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20220802 somnia

 夢を見た。

 知らない町に立っていた。まあまあな都会だったと思う。時刻はおそらく夜で、会社帰りのくたびれた大人たちが足速にあちらこちらへ向かっていた。
 私も歩いていたのだけど、目的地があった。
 店の立ち並ぶ小路。その一画に、某有名コーヒーショップが立っていた。テイクアウト専門で座席は設けておらず、注文と手渡用のカウンターがあるだけだ。
 女性店員が三人、忙しく働いている。カウンターの上で煌々と点灯しているメニューには、新作らしい飲み物の写真が一際強く主張していた。ピンク色の見た目の、いちごか何かの、甘そうな飲み物だ。
 私の目的はそれだった。新作のそれを買いに来た。
 列に並びながら、あまりこういう注文に不慣れであったので、何と言って頼もうかシミュレーションをしていた。
 私の前に立っていた、オシャレな印象のスーツの男性がカウンターに寄りかかる。
 何やら難しい注文をしており、明らかに常連風を装っていたが、カウンターの女性は少し困ったように眉尻を下げた。
「申し訳ございません。そのようなご注文は承っておりません」
 駄目だったらしい。
 男性は渋々と、その場を去っていった。
 私の番だ。ちゃんと注文できるか緊張し、握り拳をぎゅっと作る。
 その瞬間、頼みたかった飲み物の名前をど忘れした。カウンターの女性に「ご注文は?」と聞かれ、しどろもどろに目線を彷徨わせる。
 焦るように、メニュー看板を指差した。新作のピンクの飲み物を指差す。
「あれを、レギュラーで」
「かしこまりました」
 なんとかオーダーが通ったらしい。良かった。
 その時ふと、別の店の前に立っているモニターが目に入った。町のPR用の映像が流れているようだ。
 驚いたことに(実際には来たことなどないが)、以前、高校時代の部活の同期メンバーとこの町に遊びに来た時の映像が延々と流れていた。
 あまりの懐かしさに、呆気に取られてじっと見つめる。
 私が写っていた。笑顔だ。その周りに友人達がいる。まだ、子供の頃の私たちだった。
 ぞろぞろと並んで、これからカラオケにでも行くのかもしれない。
 そんな映像を見ているうちに、ほんの少しの寂しさと、懐かしさと、暖かさに涙が溢れた。

 場面は変わり、私は列車に乗っていた。
 列車とは言うが、一番前の車両は窓もなく、座席もない。一つの研修室くらい異様に広い空間で、ただ確かに列車の音と揺れを全身に感じていた。
 思い出した。今日の朝礼はここでするのだ。
 自分は少し早めに来て、様子を伺っていたのだ。仕事の朝礼だったか、別の朝礼だったかはあまりよく覚えていない。
 なにぶん揺れが激しい。
 壁際に座り込んで、揺れを耐えていた。
 そこに、この列車を手配した若い男が現れる。
「乗り心地はどうだろう」
「悪くはないけれど、手すりが欲しかった」
 手すりがないから、立とうにも壁を伝う必要があり立てない。
 若い男は頭を抱えて「そうか、手すりを忘れていた」と呻いた。
 しばらくすると、何人かの同世代くらいの女性が車両に入ってきた。彼女らも列車の揺れに耐えられず、壁際まできて座り込んでしまった。
 私も彼女らの元へ駆けつける。
 そのうちの一人が、私にスマホを見せてきた。
「新作のゲームを作ったから、遊んでみてほしい」
 画面には、煌びやかなキャラクター達が駆け回っていた。動作もスムーズで、キャラクター個人個人の特色も興味深く、ストーリー構成も良さそうな気配を感じた。シンプルなゲームだったが、のめり込む人はいそうだ。
 すごく面白いよ、私もダウンロードしたい、とその子に伝える。その子は嬉しそうに笑っていた。

 目が覚めた。

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