無下限呪術を高校数学で説明してみる

はじめに

 アニメ呪術廻戦2期の「懐玉・玉折」編すごかったですね。原作を補完するアニオリパートも楽しめましたし、特に演出がぐっときました。私は伏黒恵モンペなので5話は正気を保てませんでした。
 ところで、「懐玉・玉折」編は現代最強の呪術師・五条悟(以下、五条先生と呼ぶことにします)が能力を開花させ最強に成るまでが描かれていました。作中では五条先生が使う無下限呪術のことを五条先生本人が「アキレスと亀」と説明していましたが、「アキレスと亀」はコトバンクによると

ゼノンの逆説の一。俊足のアキレス鈍足の亀を追いかけるとき、アキレスがはじめに亀のいたところに追いついたときには、亀はわずかに前進している。ふたたびアキレスが追いかけて亀がいたところに追いついたときには、さらに亀はわずかに前進している。これを繰り返すかぎり、アキレスは亀に追いつくことはできないという説。

引用:コトバンク

と、速度は違えど両者が移動しているのが前提です。ですので、敵(=アキレス)だけでなく、五条先生(=亀)も動いていないと「アキレスと亀」理論には当てはまらないでしょう。五条先生がじりじりと移動しているのであれば「アキレスと亀」と言っても差し支えないですが、そんな五条先生はちょっと嫌だな…(個人的な感想)。
 なので「五条先生は動いていない」こととすると、原作コミックスの15巻の解説ページにあるように無下限呪術とは「収束する級数をデザインすること」という説明のほうがしっくりくると思います。ただ、15巻の解説だとデザインって何を?というところまで踏み込まれていない、また厳密に言うと級数とも少し違うなとも思ったので、ここでは私の持っている数学の知識で「具体的にどういうものをどうデザインをしているのか」について独断と偏見を交えて説明してみようと思います。幸いなことに、「収束」の概念は高校数学の範囲で説明がつくので、図や具体例を交えれば比較的理解しやすいんじゃないかなと思います。ただ私も大学卒業以降は数学に触れてないので、細けえこたあいいんだよ!な感じになってしまうことをご了承ください。また、間違ってるんじゃない?と思われた場合はこっそりご指摘ください。もちろん数学の知識が0でも雰囲気で分かるように心がけますので最後までお付き合いいただければ幸いです。

1.止める力

数式で表してみる

 無下限呪術では作中でパパ黒が言っていたように、大きく以下の3種類の力を操作するそうです。

  1. 止める力

  2. 引き寄せる力(蒼)

  3. 弾く力(赫)

まずは基本(?)の1.止める力から見ていきます。いきなりですが、この「止める」というのを数式で表してみます。ちなみにこれは数学IIの指数関数という単元で習います。数式の意味は後ほど解説します。

指数関数の基本の数式です

この数式に出てくる文字はそれぞれ以下のような意味です。

f(t)…敵と五条先生の距離
t…時間。敵が攻撃を繰り出した時間をt=0(秒)とする
e…1より大きい何らかの数字(円周率のπみたいなものだと思ってください。ここでは便宜上eとしています)

それで?

 数式だけだとイメージがつかないので、この数式をグラフに表してみます。縦軸f(t)が敵と五条先生の距離、横軸tが敵が攻撃を繰り出してからの時間です。縦軸の下に行けば行くほど距離が短く、横軸の右に行けば行くほど時間が経っていると思ってください。また、時間がマイナスになることはないので0よりも左側は無視してください。

止める力を表すグラフです。止めるというよりは時間が経つにつれて相手の速度がどんどん落ちて行くので永遠にたどり着けないのが止まっているように見える、というのが正確な表現です。

どうでしょうか。ここからグラフを言葉で説明していきます。
 このグラフではt=0のとき、つまり敵が攻撃を繰り出した瞬間の距離は1です(縦軸とグラフが交差している点が1なので)。そして、グラフを右にずらしていく、つまり時間がt=1秒、t=2秒…と進んでいくと距離がだんだんと縮まっていく様子が描かれています。
 ここでポイントなのがグラフの線がいくら右に行っても横軸に触れていそうで触れていない点です。上の図では横軸にくっついてるように見えますが、よく見るとギリギリ触れていません。本当に~?と思う方はぜひhttps://www.geogebra.org/graphing?lang=jaで同じ数式を入力してできたグラフを拡大して確かめてみよう!
 つまり、時間がいくら経とうとも距離は0に限りなく近づくけれど、完全に0になることはないということです。ずばりこれが収束、止める力です。
 無下限呪術ではこの数式の数字を変えたり、別の要素を足したりいろいろいじる(=デザインする)ことでこのカーブのキツさなどを変えられるのだと思います。カーブをゆるくしてすごーくゆっくり止めるのも、逆にキツくして急速に止めるのも自由自在ということです。作中で漏瑚と握手したときはカーブをゆるく、他のピタッと止めたように見えた場面ではカーブをきつくしたのでしょう。

元の数式(f(t)、緑の線)からカーブをゆるくしたもの(g(t)、赤い線)、きつくしたもの(h(t)、青い線)。赤い線はゆるやかに横軸に近づきますが、青い線は他よりも早く横軸に近づきます。

2.引き寄せる力と3.弾く力、それらを組み合わせた?茈

 引き寄せる力(蒼)は止める力と同様の数式になります。蒼もやはり時間が経つにつれて距離が短くなるという点は同じなので。蒼の場合は力の出処が敵ではなく五条先生になるイメージだと思います。
 しかし、弾く力(赫)は別の数式になります。学生時代に赫がうまくできなかったのは止める力や蒼の収束させる数式と違い、別の数式だったからでは?と想像できます。
 弾く力を表す数式をグラフ化してみるとこんな感じです。

時間が経てば経つほど距離が開いていくのを発散といいます。漏瑚くんかわいいですよね。

それぞれの文字の意味、グラフの見方はさきほどの止める力の時と同じです。でも、別の数式だって言ってたけどさっきの数式とほとんど同じじゃん?と思われた方、その通りです。eの右肩に乗っているtの前にあるマイナスがなくなっただけです。ここだけ違うだけでも描かれるグラフが別物になります。マイナスがプラスになっただけで時間が経つにつれてどんどん距離が離れていくような数式になります。赫を受けた無限秒後の漏瑚はものすごく遠いところに行ってしまいます。これを発散といいます。
 そして茈についてですが、作中の説明では「蒼と赫の収束・発散を組み合わせて仮想の質量を作り出す」とのことでした。ですが、数学を囓った身からすると単純に収束と発散を組み合わせても物を近くに寄せたり遠くに離したりを繰り返すだけで仮想の質量は生まれないんじゃないかな…とに思うわけです。
 そこで私が想像したのは、茈は虚数みたいなものを使って自然にはないものを生み出したのではないか、ということです。虚数とは同じ数字同士を掛け算するとマイナスの数字になるという自然にはありえない、数学の問題を便利に解くために人間が作り出した数字です。普通、1×1=1、(-5)×(-5)=25のように同じ数字同士を掛け算してもプラスの数字にしかなりません。虚数(一般的にiと書きます)同士を掛けるとi×i=-1のようにマイナスの数字になるように作られた数字です。このようなものを使っているのかも、と思いつつ結局のところ茈の理屈はよくわかりませんが自然界にない何かを使っている、というのであれば納得できそうです。数式というものは条件を揃えれば絵が描けたりとかなり自由にデザインできるので、茈を数式化するのも不可能ではないのでしょう。

おわりに

 無下限呪術ではこうしていろいろな数式を作ったりいじったりしたのを呪力で現実世界に顕現させる術式なんだと思います。数式みたいな概念的なものを現実世界に持ってきて物理的な力に変換できるって意味が分からないですね。六眼がないと無下限呪術を扱えないのもわかる気がします。
 実際にまじない(呪い)には数学を基にしたものが結構あるようで、数学(算術)は呪術とみなされていた時期もあったそうです。なので、五条家の祖先は数学者だったのかもしれません。きっと五条先生自身も無下限呪術の使い手としてしっかり数学教育されていたんでしょう。

 また、無下限呪術の基礎となったであろう収束・発散する数式(指数関数)や虚数という概念は、五条先生が高専2年生だった2006年当時のカリキュラムでは数学IIで習う範囲でした。ちょうど学校の授業で習ったのもあってピンチの時に赫や茈が出せたのかもしれませんね。学校の勉強って学生の頃は何じゃこれは…と思いながらテストのために勉強してたけど大人になっても意外なところで使うんだなあ。
 ということで、自分なりに無下限呪術を数学を使って解説してみました。そうか?そうだな、そうかもなという気分になってもらえたら嬉しいです。
 最後に、ジャンプ本誌ではあんなことになっており伏黒恵モンペの私は毎週メンタルがアレな状況ですが、アニメでこれから放映される渋谷事変編は伏黒恵が大活躍するシーズンでもあるので一緒に楽しみましょう。では、またどこかで。

おまけ:コミックスの解説との解釈違い

 冒頭で「コミックス15巻の解説の級数とはちょっと違うと思う」と述べました。コミックスでは規則的に変化していく数字、例えば1/2+1/4+1/8+…のように無限回数字を足していくとある数に収束する、と離散な数式で語られているのですが、現実は連続で語らないといけないので違うなと思ったためです。
 どういうことかというと、離散とは、時間で例えると「0秒、1秒、2秒、…とぶつ切りの単位しか存在しない世界」で、連続とは「1秒と2秒の間に1.5秒や1.000001秒などのもっと細かい数字が無数に存在する、なめらかな世界」です。現実はぶつ切りではなくなめらかな世界のはずなので、コミックスで表現されている∑(シグマ、離散を表す)ではなくて積分で出てくる∫(インテグラル、連続を表す)のほうがよいと思いました。グラフに表すと離散な数式は点をぽちぽち打つことで表現されますが、連続な数式は上記の解説のように線で表します。詳細はグーグル先生に聞いてみよう。
 ちなみにコミックスの数式を計算してみると、結果は1になります。直観的に考えると数字を無限回足しているのだからどんどん大きな数字になって収集がつかなくなりそうですが、規則的に変化していく1よりも小さく0よりも大きい数字を足し合わせていくと、ある数を超えることはありません。これも収束です。

数学Bで習う、無限等比級数の和の公式を使って計算しています。最終的に1に収束します。


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