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パパのコック帽

ケヴィンのパパは、街で人気のレストランで働くコックです。
パパが作る料理を食べに、世界中からお客さんが来て、お店はいつも大賑わい。
彼の料理を一口食べると、誰もが目をつむり、ゆっくり味わい、そして幸せなため息をついて、笑顔になるのです。
ケヴィンは学校が終わるとパパのお店に行き、キッチンの片隅から、パパやコックたちが楽しそうに料理をする姿や、幸せそうなお客さんたちを見ているのが大好きでした。

ある日、パパのお店でパーティがありました。
お店が「三つ星」をもらったんです。
それに、ケヴィンのパパは料理長になり、今までより背の高いコック帽を被りました。
いつもより陽気に踊るコックやお客さん。
ケヴィンは、大きな声で笑っているパパに聞きました。

「パパ、星はどこ?」
「え?なんだって?」
「星をもらったんでしょ?お星様見せて!空から飛んできたの?」
それを聞いてパパはまた大きな声で笑いました。
「ケヴィン、このパーティは星は落っこちてきたお祝いじゃないよ。この街のみんなが、お店のことを愛してるという証をもらったお祝いなんだ」
「そうなの?じゃあパパは、街一番のコックってこと?」
「ははっ!そうだな。ほら、今までよりコック帽の背が高いだろ?パパの腕が上がった証拠だ」
パパはそのコック帽をとってケヴィンに見せてやりました。
「じゃあ、国一番になったら、どれくらい高くなるの?」
「そりゃあ、自由の女神くらいだな」
「わぉ!すごい!じゃあ、世界一になったら?」
「エベレストくらいじゃないかな」
ケヴィンは目を輝かせて聞きました。
「じゃあ宇宙一は?月に届くくらい?」
「そうだな!だが、それじゃあフライパンを振るのが大変そうだな!」
パパはまた笑いました。
「僕も、パパみたいなコックになって、宇宙一になるよ!」
ケヴィンがそういうと、パパは驚きました。
「なんだって?!」
「僕じゃ無理?目玉焼きに殻が入っちゃうから?」
パパの驚いた顔を見て、ケヴィンは急に自信がなくなりました。まだ目玉焼きしか作ったことがないのです。
みるみる泣きそうになるケヴィンにパパは言いました。
「何を言ってるんだ、ケヴィン。お前はもう一番のコックだ。」
「でも、まだ僕は卵もうまく割れない」
「そんなこと、パパだってしょっちゅうだ。そんなことはどうだっていい。覚えてるか?お前が3歳の時、おままごとでパパに何を作ってくれたか。」
ケヴィンは首を振りました。
「仔牛のステーキのキウイソースがけだ。おもちゃのフライパンからお皿によそってそう言ったんだ。あれは、最高だった。パパはおもちゃだって忘れて食べてしまうとこだった。」
「僕、そんなことした?」
「あぁ、そうさ。それに、5歳になったお前は、パパが作ったカルボナーラに突然ケチャップをかけた。あれもたまげたな。あんな組み合わせは誰も思いつかないよ!」
「ほんと?」
「本当だとも。それにだ、ここだけの話だが…」
そう言って、パパは大きな体をかがめてケヴィンの耳に囁いた。
「この店の客には、お前のファンが多いんだ。」
「え!僕のファン?」
思わず声が大きくなり、パパがシーっと指を立てた。
「ほかのコックが悲しむから内緒だがな。よくお客さんから言われるんだ。『あの坊ちゃんの笑顔が最高のデザートよ』ってな。お前はもう接客までこなしてるんだ」
ケヴィンはパパを見つめて真剣に聞いてみた。
「僕は、パパみたいになれる?」
パパは、しゃがんで、ケヴィンの目を見つめかえした。
「パパみたいにはなるな。」
「え!僕、パパみたいにかっこいいコックになりたいよ!」
「だめだよ、ケヴィン。さっきも言っただろ。お前はもうすでに一番だ。だが、お前がパパを目指したらどうなる?コック帽の高さを競って、月の取り合いになるだろ。そんなふうになりたいか?」
「いやだ。」
「パパも嫌だ。だからお前はパパみたいじゃない、自分らしい自分でいればいい。そうすればずっと一番だ。そうだな。パパが月なら、お前は火星を目指せばいいさ。」
「火星?」
「そうすればお互いのコック帽がぶつかることもないだろ?」
「わかったよパパ。僕は一番の僕でいるよ。」
パパは息子を抱きしめました。そして、いつかこの子は三つ星どころか、数えきれないほどの星をもらって愛されるコックになると思うのでした。

陽気な音楽と、美味しいにおい、みんなが笑っていて、みんなが祝福している、幸せな空間。ケヴィンとパパも手を取り合って踊りだしました。

「ねぇ、パパ」
「なんだ。ケヴィン」
「火星人は、カルボナーラに何をかけるのかな」

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