ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第7章4話

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第7章 招いたモノたち

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4話

 芽雨さん、ぼく、三ヶ田さんの順番で、部屋に入っていく。
「わぁ……」
 芽雨さんはぼくの部屋を見回して「ずいぶん変わったわね〜」って感嘆の息をついた。
「すっかり猫用の部屋になってるじゃない」
 そうなんだよね。
 ミャオンが来てから、ぼくの部屋には猫グッズだらけになってしまった。
 キャットタワーに猫用のクッション、ツメ磨きに、猫トイレ。床にはボロボロになったネズミのおもちゃやボールが転がってるし、ベッド兼用のキャリーバッグも置いてある。それと、ママの趣味でベッドカバーも猫柄にされちゃった。……まぁ、ぼくも気に入っているからいいんだけど。
「それで……猫はどこなの?」
 そうなんだ。ミャオンの姿が見当たらないんだよ。
「……隠れたな」
 ぼそりと三ヶ田さんが言う。
「ええっ。せっかく会いに来たのに」
 芽雨さんは頬をぷうっと膨らませる。
「隠れる場所なんてそんなにないから、すぐに見つかると思うよ。ちょっと待ってて」
 ぼくは部屋のあちこちを探して回った。
 机の下、出窓、カーテンの向こう側、棚の上、キャットタワーの小部屋、キャリーバッグの中、ぼくのベッドの中……。
 でも、ミャオンはどこにもいない。
 ぼくの背中に、じんわりイヤな汗がにじんできた。
 これって……まるで、前に脱走した時みたいじゃないか!
 まさか、窓からまた逃げた? 慌てて確認する。カギ、ちゃんと閉まってる。
 よかった。つまり、ミャオンはこの部屋のどこかにいるはずだ。
「…………」
 黙って鼻を鳴らしていた三ヶ田さんは、ふいに四つん這いになった。
 サラサラの長い髪が床についちゃってるけど、お構いなしって感じ。
 そうして何を思ったのか、そのまま這いつくばってベッドに近づいて、迷いもせずに下に潜り込もうとしたんだ。
「!?」
 ぼくと芽雨さんは、三ヶ田さんの行動にびっくり!
 がりっ!
 派手な音を立てて、ベッドが軽く持ち上がった――三ヶ田さんの背中が引っかかって。
 そりゃそうだよ。ベッドの下なんて、ぼくたちが潜り込めるような隙間は開いてないもの。
「いてて……」
 三ヶ田さんは呟いて、頭をベッドの下から引っこ抜いた。
 呆然としてるぼくらに気付いて、少しきまり悪そうにしながら、三ヶ田さんはベッドの下を指差す。
「いたぞ。ここの奥の方に隠れてる」
「え!」
 ぼくは三ヶ田さんのようにはいつくばって(潜り込んだりはしないよ!)、ベッドの下を覗き込む。
 でも……。
「暗くてなにも見えないよ」
「いや、いる」
 三ヶ田さんが断言して、ぼくと並んで覗き込む。すると、奥の方から「シャーッ!」て小さな声が聞こえてきた。
 この声……ミャオンだ。威嚇してるみたい。
「ほんとだ……!」
「隠れちゃったってこと?」
 芽雨さんは小首を傾げる。
「知らない人が来たから、かなぁ」
「そういうものなの?」
「たぶん……。ミャオンが家族になってから、友達を部屋に入れたのって今日がはじめてだから」
「ふぅん」
 芽雨さんも、ベッドの下を覗き込んだけど、すぐに顔を上げて「どうにかひっぱりだせない?」って言い出した。
「……難しいと思うぜ」
 三ヶ田さんはさっきまでの勢いはどこかへいっちゃったみたい。なんでだろう、どこか悲しげに見える。
「でも、せっかく会いに来たんだし、一目見たいわ。ねぇ、大林くん、おやつとかない? それで誘ってみたらどうかしら」
「……あることはあるけど。試してみようか」
「うん、そうして」
 ぼくはおやつの入った箱から、ミャオンの大好物『十人十色』を取り出した。
 これを見せれば、さすがのミャオンも出てきてくれるんじゃないかな。
 ……そういえば、出かける前にあげた『カミカミ』はどうしただろう。
 部屋をざっと見回してみたけど、どこにもない。
 てことは――食べてくれたのかな? よくわからないけど……。
 ぼくはまたベッドの脇にしゃがみこんで、さっき三ヶ田さんが教えてくれた方向に『十人十色』を差しこんでみた。
「ほらほら、ミャオン。おやつだよ〜。出ておいで」
 …………。
 反応はない。
「ミャオン? 大好きなおやつだよ〜」
 暗くて見えていないのかな?
 ぼくは腕を思いきり伸ばして、クッキーをヒラヒラと振ってみせる。
 …………。
 反応ナシ。
「もっと奥に突っ込んでみなさいよ」
 芽雨さん、やたら急かすなぁ。
 そんなにミャオンに会いたかったなら、早く言ってくれればいいのに。
「ミャオン?」
 ぼくはベッドを覗き込むのをやめて、肩まで差しこむ感じで、クッキーをミャオンがいる(と思われる場所)に目一杯、近づけてみる。
「ほらほら〜」
「シャーッ!」
 あ、ミャオンの声だ。
 と思った次の瞬間。
 ぼくの指先にビリッとした痛みが走った。
「ッ!」
 びっくりして、ぼくは腕をベッドから引っこ抜く。
 『十人十色』をつまんでいたぼくの人さし指と中指を横断するように――みるみる赤い線が浮かび上がってきた。ぽたりぽたりと血があふれてくる。
 ミャオンに、引っかかれちゃった……。
「ちょっ! 大丈夫!?」
「う、うん……」
 ずきん、ずきん。あとから鈍い痛みが襲ってくる。
 クッキーに血がついちゃいけないよね。ぼくは『十人十色』を床に置いて、指の根本を押さえた。
 様子をじっと見ていた三ヶ田さんが「……はぁ」と大きなため息をついた。
 そうして、三ヶ田さんにしては意外すぎる言葉を言ったんだ。
「悪かった」
 ――え。
 今、謝った……よね? あの三ヶ田さんが!
「……えっ?」
 唖然とするぼくの代わりに、芽雨さんが聞き返す。
「完全におれ……あたしのせいだ。怖がらせた」
「そんなこと……」
「いや、あたしのせい。ごめん。あの子のことはそっとしておいてあげて。あたし……帰るわ」
 三ヶ田さんはそう一方的に言うと、そのまま立ち上がってドアへ向かっていく。
「ちょっと、え、それでいいの!?」
 芽雨さんが三ヶ田さんに声をかけるけど、部屋のドアはバタンと閉じられてしまった。
 ぼくは――痛みに耐えながら、呆然と三ヶ田さんを見送るしかなかった。

                          <5話に続く>

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