うそ子の話42。

ルビーの指環をリクエストしていた夜の話♬.*゚

「マァスタァー。
歌って。
ルビーの指環。」

飲めないお酒。
でもそのBARのカウンターに
座るのは
あいたい人がいたからだ。

白が基調になった
飾り気のない
BARだった。

常連客ばかりで、
マスターのファンが多いお店で。

まず、一見さんでは
たどり着かない場所にあるBARで。
フラリとはいる雰囲気でもない
大きくて重たいアンティーク調な扉も
入れる人を選んでた。

「あいたい」
とは言われなかった。
「来なよ。」
としか。

大嫌いなやつだった。

知り合いの知り合いで。

わたしを見るなり
「ブスだなぁ。
せめて痩せたら?」
と言われたっけ。

馴染めない集まりの飲み会で、
「これ、返すの今度でいいから。」

と、スカートの上にかけられた
マフラー。
わたしの太ももが見苦しかっただけと
言ったけれど。

唯一の優しさだった。

出会ってから別れるまで、
彼が見せたあの優しさひとつに
すがってた。

彼を追いかけて
たどり着いたBAR。

「来なよ。」

彼はそう言って
まだ見習いだと
グラスばかり磨いてた。

マスターは、訳知り顔で
でも素知らぬふり
きめこんで

びっくりするくらい
上手に
「ルビーの指環」を
毎回歌ってくれた。

「歳上が本当は好きだろう。
もっと落ち着いたいい男を選べよ。
ルビーの指環くらい
毎日うたってやるから。」
と、何回か忠告してくれたね。

「来なよ。」

その度、飲めないお酒に
酔わされて
わたしは毎回カウンターで
うなだれていたな。

ルビーの指環きくたび
思い出す。

あれはそう
若気の至り。

絶対届かないもの。
違う世界をのぞいて
憧れて
恋に恋して。

ルビーの指環聞く度

小指の爪、

そっと噛む。

あの夜たち。

たくさんいろんなことあったはずなのにな。

マスターの歌ったあの歌しか

わたしには

残ってないんだよ。

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