ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第4章1話
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第4章 とおりゃんせ
1話
あ〜あ、まただわ。
私は小さくため息をついた。
陽太は最近、おでかけする前に窓のカギをしっかり締めていくようになったの。
今朝もガッコウへ行く前に、念入りに窓のカギを確認してる。
この前、私がお外に行った日――陽太は言ったの。
「勝手に外に出ちゃダメじゃないか。お外は危ないところなんだぞ」って。
――だけど。実際にお外に出てみて、短い時間だったけど、あちらこちらを探検してみて思ったの。
とってもとってもとってもとってもとーっても楽しかったって。
そりゃ、怖いこともあったけれど(大きな車に襲われかけたり、ボス猫に睨まれたり、店長さんにまで睨まれたり)、でもね、でもね!
お家の中で過ごしているより、ずっとシゲキテキだった。これは本当。
「あれ?」
窓のカギをチェックしていた陽太が、不意に声を上げた。
何かと思ったら、庭にたくさんのご近所にゃんこさんたちが集まってきているのを見て驚いたみたい。
私はそしらぬ振りで、毛繕いをする。
実は、お外に出たあの日に知りあったご近所にゃんこさんたちが、ちょこちょこ遊びに来てくれるようになったの。中には、あの日に会っていない、初対面のにゃんこさんまでまじってる。
なんでかしらね?
私がかわいいから噂になってるとか? うふふ。
とにかく、身体をキレイにしてからじゃないと、ご挨拶もできないわ。
寝起き、そして朝食後の顔でお客様に会うだなんて、もってのほかだもの。
クロエさんみたいなすてきなレディーになるためには、身支度は大切! 念入りに毛繕いしなくちゃね。
そんなことをやっていたら、陽太が重そうなランドセルを背負って、私に声をかけてきた。
「いい子で待ってるんだよ」
はぁ〜い。陽太、帰ってきてね。ひとりはさみしいわ。
――なんて、お外のにゃんこさんたちに聞かれたらはずかしいから、小さな声でお返事。
すると陽太は嬉しそうに笑ってくれて、部屋を出ていった。
ばたん! どたどたどたとたとた……と……た……た……。
あーあ……行っちゃった。
私は耳を澄ませる。陽太、ママさんと何かおしゃべりしてるみたい。
あ、ママさん、なんだか怖い声。何か怒ってるみたい? 陽太ったら、何かやっちゃったのかなぁ。逃げるように玄関を出ていく音が聞こえた。
さあ、ひとりきりの、たいくつな時間がはじまったわ。
お友達が窓の外に来てくれているから、前ほど寂しくはないけどね。私も外に出られれば言うことなしだけど。
私は尻尾の先までしっかりと毛並みを整えると、うーんと伸びをして、それから陽太のベッドを飛び降りた。
みんにゃにご挨拶しようっと。
窓辺に駆け寄る。
あ、みんにゃも私に気付いて近づいてきてくれた。今日は10にゃんくらい来てくれてる。いつもより多いかも。あ、モノクロさんたちもいるわ!
「おはよう!」
「おはよー」「また遊びにきちゃった」「元気?」「今日は一緒に遊べる?」
「ごめんなさい、今日もお出かけはできないの」
「え〜」「だめなのかー」「残念」
みんながっかりしてる。私も同じ気持ち。
すると、グレースが言ったの。
「どうにかして出られないのか?」
「うん。全部カギがかかってるから」
「なら、カギの開け方、教えてやるよ」
この前、公園で知りあった茶トラさんが言い出した。
「えっ、そんなことできるの?」
「ああ、簡単だよ」
茶トラさんは得意げに胸を張る。
「すごい!」
「どれ、お前ん家のは――」
茶トラさんは少しの間、窓の外をウロウロしてカギを確認したかと思ったら、こう言ったの。
「……難しいやつだな。悪ぃ、無理そうだ」
あっさり降参。
がっくり……。
「なんだよ、期待させてー」「どうにもできないの?」
他のみんにゃからもブーブー不満の声があがってる。
そしたら、クロエさんが真面目な顔で口を開いた。
「いいじゃない、家の中でも」って。
その一言で、みんにゃ、黙っちゃった。
「外は危険よ。私だってケガをしたり、危ない目に何度もあっているわ」
「えっ! クロエさんも?」
私はびっくり。
だってこんなにステキで、いつも涼しい顔をして、余裕あるって感じのクロエさんが……よ?
「みんなだって経験してるでしょう? してないとは言わせないわよ」
チラッとみんにゃを見回すクロエさん。
その視線に、なんと全員がきまり悪そうに目をそらした!
私、それだけでわかっちゃった。みんにゃ、危ない目にあったことがあるんだ……。
「……そうなんだ」
私はぷるっと震えた。
一度外に出ただけだけど、怖い思いをしたのは本当。楽しいことばかりじゃなかった。
「ミャオンのお家の人は、猫は家の中で過ごすのが一番安全だって知っているの。そういうお家の子になれて、あなたは幸せなのよ」
「……うん」
私は今のままでも幸せ。本当に。
陽太が一緒に居てくれれば、それだけで充分。遊んでくれたりするともっと嬉しい。
(……あ、ママさんとパパさんも大好きよ!)
けれど、けれど――。
あの『お店』のことが忘れられないの。
『カミカミ』……あれは最高!
おいしいだけじゃなくて、人間になれちゃう夢のようなおやつ。
陽太とおしゃべりまでできちゃったのよ! 猫語がわからない陽太にも、人間になれば言葉が通じちゃうの!
そうよ……! 私、また陽太と話がしたい。人間になって、気持ちを伝えたい。
「私……『お店』にまた行きたい」
「!」
私の呟きにみんにゃが顔を見合わせた。
「『カミカミ』を食べれば、人間になれるでしょ? そうしたら危険じゃなくなるよね?」
「……そりゃぁ……な……」
もごもごと口ごもってる。
「……まぁ、うん……」
グレースまで。
「???」
なになに、なんなの? 私、何か変なこと、言っちゃった?
そしたら。
みんにゃの――庭の空気が変わった。
植え込みのそばにいたにゃんこさんたちが、ピリピリと緊張してる。
「え、なに?」
のっし、のっし。
そんな音が聞こえてきたわけじゃないけど、外からやってくる大きな影。
それは――なんと、なんと、あのこわ〜いボス猫!
ゴンだったの!
<2話へ続く>
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