見出し画像

――直情 short―― 一話完結 (週一物語)10/10

大学に二週間行かなくなると、同じ大学の真理が家に来た。僕は作り笑顔を絶えなかった。笑う必要はなかったが、そうすることが正しいと思った。真理はこの二週間、僕にずっと電話をしていた。が、僕は出なかった。なぜでなかったのか、それはよくわからない。

「来てくれなくてもよかったのに、今バイトが忙しいんだ。なんだか、急にやめた人がいてさ、その人の代わりにシフト多めに入れられてしまったんだ。本当に困ったよ。明日は大学は行く予定だから。」

バイトなんてしていなかったが、休んでいる理由が必要だと思った。真理は言葉を一つも返すことはなく、部屋のソファに座った。

「誤魔化さないで、このナイフはなに?」

 真理は私の右手を指差した。私は自分の手にナイフを持っていることに気が付いた。記憶を辿れば、私は二週間の間ずっと持っていた。持っている理由はわからなかった。

「…いや、そうだな。なんだか、人でも殺してみようかと思って……そう、思い出したんだ。自分がこうやって人の死を考えて、過ごしている方が似合っているって」

 僕はそういうとナイフを舐めてみた。特に意味はなかったが、その方が面白いだろうと思った。僕の行動で真理が驚くのを待った。

真理は、僕の行動に驚くことはなく、ただ見つめていた。想像と違う真理の反応に、少し動揺した。

ここから先は

459字

¥ 100