豆乳がこぼれた先に白亜紀

温めた豆乳を飲んでいて、ひとくち分ほど寝巻の胸元にこぼした。

そのまましばらくぼーっと過ごして、さすがに着替えないといけないかと脱ぎながら、軽く嗅いでみた。

赤ちゃんのにおいがした。

マグカップからでは感じなかったにおいだ。

[寝巻に温かな豆乳が染みたところは赤ちゃんのにおい]

何かと合わさることで感じるにおいは他にもあっただろうか、と思い出してみる。

[鉄錆を触った手は体育のにおい]

[麦茶を作った後のやかんの内側は夏休みのにおい]

[爪のあいだに残った土はトリケラトプスのにおい]

思い出そうとして思い出すのはむずかしく、空想の過去まで辿ってしまった。

においのトリガーは引かれてすぐに消えてしまう。おぼえておこうと思う間もない。ふわりと現れてにじむように消える。冬の息に似ている。

いつかまた、新しいにおいが懐かしさをつれてくるのを待つ。



【豆知識】
調整豆乳・無調整豆乳と思いがちだが、
正しくは、
調製豆乳・無調整豆乳。

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