お見合いが嫌なのでギャルのふりをしたら、相手が初恋の人でチョベリバでチョベリグでテンサゲでテンアゲ↑↑第8話

「………………………………お、おおおお俺を騙して油断させようってんですか? そ、その手には乗りませんからっ!」
 行永は顔を真っ赤にし、かなり動揺してる。
 物凄くこの手にのりそうである。

「可愛い」
 淑子が頬にキスをすると行永の目がめちゃくちゃ泳いだ。

「ちちちち違う、これは違う」
 違う違う騙されるな、また逃げられると、行永がぶつぶつぶつぶつ言っている。

「ごめんね、行永君が手慣れてるのかと思って、てっきり、遊ばれてるのかなーって勘違いしただけだったの……」
 その瞬間、行永の額に血管が浮いた。
「遊び? こっちがあんたの理想の男になるためにどんだけ必死だったと思ってるんですか!?」
「理想の男?」
 淑子は小首をかしげた。
「俺のこと、弟みたいなもので恋愛としては対象外じゃないって、昔クラスメイトに言っていたでしょう?」
「……聞いてたの?」

 覚えている、あの苦い嘘。前途洋々なクラスメイトに心の底から嫉妬したあのとき。

「ええ、先輩に告白しに行こうとクラスまで訪ねて行ったときにあの言葉を聞きました」 
 そういえば、行永と会えなくなったのはあの日からだった。
 結局、卒業式と旅館の研修が被ったので、卒業式も行けなくて……。
 なんてことだろう、あのときどれほど行永は傷ついただろうか。

「いっぱい傷つけてごめんなさい。何ていうか、あのとき私ちょっとした事情があって、拗ねていたというか、素直になれなくて」
「ちょっとした事情とは?」
「死んだ父さんが叔父に借金をしてたってことで、高校卒業後、働いてお金返さなきゃいけなくて、借金持ちなんか行永君には相応しくないと思って不貞腐れていたといいますか……」
「あるんですか、借金。いくらです? 一億? 二億? 淑子先輩のためなら安いものです」
 思っていた以上の桁を出され淑子は手を横に振った。

「いや、今はない、っていうか元からなかった」
「は?」
「由実が気づいてくれたんだけど、元々、父さんは叔父に借金なんかしてなくて騙されてただけだった、みたいな」
「はあっ!? あいつ殺していいですか? いいですよね!」
「行永君が犯罪者になったら困るし、一応、由実の父親だからね……」

「兎に角、つまり、要するに、先輩は僕が好きってことでいいんですよね? 両想いですぐさま結婚できるってことでいいんですよね? 大体、お見合いですよ、お見合い! なんで遊ばれるって発想になるんですか!」
「ご、ごめんなさい。で、でも、ほら、ホテルとってたし……」
「こっちは今も地元住んでて、あんたに会うために東京来てるんですよ、当然でしょう!」
「え? 社長さんなのに、東京に住んでないの?」
 IT社長=東京に住んでいるわけではないのかと淑子は驚いた。

「先輩がいつ地元に帰ってきても見逃さないよう、これまでほぼリモートでやってきましたからね!」
(地元でずっと私を待っていたんだ……)

「あと、私……」
「まだなにかありますか? 何が来ても全部問題ありませんよ! こっちは別に監禁凌辱コースでもいいんですからね!」
「……叔父への嫌がらせでふりをしただけで、本当はギャルじゃないの」
「…………全く、問題ありません。あの童貞を殺すセーターですが、童貞でしたので正直、殺されていましたし、むしろありがたいです」
「もしかして、どこに行くにも個室だった理由って……」
「あんな扇情的な姿、他の男に見せたくないに決まってるじゃないですか」

「ギャルが好きなんじゃないの?」
「先輩が、好きなんです。先輩がギャルだというのなら、俺はギャルが好き。それだけです」

 きっと今、淑子の顔は真っ赤だ。これが所謂キュン死にというやつだろうか。淑子享年29歳、死因、キュンだ。

「行永君、私も好き。行永君が初恋なの。ずっと忘れられなかったの」
「初恋? 先輩が? 俺を? 嘘だ、嘘、いや夢か? ああそっか、これは夢だ。どうせいつもみたいにそのうち目が覚めるんだ……」
「私のこと信じられない?」
 淑子は行永をそっと下から覗き込んだ。

「じゃっ、じゃあ、今すぐこれにサインしてくださいよっ!」
 行永が懐から紙を出してきたので、淑子は行永の下にいたまま受け取った。
 婚姻届だ。しかも、妻となる人がサインする場所と証人欄以外は完璧に埋まっている。本籍地も把握されているようだ。

「婚姻届なんて初めて見た。ペン貸して?」
 淑子は覆いかぶさられているため、行永にペンを要求した。
「ペン? ペン、ペンっ、ぺん!!」
 慌てて行永がスーツのポケットをビスケットが入っていたら確実に2つになる強さで、一つずつ叩いて探すが、どうやら見つからないようだ。

「す、すぐ、コンビニに買いに行きます! 悪いですけど一緒に行ってもらいますからねっ!」
「そんなことしないでも、家になにかの粗品のペンがあったはず……きゃっ!」
 淑子が行永の下から抜け出そうとすると肩を掴まれて引き戻された。

「俺を油断させて、逃げようってんですか!」 
「手を繋いでリビングに行く?」
 そういうと、すぐ担ぐように抱き上げられ、ズカズカとリビングに連れて行かれた。
 因みにズボンとパンツはぎりぎり足に引っかかってはいるが、半ケツならぬ全ケツ状態である。
 そんな淑子を膝の上に乗せて座り、ちゃぶ台の上にある百均のペン立てに無造作に入れられたペンをとって渡してきた。

(ちょっと書きにくい)
 そう思ったが、口に出すと行永がヒートアップしそうなので淑子はさらさらっと山内淑まで書いて手を止めた。


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