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20230913 somnia

 夢を見た。

 私たちは名前を奪われていた。奪われていたとは言え、忘れてしまったわけじゃなく、その場では本来の名前を使ってはいけない決まりがあった。
 テーマパークのような体験型アトラクションのような、やたら広い建物の中にいた。一緒に回るチームの人数は7人くらい。リアルでの友人もいたが、大半は初対面の人間だった。
 私たちは誰もが望んでその場にいるわけではなかった。誰かによってここに送られた、という認識だ。
 建物の中にいくつかセミナールームほどの部屋があって、どの部屋に入っても摩訶不思議な体験をするのだが、各人に課せられていたのは「必ず生きて脱出すること」だった。
 とある部屋に入る。
 意識は微睡んでいて覚束ない。暗い部屋。ぞろぞろと歩いている場所を再確認すると、どうやら映画館だった。
 映画館とは言っても小劇場のようなもので客席は少なく、その割にゆったりと座れるふっくらとした座席が印象的だった。
 なんだか嫌な予感がする。誰かが言った。
 誰も座席につかずに通路で二の足を踏んでると、スクリーンに白いモヤのようなものが映し出された。私はすぐに「女の人だ」と気づいた。
 ホラー映画よろしく、黒髪の長い女が白いモヤのような長いワンピースを着てそこに立っていた。スクリーンに映し出されているのか現実なのか、まるで立体視を失ったような錯覚に陥る。
 誰も逃げなかった。これは、耐えねばならぬのだ。
 女がこちらに向かって走ってきた。
 あとは覚えてない。

 気がつくと、建物内のだだっ広くてやたら長い廊下をぞろぞろと歩いていた。
 誰も口をきかなかった。でも、私は気づく。
「ミズモトはどこ?」
 現実における私の友人がこの場で使ってた偽名を使う。誰も「知らない」という顔をした。
 脱落したのでは。そう思ってゾッとした。
 次の部屋に入る。
 そこは、体育館ほどの広さの宴会場だった。天井も高く、シャンデリアが吊り下げられている。テーブルや椅子は全て取り払われ、白衣の男たちが部屋の長手方向に転々と立って手を上げている。運動会の整列のように、その前に人々が並び始めていた。
 全員参加者だろうか。人が多い。
 「どこに立ってもいいみたい」と、誰かが言った。一番並んでいる人の少ない列に並ぶ。
 人々は落ち着きなく小声で喋っていた。今から何が行われるのか。
「身体検査を行います。並んだ列のまま、ついてきてください」
 白衣の男がスピーカー越しにそう言う。私たちは案内に従って移動した。
 隣の部屋に通された。
 隣の部屋も先ほどの部屋と同じく、広い宴会場のようだった。やはり長手方向に白衣の男が転々と立っている。なんだかよく分からない器具も置いてある。
 部屋に入る時、無表情の白衣の男に目薬を渡された。濃く赤い目薬だ。
  「その目薬を両目に一滴ずつさしてから、検査員の前へ行くように」と指示される。
 言われた通り目薬をさす。痛くも痒くもない。視界に変化もない。
 すでに検査員の前には何人か並んでいたので、私も列の後ろに並ぶ。何が行われているのか、覗き込んだ。
 謎の器具には両目の位置に穴があいてるらしい。被験者はその穴を覗き込んでいる。検査員は器具の上部についたレンズを一瞥して、「赤い」とか「赤くない」とか言っている。
 「赤い」と言われた人は、さらに別室に連れてかれた。それ以外の人は元の会場に戻っていく。そのまま脱出できる運びだろうか。
 嫌な予感がする。もしも、私の目が赤かったら。
 私の番が来た。器具は小さくて低いので、両膝を地面に立てて器具を覗く。
 鏡だった。私の目が、私の目の前に映っている。「あぁ…」と思った。目が、赤かった。
 「赤い」。そう言われて立たされる。別室に連れてかれる。先ほどまでの明るい会場とは打って変わって暗がりの、閑散とした部屋だった。

 目が覚めた。

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