあるんだろうな。
猫は気まぐれだから。
店番さんは『カミカミ』と、ポイントカードをぼくにくれた。
「また来てくれるとうれしいよ」
「もちろんです!」
ぼくは商品とカードを受け取って、店を出る。
そうして、カードをお財布にしまおうとして気が付いた。
……肉球ハンコの部分に取り消し線が引かれてるってこと。くじはもう引いたよっていう意味だね、きっと。
<2話へ続く>
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