見出し画像

装飾模様はアートになりうるのか?筧菜奈子「パターン・アンド・デコレーションの作品における装飾模様の意義」を読む

筧菜奈子「パターン・アンド・デコレーションの作品における装飾模様の意義」を要約してみた。
本論文は、日本で少ない1970年代におきたアメリカのアート動向「パターン・アンド・デコレーション」(以下、P&D)の研究書であり、美術史でいまだに曖昧に捉えられている装飾についての関係性について述べている論文である。

目次は以下

1.抽象と装飾
2.P&Dの模様の特徴
3.P&Dが描く装飾模様と抽象表現
4.装飾模様の伝播形態

本稿では、P&Dの作品における装飾模様と20世紀初頭に登場した抽象という表現との異なる特徴を分析を行なっている。この分析では当初ジェンダーやフェミズムの観点から捉えられきたP&Dの意味付を新たに更新することを目的としている。

まず、20世紀初頭に登場した抽象絵画などにおける抽象表現と装飾文様の違いを明らかにしている。20世紀美術では、抽象画ではしばしばそれが、壁紙模様などの装飾と見間違われることが問題視されてきた。このような流れの中でフランク・ステラは1950年代以降、装飾の模様に着目し、自ら取り入れる思考を絵画において実践し、その流れでP&Dと呼ばれる装飾模様それ自体を作品に取り入れた作品のアート動向が登場する。P&Dは、モダニズムにおいて否定された装飾的な模様を積極的に取り入れている。
そこで本稿ではP&Dのいくつかの作品を分析する。

P&Dの芸術作品としての特徴分析=
手跡の癖から壁面につけられた異物としての作品

P&Dのいくつかの作品には、装飾模様に手の跡やにじみなどがあることから、壁紙模様などにみられる機械的なパターンがないことから「壁面につけられた異物として」の意識があることがわかる。こうした特徴は「作家の存在」を強く認識させるものであり、芸術作品であることを認めさせる。

P&Dと抽象絵画の比較分析
P&D=装飾の意味を曖昧化
抽象=高度な精神性

 では、芸術作品であるP&Dは抽象絵画とどのように違うのであろうか。本稿では当時の批評家の装飾に対する引用をいくつか用いながら、装飾は「単なる視覚的な造形」であり抽象絵画は「高度な精神性」を持ったものであるという区別を明らかにする。
P&Dの動向が抽象絵画の系譜に位置付けるのならば、P&Dにおける装飾模様も「高度な精神性」持ったものだと考えられる。しかし、本稿での分析では、P&Dの作品における装飾模様は作家が意図的に装飾自体の意味を排除し、曖昧化させている。そのすることによって、作品をキャンバスという画面において構成させるのではなく、無限の意味の拡散を行おうと考察しているのである。
P&Dの試みは、モダニズムの観点からは「単なる視覚的な造形」の試みであるが、装飾それ自体の意味から逃れようとし、芸術作品に昇華させようという試みでもある。

最後に、筆者はこのようなP&Dの試みを19世紀の美術史家A・リーグルの唐草文様の伝来の研究と、A・フォションのメタモルフォーゼの理論を用いて説明を行う。装飾模様における文様は、「文化や時代を超えて変化する最に、思いがけない変化をとげ、新しい意味をその形に宿す」。この変化をメタモルフォーゼと呼ぶ。メタモルフォーゼが起こる際は、その時代に意味があった装飾模様は、伝来の際に意味が削ぎ落とされ、形だけが残り新たな発展が始まるというものである。P&Dにおける作品の実践もクシュナーを例に取り上げ、異国の装飾文様を混在化させることで、その調和のため曖昧化させていることを明らかにしている。このような試みから、P&Dは新しい装飾模様を作り出そうという試みを、芸術作品において行おうとしているのではないかと考え、その意味においてP&Dにおける芸術模様の意義があると結論づけている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?