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父と母

 夫婦とはお互いに愛し合っている、と言える人は幸いである。信頼関係が有る?それも生ぬるい。憎しみ合っている?大分擦れていると言える。

 が、加害者と被害者と、揉み消された犯罪の結果と言える人はあまり居ない。僕の両親がそれだ。

 父は性犯罪の加害者で、母は被害者だった。本来なら警察沙汰だが其処は田舎、昭和時代には『責任を取れば強姦は有耶無耶』という事もあった。母は堕胎はいけない、という古い考えの持ち主であり、父の子供を産もうと思っていたらしい、が母としては父側の責任を取るという行動に関しては歯噛みしていた。母には婚約者が既に居たからだ。

 このレイプ事件で生まれたのが僕、だったらまだ救いは有るだろう。このお話に救いは一切ない、生まれたのは姉である。そして父との第二子がこの僕である。

 僕にとっての一連の無念は、母は父が何れ父性と理性と知慧を得て、良き伴侶と成るとでも思ったのだという浅慮である。更に姉に姉弟が居ないのは寂しいと思い父との子供に2人目を得ようとした事だ。僕からすれば僕は姉の為に孕んだ子供ということだ。勿論姉に弟を思う気遣いなど全く無い。父に似て癇癪持ちで理不尽であり、父譲りの学力の無さで経済的に行き詰まっている。僕の女性への偏見(と言う名の真理であったが)は殆どが姉由来の物だ。残りは妹である。

 妹に関しては特に記すことはない、凡俗であり、理想を追いかけ挫折して断念し、適当な相手と連れ合いになった。パートナーに関しては高い理想の持ち主でそれで散々振り回され、妥協したはずの相手がそれなりの資産家で兄妹では一番幸福だろう。僕は幸福な人間には用がないのだ

 父は現在定年退職後に働きもせず趣味に生きている、僕らはお互いに無視している。長い長い家族生活で今が僕らにとって一番穏やかに成ったと思われる。母が若い頃にあれだけ労力を払い父を更生しようとしたが、皮肉にも全くの徒労で終わっている。異性である母には永遠に分からないだろう。父の半身、遺伝学的にも半分同じなのでそう表現しても間違ってない。同性として何が父の性格に影響していたのか?答えは家族と男性であった事だ

 父はまず僕の祖父から虐待に近い折檻を受けていた、父方の親類は皆狂人である。祖父だけでなく祖母も狂っていた。父の兄弟も父以上に狂っており、控えめに言って関わりう事が無いなら関係を全て絶ち、逃げるべきだったのだ。

 母の話では祖父母には『気に入らない息子の妻が、夫を無くして困っていた時入院中に自宅を買って売り払って、行き先を無くした母子を嘲笑っていた』という鬼畜なエピソードを豊富に持っていた。その人は我が家系を大変恨んでいたのだという。

 どうトチ狂えばそんな男の血筋を増やそうと思うのか?僕の母への思いへの唯一の疵はその一点に限る。実の父親がいれば子供は幸福であるという母の持論を聞いた時は母の正気を疑ったくらいである。

 父のそれも、父にされた僕へのネグレクトと同質のものだった。父も己の行く道を照らすものが居なかったのであろう、同性であるから僕にも父の葛藤なども分かる、かと言って永遠の子供である僕にはされた仕打ちを水には流せない。延々と燻る怨念として残っている。

 無能な父に確固たる自己も持てない。故に怒りとして振る舞ったのだ。父の能力で会社勤めは地獄だったろう。男なら経済力は在って当たり前、無ければ穀潰し。人権意識の低い昭和時代はそれは地獄だったろう。定年まで投げ出さなかっただけ父の能力で完遂出来たことを讃えなければいけない。父の過失は此処までで全てだ。問題は我が家を支えた賢女である母の過失を追求しなくてはいけない

 父が荒れ狂っていたもう一つの理由、それは僕の存在だろう。僕さえ居なければ父はまだまともだった筈だ。

 男が男故に、実子に対して血筋が繋がっている確証を得られない。産む側は酩酊状態や、輪姦されなければ何時子種が仕込まれたのか?がわかるだろう、誰に因ってか?まで分かるはず。ここで母の過失を問おう。僕を産まなければよかったのだ。

 これは今僕が鬱病の精神障害で心を病んでいるから自己否定するのではなく、感情を含んだ論理で導き出した解答である

 父は性犯罪の加害者であり、母は被害者である。それを前提とした夫婦で、妊娠させた責任を取る、までは父も悩まない。それは己の過失であるからだ。だが、そんな関係に信頼が生まれるだろうか?母は其処を取り違えている。姉が姉弟が居なくて一人で寂しい?子供は実の親がいれば幸福である?全て悪質な錯覚である。周りが狂っていない前提でしか成立しない事だ。

 理解りやすく言えば「僕がウチの遺産目当ての嫁と結婚して、僕との間に次々と子供が出来ていった。だが嫁には他に男がいるとしたら?その状況で子供を嫁との間にできた子供と確信できるか?」と言えばわかり易い筈だ。こんな状況で僕なら不貞を疑う筈だ。父も同じである、実際に僕ら兄妹は父から『俺の子供じゃない』という言いがかりを何度も付けられた。姉のために作られた僕は存在するだけで父の早くの更生を阻んでいたのだ。母も報われた可能性だってあり得た。だがそうならなかった

 この結論に達した時、僕は生きる理由がなかった、大学進学も問題の先送りだった。だが姉弟で優秀な僕は進学に何の疑問も持たれなかった。大学に進学し有る女性に出会うという運命を果たしたが、それは偽の救済だった。そう、何時だって僕はこの問題に対して女性へ糾弾したかったのだ。

 「レイプで生まれた子供が母親に虐待されている。母が悪いのか?僕が悪いのか?」と。

 僕という人間を認めるにはレイプを認めるしかない、だが貴女はそれを認められるだろうか?自己存在の否定を行う僕に希望を与えられるか?と。

 僕はこの問いかけを誰かにしたかった。だが寂しい事に希望を持てるパートナー候補には遂に恵まれなかった。僕は自分の人生でベストを尽くしたと胸を張って言える、だがそれだけでは届かなかった。それが僕は無念だ。死ぬに死ねない。このままではこの世界に疵痕一つ残せやしない。

 僕という悪霊には怨むしか無いのに、誰にも可視されていないゴーストのまま終われないのだ。

この世界に怨念を振りまく(理想:現状は愚痴ってるだけ)悪霊。浄化されずこの世に留まっている(意訳:死んでない)