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互角
その男は瞑想している。
道場の小窓から陽が差している。その陽が男を包み込んでいる。穏やかだ。まるで男の肩に小鳥がとまってるようだ。
そんな道場に、この日変化が訪れる。
「頼もう」
その女が現れた。道場破りだ。佇まいは連戦連勝しているだろうか堂々としている。強敵だとすぐにわかった。
男「ふっ、女か。よかろう相手してやる」
それはその女にとっても同じ。男から抑えていても溢れ出るオーラがその証拠だった。
女「女だと思って甘く見ない方がいいわよ」
お互いに剣を構えた。ここから壮絶な戦いが始まる。張り詰めつた緊張の糸が今……切れた。
掛け声と共に剣が交じり合う。音の迫力が凄い。キンではなくゴンだ。ゴンゴンとお腹に響く。ここは道場ではなくライブハウスにいるかのようだ。
男「なかなかやるではないか。俺と互角に張り合えるとは」
女「そっちもね」
二人は余裕の言葉を交わした。
ー2時間後ー
両者は、はあはあ言っている。なんとか顔は余裕の表情に見せようと頑張っている。
男は思う。「何時間やってんだよ。全くの互角ってある?」
女は思う。「軽い気持ちでふわっと道場破りに来たのに、なんでこんなことになってるの?あ、青山のあの店のランチタイム終わっちゃう。早く終わらせないと」
意地と意地がぶつかり合う。
ー10時間後ー
両者は、はあはあ言っている。ひざが笑っている。爆笑している。
男はまたまたまたまた思う。「何時間やってんだよ。全くの互角ってある?」
女は思う。「あー、おしっこしたい。でもトイレタイムなんて言ったら負けにされるかもしれないしなー。どうしよう」
女は悩んだ。
「しちゃうか。よし。せーの、はい」
と同時に男は向かってきた。「やーーー」
女「ちょ、ちょ、ちょ、待て、待って。ぬあーーー。ぬあーーーーーーー」
男は止まった。「なんて威圧だ。何時間も経つというのにまだこんな力が残ってるというのか?」
ー2年後ー
交じり合う剣の音が心地いい。いいリズムで。ここは道場ではなくクラシックコンサートにいるかのよう。
男は思う。「何時間やってんだろう?全くの互角ってある?」
男の顔は晴れやかだった。
「あれ?…好きかも。2年前はあんなに憎かったのに。なんでこんな感情に。そうだ、あれは3か月前、俺がウトウトしかけた時に、あいつはわざわざ『やー』という声を出して俺を起こして向かってきてくれたっけ。ダメだ。もうこの気持ちは止められない」
男は急に剣を捨てた。
男「好きだー」
そして男は両手を広げ女に駆け寄った。
女「隙ありー」
2年にわたる壮絶な戦いが終わった。
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