ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第8章2話
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第8章 招かざるモノたち
2話
真ん丸なお月さまが柔らかな光を放つ夜。
大林家の庭には、大勢のご近所猫さんたちが集まっていた。
すでに本来の猫集会は終わっていて、いつもならもうとっくにみんな寝床に帰ってもいい時間なのに――スノウさんの提案で、こうして気が向いた猫さんたちが、集会の二次会だといって集まってきてくれたの!
「この子かい、『店』に行くなりシサクヒンを丸のみしたっていう猛者は」
「噂には聞いていたけど、こんなに可愛い子だったなんて!」
「いやいや、勇気のある子だよ、実際」
……みんにゃ、窓ガラス越しに、私を物珍しげに眺めてくる。
これ、知ってるわ。
テレビでよくやっているもの。
ほら――そう。動物園!
私が見られる側、外のみんにゃはお客様。
まさにそんな感じだった。
でもね、イヤだなとは思わなかったの。みんにゃ、とても優しくて、ニコニコしてて、私にお外の色んなことを教えてくれた。
ボス猫ゴンは来なかったけど――その分、ゴンの噂話にも花が咲いたわ。
ゴンはケンカは強いけど、同じくらい思い込みも激しいらしいってこととか。意外にも子猫の面倒見はすごくいいってこととか(!)。ただ、人間のことはあまり好きではないらしいの。
だから私が窮屈な場所に閉じこめられてるって思って、陽太にケンカを売ってるんじゃないかってみんにゃ言ってたわ。
「……そんなことないのに。私、充分幸せなのに」
「そうね。ゴンにそのこと、伝えた方がいいかもしれないわね」
「あいつが話を聞けば、だけどね」
茶トラさんがううむとうなってる。
すると、『店』にいて、一部始終を見ていたサバトラ猫さんが話し出した。
「それでさ、ゴンのやつも人間になったじゃん?」
うんうん! 美少女に変身してた!
「あいつ、その後、ミャオンの飼い主にケンカ売ってさぁ」
見てた、見てた!
……芽雨さんに「ミャオンってただのペット」って言われたあの時のことよね。
「それから、今度はミャオンの飼い主の友達に声かけられてたんだぜ」
えっ。えええ!?
それは初耳!
思わずグレースを見る。と、グレースは、うんうんって頷いてみせた。
「な、なんて!? なにを話していたの!?」
「それがさぁ……ゴンのやつ、人間の格好してること忘れたのか、公園に行っちまって」
「!?」
「餌やりの時間が近いからって、その女の子連れていっちゃったんだよね。でさぁ〜」
んもう! もったいぶってないで、早く続きを聞かせてよ!
「公園についたところで人間になってるってことを思い出したらしくて。で、女の子とごちゃごちゃ話しはじめて〜…………」
「それ、私も見てたわ!」
話が長いサバトラさんに割りこむように、キジトラさんが話し出した。
「あのね、ミャオン。落ち着いて聞いてね。その女の子、ゴンに飼い主さんとの関係を聞いてたの。もちろん、ゴンはカノジョなんかじゃないって否定してたわ。はっきりね。そうしたら、女の子が――じゃあ、協力してよって持ちかけていたの」
「協力……?」
「その女の子は、なんでもミャオンの飼い主さんのことが好きみたいなの」
「!!!!!!」
やっぱり!
やっぱりそうだったんだ!!!
陽太から聞く話から、薄々そうじゃないかな〜って思っていたのよ! 怪しいと思ってた!
私の勘は当たってたのね!
「だけど、ミャオンの飼い主さん、鈍くって、その上、そういうことに全然興味がないみたいで、困ってるんだって。だから、うまくいくように、きゅーうぴと……きゅんー……?」
クロエさんが助け船を出す。
「キューピッド」
「それ! それをやってくれって!」
「きゅーぴっど? ってなに?」
初めて聞く言葉よ!
「恋が実るように協力してって意味らしいわよ」
クロエさんは穏やかに微笑んでる。
「へぇ〜……。……えっ。えええっ!? ということは――芽雨さん、ゴンに陽太と自分がうまくいくように手伝ってくれって頼んだの!?」
「そういうこと! で、ゴンはなんて言ったと思う?」
「――……」
想像もつかないわ。
他のみんにゃも顔を見合わせては、「うんって言ったのかな?」「言うか?」「ええー」ってごちゃごちゃ言ってる。
すると、サバトラさんが言ったの。
「『わかった』って言ってたぜ!」
「!!!!!!!」
みんにゃ、真ん丸の月に負けないくらい目を真ん丸にして、びっくり!
「なんだかごちゃごちゃ言ってたけど、最終的には頷いてた! な?」
キジトラさんは、自分が種明かししたかったみたいで、少し不満げだったけど、うんって頷いてた……。
「つ、つまり……芽雨さんとゴンが、手を組んだってこと……?」
私はごくりとつばを飲み込んだ。
なんてこと……!
これって、大大大大大大大ニュースじゃない!?
陽太に伝えておいた方がいいかもしれない!(芽雨さんの気持ちは置いといて)
だって、これから何か仕掛けてくるってことでしょう?
芽雨さんのために、キューピッドになったゴンが、何かを――。
「……なにをするつもりなんだろう。どうやって……」
私のつぶやきに、みんにゃも「さぁ」って首を傾げてる。
「それはこれから考えるのかもしれないわね。とにかく、その女の子――芽雨さん、だっけ? 彼女は、人間になったゴンを自分の味方にしておこうって考えたのよ」
クロエさんが訳知り顔で言う。
「ゴンを自分のライバルにさせないために、ね」
おおー、なるほど!
どよめくみんにゃ。
さすがクロエさん。恋する乙女心に詳しいのね!
「わからないのはゴンの本心ね。芽雨さんの狙いは大体わかるけど、ゴンはどういうつもりなのかしら」
うーん……確かに。
みんにゃも「?」ってなってる。
結局、眠たくなるまで、みんにゃで色々予想しあったけど、ゴンの本心については見当もつかなくて――集会はお開きとなったの。
そして夜が明けて――私は夜更かししたせいで、眠くて眠くてたまらない。
なんだか……ちょっと湿気が多いわね。
雨でも降るのかしら?
窓の外を見ると、重たい雲が青空の一部を覆いはじめてる。
でも、今日は陽太と一日中めいっぱい遊べる貴重な日!
重たいまぶたを何とかこじ開けて、陽太に遊んでって甘えたわ。
けれど陽太は今日もなんだか忙しそう……。
1回だけネズミのおもちゃを投げてくれたけど、すぐに出かける支度を始めた。
……どうして行っちゃうの? 一緒に遊んでくれないの?
私はおもちゃをくわえたまま、陽太を見上げる。
もっと遊んでよ。一緒にいて。
けれど。
「……ごめんね、ミャオン。ぼくだって一緒にいたいけど、三ヶ田さんに伝えたいことがあるんだ。それと、宮尾くんにも言っておきたいことがあって。その用事が終わったら、たくさん、たっくさん遊んであげるから」
え――昨日の用事、まだ終わってなかったの?
そりゃ、そのうちの1つが片付かないのは、わかってるわ。私、宮尾はこうして家にいるから。でも三ヶ田って人にも会えなかったなんて……。
「……そうだ。はい、ミャオン。新しいおやつだよ」
陽太はそう言って、なんと私に『カミカミ』をくれたの!
まさか、陽太からもらえるなんて思いもしなくて、びっくりよ!
『店』で買ったの? どうして? なんで?
事情はよくわからないけど、これでまた私は人間に――宮尾になれちゃうんだ。
もうずっと猫のままでいいって思ってたのに、こうしてチャンスが転がり込んでくると、決意が揺らいじゃうじゃない!
だって私、陽太に伝えていないことがいっぱいあるんだもの。
あ、芽雨さんとゴンが仲良くなっちゃったってこととか、知らせた方がいいかな?
ゴンとも話をして誤解を解きたいわ。
そのためには、やっぱり外に行かないと。
でも――でもでも……。
私が迷っていると、陽太は私の頭を軽くなでなでして、そのまま出かけていっちゃった。
陽太、私はどうすればいいの?
もうわけわかんなくなってきちゃった!
<3話へ続く>
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