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20220623 somnia

 夢を見た。

 会社の総務部に用があって部屋に入ると、なんだかざわざわと騒がしい。
 部屋の一番奥にある会長室の扉が開け放たれており、会長と社長(この二人は親子である)が誰かと面会しているようだ。雰囲気としては、面接と言っても良いのかもしれない。
 ふと、その部屋の手前にちょんと置いてある椅子に、見慣れた女性が座っていた。
「あれ? もしかして、鈴木?」
 数年前に退職したはずの、同期の鈴木京子(仮名)がそこにいた。冬の制服を着て、足を揃えて座っている。
 彼女は私を見るや否や、いつものちょっと困った風の笑顔で「こえちゃん、久しぶり」と手を振った。
 どうしたの、何があってここにいるの。
 私が尋ねると、鈴木は自嘲するように笑った。
「転職活動上手くいかんかってん。バイトで雇ってもらえへんか、面接に来たんよ」
 うちの会社は、辞める人間も多いが戻ってくる人間も時々現れる。もしも同期の鈴木が戻ってきてくれるのなら、私はとても嬉しかった。
「そっか。わかった、応援してる。気楽にね」
「ありがとう。また会おうね」
 そう手を振り合って、私は総務部の部屋に向き直った。

 場面が変わった。
 見慣れない中庭のようなところに立っていた。そんな場所は知らないのに、頭のどこかで「会社の中庭だ」と思っていた。
 外は暑い。けれど蒸し暑くなく、カラッとしている。
 そんな時、突如曇天に包まれ、空から白い粒がばらばらと落ちてきた。
「何これ、雪?」
「違う、霙(みぞれ)だ」
 夏に霙が降るわけない。
 周りの社員たちは、遠くに見える自社ビルに走っていった。私もその後を追う。
 ひんやり冷たい霙が、頭や腕にぱちぱちとぶつかってきた。

 場面が変わった。今度は自分の事務所だ。
 皆が静かにデスクワークに励んでいる。私もそれに倣って、パソコン作業をしていた。
 近くで、事務所の課長二人がデスク越しに喋っているようだ。仮名として、二見課長と米田課長とする。
「米田さん、もう少し働き方どないかなりませんか」
「自分は必要なことを必要な分だけ話しとるだけですよ」
 米田課長は常日頃から、部下や後輩を気に掛けて、口煩いくらいの声掛けをする上司だった。
 その口煩さは有名で、一度口を開き始めたら二時間程は仕事の手を止めてくどくどとお説教するのだ。
 怒っているわけではないし、ただ淡々とずっと喋っているだけなのだが、声が大きく、終わりが見えない。説教されてる側も仕事の手を止めざるを得ないので、何かと迷惑行為となっていた。
「そんなんだから、クレームも多いんですよ」
 二見課長の声のトーンが、どうもまずいと感じた。パソコン越しに二人を見やる。
 何故か二人とも、本気で怒った顔をしていた。二見課長は確かに、ヒートアップすると声を荒げたり怒ったりすることもあるが、米田課長が怒ることはあまり無い。
「あなた、すぐ頭に血が上るでしょう」
 二見課長のその発言後、ややあって、どんっ!と机を殴る音が聞こえた。
 びっくりして、米田課長に目を向ける。顔を真っ赤にして、見たことのない形相で怒っていた。どうやら、米田課長が拳で机を叩いたらしい。
 二人はしばらく無言で睨み合っていた。

 目が覚めた。

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