お見合いが嫌なのでギャルのふりをしたら、相手が初恋の人でチョベリバでチョベリグでテンサゲでテンアゲ↑↑第6話


ピンポンピンポンピンポンピンポン!

 アパートの扉が何度もガンガンと叩かれ、いつの間にか寝ていた淑子の体が跳ねた。


 まるで借金取りでも来たかのような連打だが、もしかしてあの叔父がまたなにかやらかしたのだろうか。

 寝起きの頭で淑子はスコープを覗かずに鍵を開けると、淑子が扉を開けるよりも強い力で反対から扉か開かれた。


「きゃっ! ゆき、ながくん?」

 扉の外にいたのは目を血走らせた行永だった。


 ピシッとスーツを着ていて、いつものようにかっこいいはずなのに、なんだか危うくて、輪郭がはっきりしない気がした。

「え、どうしたの? 私忘れ物でもした? ちょっと待ってね」

 人を招く予定のない二人暮らしの部屋は汚い。せめて片付ける間が欲しかったのだが、行永は無理矢理に押し入ってきて聞いちゃくれない。


 ガチャン!

 と、音が部屋に響き、行永が後ろ手に鍵を締めたことに気づく。


「なに、なに?」

 なぜだか退路を断たれた気がして淑子は急に怖くなった。

「…………俺を弄んで楽しかったですか?」

 それが、ここに来てやっと行永が発した言葉だった。

 淑子の目に、背の高い行永が更に大きく見えた。 

「なんのこと?」

 弄ばれた覚えはあれど、弄んだ覚えのない淑子は首を傾げた。 


「セックスした後、勝手に帰って、ブロックして、昔みたいに急に消えて、俺を弄んで楽しかったか、って聞いてるんですよ!」

「待って、違う」

 今までずっと穏やかだった行永に怒鳴りつけられ、淑子は弱々しく手を小さく横に振った。

 だがその手を強く掴まれ、引き寄せられた。


「待ちません! もういいです、もういい! あなたの叔父の会社に援助はしません。潰れればいい!」

「あ、え、それは普通にそうした方がいいと思う」

 淑子は行永の腕の中で頷いた。叔父は関わらないほうがいい人だ。

「本当にいいんですか? 淑子先輩、困るでしょう?」

「別に困らないよ? どうして?」

 淑子は社会人で養われていないし、叔父の会社で働いているわけでもない。

 由実の生活費だって淑子が持っているから、あの叔父がどうなろうと今と変わらないのだ。


「役員の一人なのに?」

 行永が酷薄に笑った。


「なに、それ?」

 淑子はその言葉に嫌な予感がして、足が震える心地がした。 

「会社の名簿、見たことないんですか。あなた役員として役員報酬受け取っているはずですよ」

「受け取ってない、受け取ってない、受け取ってない、なんのこと?」

 あの叔父に金を渡したことはあれど、受け取ったことなどない。


「知らないってことは、税金対策の隠れ蓑にされたんでしょうね。とはいえ、今、あなたは会社のことで責任を取る人間の一人なんですよ。嫌でしょう、嫌ですよね!?」

 そりゃあ嫌に決まっているので、淑子はうんうんと頷いた。

 知らない間に役員にされていたなんて、どうしたらいいかわからない。


「もしかして由実も?」

「ええ、そうですよ」

 あっさりと行永が認めたので淑子は小さく悲鳴を上げた。


「ど、どうしようっ」

 淑子は行永にすがりついた。


「ご自分のことより由実さんの方が大事ですか、妬けますね」

「いや、え、妬ける? いや、そうじゃなくて、弁護士? ううん、警察に言えばいいの? どうしたらいいの?」

 以前、由実に大学を辞めさせるぞと脅してきた叔父の計略に嵌りかけた淑子を助けてくれたのは行永だ。

 また何とかしえくれるのではないのかと淑子は行永の顔を見た。


 だけど、その顔は冷たくて。 


「警察はやめておいたほうがいいんじゃないですか? 詐欺の共犯なんですから」

「詐欺?」

 淑子の足はついに震えだした。


「僕、投資したんですよ。淑子先輩のおじさんの会社に。100万」

「なななななんでっ!」

 叔父が行永を騙そうとしていたことはわかりきっていたはずだ。

 それなのに、何故。


「そりゃあ、耳触りの良い改ざんした資料に騙されて、ですよ」

「嘘だよね、嘘だよねっ!」

 詰め寄るとスマホの画面を見せられた。

 ネット銀行経由で叔父宛に振り込まれている。


「あーあ、僕が警察行ったら、先輩も由実さんも犯罪者だ。たしか、由実さん、弁護士になるために法学部に通ってるんでしたよね?」

(あれ? 行永君に由実の話したっけ? いや、今考えるのはそれじゃない)

「でも、無実で、冤罪だから私から警察に先に事情を話せば……」

「ええ、証明はできると思いますよ。途方もない時間と

弁護士費用はかかるでしょうし、その間に由実さんの夢も潰えると思いますけどね」


「待って!」

 淑子は悲鳴混じりの声を上げた。


「待ってほしければ、今から淑子先輩の今後の人生の話をしましょう」

 淑子の背中に行永の手が回って何故か抱きしめられた。

 当たっている。いや、当てられている。先程まで淑子を喘がせていたそれが、再び硬くなっているのだ。


「え、あ、100万の返済を私がしたらいいってこと?」

体で返せ的なあれなのだろうかと淑子は視線を彷徨わせた。 

「いいえ、100万ごときで済ますわけがないじゃないですか。これは提案ではありません、命令です」


「めいれい?」

 おおよそ行永の口から出てくるとは思えない言葉に淑子はただ反復するしかできなかった。 


「淑子先輩には俺と結婚してもらいます。それで、毎日、気が利かなくて余裕もない年下でダサくてセックスが下手な男に好きなように犯されて、孕まされて、不幸になればいい、ざまあみろっ!」


(ざまあみろ?) 

 勢いよくいわれた言葉に、淑子の体は固まった。

 行永は懐いてくれているとばかり思っていたが、恨まれていたのだろうか。


「怯えた顔も可愛いですね。これからは毎日見せていただきますよ。淑子先輩、いや、淑子。もう、二度と逃さない。お前をどこにもいかせやしない」

 その言葉とともに淑子は廊下に押し倒されたのだった。

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