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お母さんは給食のおばちゃん

私の母は地元の小学校で給食を作っている。
でかくて白いエプロンと帽子をかぶってマスクをつけたあのおばちゃんだ。

私はずっと小学校の給食が大嫌いだった。
大嫌いなくせに学校給食をテーマにした作文を書くという宿題があり、大嫌いだったイカが給食が美味しくて食べられるようになったと書いた嘘まみれの作文がなぜだか評価され、お昼休みに私が作文を読む姿が各教室のテレビで放送されたことがある。

私はいまでもイカが大嫌いだ。
昨日ジョナサンに行って、カラマリフリットという単語が気になり注文したらイカに衣をつけて揚げたものだった。
大人なので何食わぬ顔で食べてやった。

これまでも何度か嫌いな食べ物を目の前にして、何食わぬ顔で食べたことがある。
でも小学生の頃の私は嫌いな食べ物を目の前にして、ただ見つめることしかできなかった。

好き嫌いがかなり激しく、魚介類はぜんぶだめ、肉はミンチ肉のみ、野菜だけはなんでも食べられる、そんな小学生。

なのでほぼ毎日何かしら自分の嫌いな食べ物が出てくる給食が嫌いでよく残していた。

食べ残しを持っていった時に担任の先生に怒られたことは何度もあったけど、給食のおばちゃんに怒られたことは一度もなかったと思う。

半分諦めたかのような、しゃーないなあ顔でいつも食べ残しを受け取ってくれた。

母もこんな娘をもち、相当苦労していたと思う。今思うと申し訳ない。焼き魚が食卓に出たとき、一口でもいいから食べなさいと言われてその一口を含んだままトイレに行き吐き出したことが何度もある。本当に母にも魚にも申し訳ない。

家での食事に関してはすこしだけ厳しかった母だけど、小学校では食べ残しを受け取る給食のおばちゃんだ。
嫌いなものを無理に食べさせる必要はないし、食べられるようになる必要もない。
でも大丈夫、大人になれば不思議と食べられるようになるからと言っていた。

ほんとにそうなったのだから不思議だ。

ジョナサンのカラマリフリットも、何食わぬ顔で食べられたのは実はおいしいと思ったからだ。
イカは大嫌いなのに、悔しい。でもちょっとうれしい。

昔食べられなかった食べ物が何食わぬ顔で食べられることがなんだかうれしい。

そしてそんな私をみて母はほら言ったでしょ顔で笑うのだった。



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