お見合いが嫌なのでギャルのふりをしたら、相手が初恋の人でチョベリバでチョベリグでテンサゲでテンアゲ↑↑ 第5話

 失敗した。

 シャワーから出ると、そこに淑子はいなかった。

 行為後すぐ淑子から慌てて離れた。あのままでは二回目どころか三回目四回目と続けてしまいそうで、余裕のない男だと思われたくなかったのだ。
 だが、捕まえて続けておけば良かった。
 ぐったりと力が抜け、抗うこともできないほど抱き潰しておけば良かったのだ。
 

 何度も何度も夢に見てきたあの瞬間を行永はほとんど覚えていない。頭が真っ白だったから。

 淑子から誘ったくせに喘ぎ声に拒絶が混ざり、途中で逃げられそうになったから、華奢な体を力で支配した。
 そうして、狭いそこを割り開き、ずっと想い続けていた所に到達し、頭が溶けそうなほどの快楽に淑子を気遣うこともできなくて。

 ずっとシミュレーションしていただけあって、かろうじでゴムをつけていたことに気づいたのは事後だ。
  
 ようやく手に入れたはずの初恋の人。 
 電話は着拒され、SNSもブロックされていて行永はスマートフォンを怒りのまま床に投げた。

 また、逃げられた。

『私の好きな人は年上で、気が利いて、余裕があって、筋肉質で、おしゃれな人だよ』
 高校生のころ、偶然聞いた淑子の言葉が蘇ってくる。

 告白しに行こうとして、彼女が自分を弟のようにしか思っていないと知った。
 
 自惚れていたのだ。自分を見つめ微笑んでくれる淑子に、両思いではないかと期待していた。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃に、その日初めて部活をサボった。
 そうしてそれからズルズルと学校には行けても部活には行けなくなった。

 淑子の顔を見ると情けなく泣いてしまいそうで。

 それでもなんとか卒業式の日、気持ちを立て直したのだ。
 淑子に好きな男がいても追いかけようと。身を焼く嫉妬を堪えて振り向いてもらえるよう努力しようと。

 それなのに、淑子は卒業式に来なかった。

 行永は淑子の連絡先すら、知らなかった。

 それから、淑子を探す生活が始まった。 
 淑子は受験シーズンが終わるにつれ、隠してはいたがどんどん暗くなっていったし、おそらく大学に落ちてしまったのだろうと思っていた。
 あれだけ真面目に勉強していたのに、緊張して失敗してしまったのだと。
 だから、大学の話題はふらなかったが、あのとき、聞いていればなにか変わっただろうか。

(誤魔化されて終わっていたに決まっているか)

 いつも淑子が降りる駅から阿比留という名字の家を探すまでは簡単だった。伝統工芸品を作っている家なので有名だったのだ。
 行永はすぐさま、直接訪ねた。

 お嬢さんの高校の後輩だが、スマホを持っていなかった淑子と連絡がとれなくて心配していると告げるも、ある男に、淑子なんて娘はいないとすぐさま否定された。
 警戒されたのか本当にいないのかわからず何日か張ったが、淑子は出てこない。
 どこか寮のある予備校で浪人しているかもしれないと、昔、淑子が図書室で赤本をてにとっていた大学を受験した。
 でも、そこで淑子に出会うこともなく。
 
 旅館で住み込みで働いていたのを知ったのは大学生になり、淑子の偏差値で受けそうな大学をあちこちさまよいながら、彼女が好きだったミニゲームを集めてアプリを作ってからのこと。
 淑子が懐かしがって登録してくれないだろうかと願った。
 でも全然、箸にも棒にもかからなくて。
 そんなとき偶然地元で会ったパソコン部の顧問が、行永が通う大学を褒めたあと、口を滑らせたのだ。
 
『確か斎藤は阿比留と仲良かったよね。家庭の事情がなきゃ阿比留もいい大学に行ってたろうに。まあ、大手の旅館に推薦できてよかったよ。うちみたいな進学校は就職する子はほとんどいなくてノウハウがないから当時は大変だった』と。
 行永は話を合わせた。
『確かあそこCMやってましたよね』
 声が、震えてなかったろうか。
 そうそう、と顧問がCMソングを歌ってくれ、ようやく行永は淑子の影がつかめたのだ。
 
 それからは全国津々浦々。あちこちでチェーン店化している旅館を転々とするしかない。
 そうなったら金がいるので、本腰を入れてゲームを作る傍ら、すべて巡って、何日も泊まって、警戒されないよう、阿比留という高校の先輩がこの旅館に就職したと何の毛もないふりをして従業員に尋ねたりして、それでも全然見つからなくて。
 
 契機が訪れたのは、昔、無下に追い返してきた男が引き起こしたお家騒動だ。
 行永は銀行主催の名刺交換会であの男に近づいた。
 騒動前に招待状を出してしまっていたという行員や経営者仲間は話しかけるのをやめておけと止めてきたが、知ったこっちゃない。

『はじめまして』
 と名刺付きで挨拶すると、行永のことなど覚えてもいなかったようでニッコニコで対応された。
 
『実は高校のときの先輩に同じ苗字の方がいて、淑子さんと仰られるんですが、ご親戚ですか? すごくお世話になったんですよ』
 
 効果はてきめん。
 新進気鋭の実業家という金持ちに、目の色を変えたあの男は簡単に淑子を売った。 
 曰く、淑子は今、リゾート会社で働いていて、東京の大学に通っている自分の娘と暮らしていると。

 会社の入口を張ると、今までが何だったと言いたくなるほど淑子はあっさりと見つかった。
 同僚の男に淑子は山内さんと呼ばれて、狙われているが気づいてなかった。

 阿比留と呼ばれていないだなんて、結婚しているのかと焦ったが、姪と暮らしておりそんなそぶりはなく。
 もしかして、離婚したものの前の男に未練があるから名字はそのままにしている?
 いや、別居婚しているだけかもしれない。

 行永はあの男から更に情報を引き出そうと、援助をする素振りを見せつつ、久々に会いたいなと一言言えば、見合いはすぐにセッティングされた。
 釣書に書かれた淑子の亡くなった両親の名字が山内で、もとに戻しただけだとわかり、どれほど安心したものか。
 
 そうしてようやく会えることとなった淑子は、普段は地味なくせに休日の趣味としているのか、ギャルになっていて、凄くきれいで、エロくて。
 きっとたくさんの男たちに口説かれてきたはずだ。
 それこそ、年上で、気が利いて、余裕があって、お洒落で、筋肉質な男に。

 行永はたちまち不安になった。
 年齢はどうにもならないが、それ以外は努力でなんとかできたつもりだ。
 コンタクトにしたし、ファッションに気を使うようにもなった。
 未だにお洒落はよくわからず、デパートでコーディネートサービスを頼んでいるだけではあるが、淑子といつ再会してもいいように行永は変わった。
 筋肉だってつけたし、気遣いやマナーの本も大量に読んだ。

 再会できることになった後も、淑子を連れて行く場所は必ず下見して、どこでどうすれば気が利く人間に見えるか必死で考えた。
 
 もう弟なんて言わせないと誓っていた。

 しかし、やっと会えるようになったというのに、行永は淑子に壁を作られていると感じ続けていた。
 今日のランチでは行永が一方的に話すばかりで、淑子の顔色が悪かったことに気付いたのは食後。
 慌てて、つい、部屋で休まないかと言ってしまったあと、後悔した。
 体調が悪いのに性行為に誘ってくるような気遣いのない男だと思われたらどうしようと、必死で言い訳を考えたとき、淑子が部屋についてくると言い出したのだ。
 勘違いしそうになる己を律し、休ませようとしたのに、誘ってきたのは淑子じゃないか。
 
 嫌がったのにやめなかったから、気遣いのない男だと思われたのか。
 それとも下手だから逃げられたのか。

 いつまで経っても、どれほど努力をしても、淑子の理想の男にはなれないのだ。

 それでも、どうしても……
「絶対に逃さない」

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