ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第6章4話
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第6章 こころがクサクサ!
4話
陽太、おでかけしちゃった。
なんだかものすごく慌てていたけど、大丈夫かしら?
でも、そのくせ戸締まりはちゃんとしていくの。えらいわ。感心しちゃう。
……さて、と。
取り残された私は、どうしたらいいのかしらね?
さっきの考え事の続きでもしようかしら。ゴンの誤解をどうやってとけばいいか……。
やっぱり直接話すのが一番早いわよね。
問題は、ゴンに会う方法。うちの庭に来てくれる時を待つしかないかしら?
私はトコトコと窓辺に歩み寄る。
庭にはだぁれもいなかった。
おひさまが傾きはじめてるから、ご近所でごはんの神様たちがカリカリフードをわけてくれる神聖な時間はもうすぐ。だからみんにゃ、神様のところへ行っちゃってるんだわ。
ゴンもきっと同じよね。帰るお家のないにゃんこにとって、神様のくれるごはんは生きていくためには必要なものだもの。
ん? ということは……今から神様のところへ行けば、ゴンに会えるってこと?
ああでも、買い置きの「カミカミ」は1回分だけ。
今日使ってしまったら、なくなっちゃう。
でも『オダイキン』になりそうなものは、もうないのよね。
ん〜。今夜のごはんを少し取っておけばいいかな?
遊びつくしたおもちゃじゃ、きっと『オダイキン』として認めてはもらえないだろうし。
――。
私は顔を上げて、陽太の部屋の本棚を見上げる。
あの上のほうにある箱。あそこに、私のためのおやつやおもちゃが入っているの。
新品のおもちゃや、おいしいおやつは、いつもあそこから出てくるって知ってる。
つまり、あの中には『オダイキン』がドッサリ入ってるってこと!
陽太やママさん、パパさんがくれるまでは触っちゃいけない場所だけど――。
ちょっとだけもらうくらいだったら、気が付かれないかも?
――はっ。
だめだめ! それじゃ、ドロボウみたいじゃない?
それだけはやっちゃダメよ、ミャオン!
でも、あそこに届けば――。
私がひとり悩みまくっていたら……。
「たいへんだ、たいへんだー!」
――って、グレースが庭に駆け込んできた。
「グレース!? どうかしたの?」
「い、いいか、落ち着いて聞け、ミャオン! ゴンがまた『カミカミ』買ってった! そんで、どうするのかと思って、おいらあとをつけてみたんだ! そしたら陽太が来て! ゴンのやつ、すぐさま『カミカミ』食べて、また人間になって、陽太に向かってったぜ!!」
「ええええっ!?」
たっ、大変! 陽太が危ない!
「場所は!?」
「店の前の通り!」
「わ、わかったわ! 教えてくれてありがとう!」
私は大慌てで買い置きの『カミカミ』を食べるため、秘密基地――陽太のベッドの下に飛び込んだ。
人間の姿になって、大林家の玄関から堂々と外に出た私は、グレースと一緒に、『店』のある路地を目指す。
途中、車とすれ違ったけど、猫の姿の時と違って、巨大なバケモノみたいには見えなかった。
そりゃ、怖いことに変わりはないけど、猫の姿で初めて車を見たあの時と比べて、迫力が足りないっていうか。
身体が大きくなるだけで、こんなに違って見えるものなのね〜。
――なんて、のんきに考えている場合じゃないわ!
人間の姿だから、グレースみたいに近道を使えない。そこがもどかしいけど、私は必死に走った。
そうして『お店』のある路地の曲がり角までたどり着いたら――そこに、意外な人が立っていたの。
芽雨さん。
膨らんだ袋を手に、なんだかコソコソと路地のほうを見てる。
こっちに背を向けているから、私とグレースが来たことに気が付いていないみたい。
「……?」
思わず私も芽雨さんのまねっこをして、その後ろから路地のほうを見てみる。
すると――。
陽太とゴン――正確には、人間に変身したゴンが、睨みあっているところだった。
陽太は無事!?
「ひっ!?」
「!?」
芽雨さん、ようやく私に気が付いたみたい。振りかえって小さな悲鳴を上げた。
「な、なによ! いるなら声かけなさいよ!」
「ご、ごめんなさい。あの、います。こんにちは」
私が挨拶をすると、芽雨さんは呆れたように目を大きく開いて、それから、そんなことどうでもいいって感じで、また陽太たちの方を見た。
「ねぇ、あの二人、なにやってるように見える?」
「……えっと……おしゃべり?」
今のところ、ケンカとかはしてないみたいだし。
って、安心した矢先に、ゴンが陽太をドンって突き飛ばした!
陽太、大丈夫!?
思わず駆けつけようとした私を、なぜか芽雨さんは引き止めた。
「ちょっと待って。様子を見ましょ」
「!?」
芽雨さん、どういうつもり?
「……ねえ、大林くんは、あの女の子のこと、彼女じゃないって言ってたけど、私は怪しいって思ってるの。だってそうでしょ? 彼女じゃないなら、どうしてこうやって二人でコソコソ会ってるの?」
「…………」
ええと…………陽太。
さっき芽雨さんの誤解はとけたって言ってたよね? でも、ご覧の通り、まだ疑ってるみたいよ。
それなら、私も協力しないとね。
「コソコソ会ってるわけじゃないんじゃないかなぁ。たまたま会っちゃったってことも……」
「でも、ほら! 見て!」
えっ、ゴンが陽太を壁際に引っぱってく!
なに、なになに?
なんか、パッと見、とても仲が良さそうなんだけど!?
「……やっぱり怪しい」
芽雨さんは何だかとても辛そうにつぶやいて、私のほうを見た。
「ねえ、あなた、大林くんの友達でしょ? えっと、確か名前は――。名前は?」
「あ、えっと……『宮尾』、です」
「宮尾くん、あなた、大林くんの本心を聞き出してくれない?」
本心? って、なに?
私が「?」ってなったのがわかったみたい。芽雨さんは念を押すように、真剣な表情でこう言ったの。
「大林くんが本当に好きな子は誰なのか、聞いてほしいの」
「――」
え。
なぁんだ、本心って、そういうこと?
そんなの、決まってるじゃない。聞くまでもないわ。
「それなら知ってるよ。陽太が好きなのは、ミャオン!」
毎日、『大好き』って言ってくれるもの。うふふ。
すると芽雨さんは、口をあんぐり開けたかと思うと、
「――――はぁ?」
って聞き返してきた。
「? だから、陽太が好きなのは――」
芽雨さんは最後まで私の言葉を聞いてはくれなかった。
「ミャオンってただのペットじゃない。話にならないわ」
「…………え?」
「ペット?」
「そうよ、ただの飼い猫! そういうことを聞いてるわけじゃないの」
ペット。
ただの――飼い猫。
私は、ただの――ペット?
あ、なんだろう。グサッと突き刺さるものがあった。
こころが、痛い。
「もういいわ。自分で何とかするから」
芽雨さんはそう言って、また陽太たちの方を見る。
ゴンは陽太と別れて、こっちに歩いてくるところだった。
「お、おい、まずいって、ミャオン! 隠れよう!」
私と芽雨さんを塀の上から見ていたグレースが、声をかけてきた。
そ、そうよね。こっそり隠れて見ていたのがゴンにわかっちゃったら、何をされるかわからない。
「こっちだ!」
私は促されるまま、グレースのあとを追う。
芽雨さんはそんな私たちにおかまいなし。歩いてくるゴンを待つつもりかしら?
――どうする気かな?
ううん、そんなことより。
『ただのペット』。
芽雨さんは私のことをそう言った。
陽太は毎日、私を大好きって言ってくれるけど。
『ただのペット』なの? 私――。
その言葉が、大きなトゲみたいに、こころに突き刺さって。
私はどうすればいいのかわからなくて、とにかくその場所から逃げ出した――。
<5話へ続く>
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