ベース・マガジン2020年11月号(P62)の記事について

 現在発売中のベース・マガジン2020年11月号(Autumn)では恒例の「NEW PRODUCTS」(P206~P208)、前号から始まった連載「Basic Bass Knowledge」(P110~P111)の他、今号の特集『歪みベーシストという生き方』の記事で「歪みに関する全知識」(P32~P35)と、「サンズアンプvsダークグラスエレクトロニクス」(P60~P62)も執筆させて頂きました。

 歪みについては、いちベーシスト個人としても色々と語りたいことはあるのですが、紙面ではそれほど私的見解は入れてません。いや、少しは入ってるかな(笑)。でもかなり客観性を重視して書いているつもりです。

 で、「サンズアンプvsダークグラスエレクトロニクス」のP62は、かなり面白い記事になっていると思うんですが、紙面スペースの都合もあり、紙面には書ききれなかったことや補足などもあるので、ここ(自分のnote)に書いておこうかなと思った次第です。

・ 記事について

 前置きが長くなりましたが、該当のベース・マガジンに掲載されている「サンズアンプvsダークグラスエレクトロニクス」は、両社の代表機種TECH21 SANSAMP BASS DRIVER DI(以下BDDI)とDarkglass Electronics Microtubesa B7K Ultra V2(以下B7K)の製品紹介(P60~P61)と、グラフを用いた比較記事(P62)です。未読の方はこの先のnoteを読んでも何のことやらかもしれませんので、言いたいことはひとつです。本を買ってください(笑)。

 ベース・マガジン編集部K氏から最初の段階でグラフを用いた比較記事の相談を頂いた際は、自分としては執筆にかなり否定的でした。その理由は、ネットで散見されるグラフや波形を用いた比較記事は前提条件が曖昧で実情を反映してないと感じていることと、実機を測定してグラフにしたときに明確な違いや満足な結果が得られなかった場合に記事が成立しない可能性があると思ったからです。ディスカッションを重ねて、結果的には面白いデータが取れたと思うし、良い記事になったと感じているのでK氏には感謝しかないのですが……。

・ 周波数特性とは

 今回の記事で掲載しているグラフはすべて測定対象の周波数特性を示すものです。横軸が周波数、縦軸がレベルとなっていて、例えば1kHzの純音は周波数成分が1kHzにしかないのでグラフ上は1kHzで線状に表示されます。すべての周波数成分を持つホワイト・ノイズやピンク・ノイズはその特性からグラフ上のデータが横方向に一直線状に並びます。

・ 歪んだ信号の周波数特性

 「歪み」は「元の信号に含まれていない倍音成分が付加されること」と言い換えることができます。単純に信号を歪ませただけであれば、元の信号と歪んだ信号の周波数特性を見比べた場合に、確実に後者の倍音成分(高域側)のレベルが上昇します。これについては同じベース・マガジンのP33で詳しく解説しているので是非読んでください。

 ここで重要なのは、ある機器を通してその前後の信号の周波数特性を見比べて倍音成分のレベル上昇があった場合、イコライジング(EQ)によるレベル上昇なのか、歪みによるレベル上昇なのか判別できない、ということなんです。単にスペアナを使って歪み系エフェクターの周波数特性を表示するだけでは無意味だと思う次第です。

・ グラフで見る周波数特性の意味

 上記のような理由から、P62の上段「グラフで見る周波数特性」では、入力信号にピンク・ノイズではなくスウィープ信号(ほぼ一定レベルの純音を低い周波数から高い周波数へ少しずつ移動させる)を使っています。これによって判明した事実がグラフに表示されているわけですが、我ながら凄く面白い結果だと思うんですよね。どちらの機種もドライヴ段の前後でメッチャEQされているっていう……。まあ、そういう読みがあったからこのような測定をしたわけなんですが、その周波数も暴露しているのは今までにない記事だと思うし、メーカーさんに怒られかねないかもと思ったんですけど、わりとネット上は静かだなと(笑)。あれ?みなさん既知情報でした?

 歪みエフェクターでの音作りとしては真空管らしいとかC-MOSだとかの素子以前にプリEQ、ポストEQも重要なのかもしれませんね。万能なEQを2台お持ちでしたら、汎用の歪みエフェクターの前後にグラフと同じEQを掛ければ、ある意味BDDIやB7Kに近いニュアンスも出せると思いますよ。似た音にはならないと思いますが。

・ 周波数特性の落とし穴

 ベースに限らず、楽器音の大半は時間によって変化する信号です。ベースで言えばアタック音と持続音はまったく周波数特性が異なるし、持続音は減衰していきその過程でも周波数特性が変化します。一瞬の時間を切り取った2次元の周波数特性だけで測定対象の特徴を説明するのはやや乱暴で不十分な面もあると思います。加えて、エフェクターに限らず電子機器は過渡特性というか、入力レベルの大きさやスピードによっても出力特性が変化する面もあるので、これらも周波数特性などの2次元のグラフで表示させるのは難しいと思います。

 結論としては、周波数特性などのグラフは、測定対象の特徴のすべてを示しているわけではないけど、何も示してないわけでもない。正しく読み取ることが出来れば音作りの参考になるとは思います。

・ 波形について

 P62のグラフの片隅には、その時の観測波形も掲載しています。周波数成分がひとつしかない純音(正弦波)の持続音の波形は規則的でシンプルな波型ですが、倍音を含んだ波形は複雑です。波形の形状が全然違っても同じような音になることもあります。波形を動画でずっと見ていれば歪み具合の違いなどは分かりますが、静止した波形から音をイメージするのは難しいと思います。掲載しているのは分かりやすい波形を切り取った面もあるのですが、まあ参考程度に見て頂ければ幸いです。

・ おわり

 P62の記事はちょっと小難しい内容でしたが、補足できたでしょうか?逆にもっとややこしくなったかな?

 実は今回のP62の記事はP33の記事を書くことが決まっていたから書けた記事なんです。P33の記事がないとP62ではグラフの前提条件を説明するスペースが足りませんでした。ということで、今回のベース・マガジンを手に入れた方はまずはP32~P35を読んで頂いたのち、P62を読んで頂くことをオススメします。P110~P113のBBKも関連で読んで頂くともっと理解が深くなるかと思います。

 せっかく書いたのに読まれていないのが一番悲しいです(笑)。感想とか頂けると喜びます。どうぞよろしくお願いします。


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